入学式前日
ナイツ・ゲーム。
それは魔物蔓延る世界で爆発的な人気を集めるゲームだ。
最大五人でチームを組み、それぞれの役割を果たし敵を討つ。
ナイツ・ゲームで一生稼げる人材は多くナイツ・ゲームで稼がずども魔物を倒す傭兵や討伐隊、そして本物の騎士などナイツ・ゲームをした人間の受け皿は広かった。
◆◆◆
「このクズ野郎!!」
殴打。
「何で日程の伝達ミス何てしたんだよ!!答えろよ!アスレイ!!」
殴打。
ひりつくような痛みが腹部を劈く。
「ぉ、俺は…ナイツ・ゲームがしたかっただけだ…」
拳の雨は止まない。
随分と懐かしい…クソな記憶を思い出してるな。
この時は…確か七歳位か。
ナイツ・ゲームのクラブチームで…そうだ。五対五の交代有りの試合だったか。
さて、覚めよう。
悪夢はもう嫌だ。
◆◆◆
案の定夢だった。
ふぁーっと大欠伸を一つ付き時計を眺める。
早起きは得意なもので夜が明けてすらいなかった。
「…って、深夜じゃねえか」
二度寝を決め込む気にもなれず家を抜け出し外を走ることにした。
幸い母と妹はぐっすりと眠っており抜け出すのは容易そうだ。
玄関を開けると春に似つかわしくないムワリとした空気が流れ込んだ。
暗い部屋で目が慣れた俺は何時ものランニングコースを走る。
「はっはっはっ…」
リズミカルにテンポよく足を踏み出すと案外しっくり来るもので悲しいかな、昔の日課を想起してしまう。
(……)
頭を振り過去へ向かいそうな思考を切り捨てる。
俺はもうナイツ・ゲームはやらないのだ。散々家族に迷惑を掛けたし、ナイツ・ゲームは金銭の負担も大きい。
兎に角、俺は平穏な生活を望んでいた。
河川敷の方面に向かうと空は暗澹として星の一つも見えやしない。
ここは眠れない時のベストプレイスなのだ。晴れてさえいれば満天の星空とまでは行かないが半田舎の星空が臨める。
何だか変な胸騒ぎにも似た感覚を覚えた。
月並みだが、まるで空が行く末を暗示しているかのような、そんな感じ。
俺には刺激は要らないのだ…。
◆◆◆
翌日。
どうしても目が冴えて眠れなかった。
だからそのまま起きていた。
新品の制服に袖を通すと「お兄ちゃん、ご飯!」と妹の朝ご飯コール。
それに気の無い生返事で返しリビングに向かう。
今朝のご飯は無難なトーストに目玉焼き、そしてサラダ。
至って質素な朝食だ。
行儀悪く欠伸をしながらそれらを腹に納めると妹が絡んできた。
「お、お兄ちゃん似合ってるじゃん。流石学園生だね!」
「そうだな。俺もしっくり来てる」
学園生ー。
そう、日本から転移した勇者が世に太平を齎し魔物の進撃を押しとどめる壁を作り壁の中で俺達は暮らしている。
そして勇者はあらゆる内政や文化に革命を齎し、法の制定、果てには学制すら設けたのだ。
勇者は今も老人だが存命で曰く。
「故郷並の文化レベルにはなったかのぉ…。魔法が無いのは残念じゃが」
だそうだ。
因みにこれはテレビのインタビューの際の返答らしい。
と言っても中学での最後の抜き打ちテストで出されて詰んだから覚えているだけだが。
さて、そんな夢と希望溢れる学園生の俺だが、やはり憂鬱である。
理由は入学式の後に控えるオリエンテーションもそうだが、『部活は早期に』『食わず嫌いは駄目』という見上げた建学精神により我が校は三日目にして直ぐに部活動見学会…擬似体験会が行われる。
通常授業よりかは帰りが早いのは有難いが若干でしかない。
そして、問題なのがナイツ・ゲーム 部の存在だ。
俺はこれのために両親に頭を下げて都会から引っ越して貰ったのだ。
「……」
「どうしたのお兄ちゃん、眉間のシワメッチャ寄っててキモいよ」
「…何でもない」
俺は憂鬱も不安感も覆い隠して笑いかける。
「うわぁ、本格的にキモいわぁ」
程よくキズついたところで入学式に行くとするか。