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臨海学校

まあ、あまり考えないで読んでください。こっちもあまり深く考えずに書いたんで。一日で書き終えました。

俺のクラスはかなりの変わり者クラスだ。この山之内中学校の中でも、かなりの変わり者が揃っている。まあ、こんな田舎だから個性が目立つのかもしれないが。朝の涼しい空気が、教室の窓から吹き込んでくる。梅雨も明けてもうすぐ夏だから、皆夏服をきていたので、ちょっと寒そうにした。俺以外は。俺の夏服は、母ちゃんがうっかり庭においてあった俺のサッカーボールにつまずき、母ちゃんが物干しにぶつかってしまったもんだから、夏服は風で飛んでいってしまい、今は多分この山間の町のどこかにあるはずだ。まあ、昨日のことだがな。

 俺の前の席に座っている、痩せた、坊主頭の男子がこっちを向いた。

「おい、夏川、おまえいつになったら共同課題の自分の分、やってくれるんだよ。もうすぐ提出だぞ? しかも、おまえ、同じ飼育係なのにずいぶんとさぼってるじゃん」

 こいつは赤崎信太郎。俺の小さい頃からの友達だ。世話好きで、いつもみんなの世話をしている。但し、ルーズな人に対しては厳しい、男なのにまるで女のようなマメさと気配りだ。その細かさと真面目さから、いつも成績はトップだ。しかし、ちょっと体が弱い面がある。

「わりーわりー。ちょっと最近、疲れててよ。明日持ってくるから」

 すると、僕の机の横に、太っちょの目が細い男子が来た。

「夏川―。お前今日暇か?」

同じく友達の、森田剛史だ。森田の父親は大工をしてて、森田の髪の毛にはしょっちゅう木屑がついてる。今日も髪の毛にはよくみると小さな木屑が沢山ついていた。森田は対照法を使わずともわかるほど赤碕とは対照的であり、赤碕が成績優秀であるのに対し、森田はいつも赤点からギリギリ逃れているような感じであり、しかし赤碕とは違い体力が有り余っている。体育の時間ではいつもヒーローで、運動会の時は尚更だ。スポーツなら何でも来いの森田は、勉強なら何でも避けたい、とこの前言っていた。

「ああ、暇だ」

俺は即答した。

「えっ!? 宿題は? 飼育当番は?」

と、すかさず赤碕がつっこんだ。

「だったら、またうちの木工所で荷物運び手伝ってくれないかな、父ちゃんがぜひって」

「あぁ・・・まあ、考えとくよ。明日返事する」

「いや、今日だから、手伝い」

「面倒くせーなー。なんだか何もやる気にならねーや」

 その時、黒板のほうから、一人の女子が僕の机の所まで歩いてきた。

「夏川君、ちょっといい?」

 俺は背筋を急にまっすぐに伸ばし、

「は、はい! な、なんでしょー?」

と、変な声で答えてしまった。

「最近ちょっと、なんだか学校のウサギの元気が無いみたいだから、夏川君が何か知ってるかと思って」

「あ、いや、何だろーね・・・ハハハ・・・」

「(それは夏川がサボってるからだよ〜ん)」

と、森田が小声で言ったが、俺はすかさず関取くんのわき腹に、誰にも見えないようにエルボーを入れた。森田は「ウッ」と言って前にかがんだ。

「そのうちよくなると思うよ」

と、俺は根拠の無いことを言った。

「そう、ならいいんだ。ちょっと安心した。ありがとう、夏川君」

そういって、その女子はまた黒板の所まで行った。多分今日の日直なんだろう。名前は沖野美奈。名前からしてももう既に麗しい人だと思う。この子に実はとんでもない片思いをしているなんて、言える筈も無い。性格は優しくおしとやかで、美しいから競争も激しいなんてもんじゃない。誰もが憧れている、マドンナ的存在だ。この沖野ちゃんへの片思いは、森田と赤碕にはいささかばれているんじゃないかと思うが。

ホームルームの始業のベルが鳴り、皆急いで席に着いた。そして、教室に先生が入ってきた。この2−Bのクラスの先生も、実は相当の変わり者だ。三十代後半なのに、茶髪。そして、学校にはいつも下駄で来ている。髭はめったにそらないので、「ひげもじゃ先生」と呼ばれている。ひげもじゃ先生は、都会的なんだか田舎的なんだかわからない。最新の音楽プレーヤーを持ち歩きながらも、入れている音楽は、このあたりだけで有名な、三味線の先生の音楽や、祭の日に録音した民謡を入れていたりする。コンピューターも最新のがあるらしい。それでも、休日は神社あたりの子供に混じって虫取りをしているのをみたことがある。全く掴みどころがない先生だ。しかも、最近結婚したらしい。だから、たまに「新郎先生」と呼ぶ生徒もいる。そんな先生は、教室に入るなり、こう言った。

「えー、そろそろ毎年恒例の臨海学校の計画をしたいと思いますんでねー。みんな、色々と考えていてくださいねー。皆、普段から川辺で遊ぶことはあっても、海に行くことは少ないと思うんで、今年の2−Bの夏休みの計画は、臨海学校に決まりました〜」

 教室のみんなはざわめいた。臨海学校だと。どんなものなんだろう。漫画ぐらいでなら、代表的なものは見たことがある。

「先生、何処に行くんですかー?」

と、誰かが聞いた。

 先生の分厚いメガネが怪しく光った。

「それは、当日のお楽しみ」

 別の生徒が聞いた。

「どんなことをするんですかー」

「んー、まあ、べたな行事ばかりじゃないかな。でも、一応幅広い行事があるよ。どれをやるかはまだ決まってないけどね。海水浴、釣り、ハイキング、潮干狩り、肝試し、などなど・・・」

 そして、みんなが質問を一通りし終わると、先生は付け加えるように言った。

「あ、ちなみに費用は勿論自費で、五日間の旅で一人五万円。宿泊代・食事代込みでね」

 クラス全体からブーイングがあがった。すると、またメガネが怪しく光った。

「あ、先生考えた。今回の五万円の費用は、全部働いて稼いでもらおう。ちゃんとアルバイトや手伝いをして、それを証明したお金じゃないと払えないことにしよう」

 このときのクラスのブーイングは酷かった。でも、先生はのらりくらりとかわし、結局お金は全部アルバイトして溜めることになった。アルバイトか・・・ここら辺にアルバイトできるような場所ってあったっけ? 何せこんな田舎だ。コンビニエンスストアでさえ何キロか先にしか無い。しかも五万円を溜めるんだから・・・。バイトした分は全部それに当てないと・・・。

 すぐさまクラスには、バイトの情報争奪戦と、バイト確保の争いが始まった。誰もがアルバイトできずに置かれていくなんてことにはなりたくないので、お互いに押しのけながらバイトの情報をつかみ合った。先生は、そんなクラスの情景を楽しんでいるようだった。どんな先生だよ。

「なあ、俺たちバイト見つけられるかな・・・」

と、赤碕が気弱そうに言った。

「バイトするところがまずないもんな。ここら辺で働く方法は、家業を継ぐか、どこかに弟子入りするか、ぐらいだもんな」

と、俺は答えた。

 森田がしばらく考えていった。

「俺の親父の仕事でバイトできっかもしれないぞ」

 森田がそういった瞬間、クラス中の目が森田に向けられ、教室は急に静かになった。

「・・・今なんと、森田君? 今よく聞こえなかったが、確かに「バイト」と聞こえた。バイトするところがあるのかね?」

と、クソ真面目な学級委員長がメガネを直しながら言った。

俺は慌てて、

「ハハハ、そんなに真面目な顔をしなくてもいいよ、金木君。えっと、森田君の親父が、デバイ・・・きっかけ・・・あ、物理学者のデバイの研究のきっかけが知りたかったって話をしてたんだよ。デバイと誰があの素晴らしい研究をしたのかって、ね。ほら、いま物理で習ってるじゃん、デバイのこと」

 あんなにも滅茶苦茶な言い訳が何故通ったのか、ただ委員長が聞こえてなかったのか、それとも単に馬鹿なのか、とにかく木工所のバイトは俺たちだけのものとなった。

「で? いつ行ったらいいんだ?」

と、俺は森田に聞いた。

「さあ・・・親父、結構気まぐれだからね。まあ、明日には返事してくれると思うよ。明日、学校が終わったら俺んちの木工所に来てよ」

と、森田は頭を掻きながら言った。


 そして、次の日。

「おーい、来たぞ〜」

 俺と赤崎は、一度家に帰って着替えて、そして木工所の前に待ち合わせた。そして、しばらくすると、ドス、ドスという音と共に、建物の中から私服の森田が出てきた。私服の森田は、ますますその太っちょさが目立っていて、少し動いただけなのに汗を沢山かいている森田に、思わず俺と赤崎は笑ってしまった。

「中に入ってよ。親父、待たされるの嫌いだから」

俺と赤崎は森田に先導されて建物の中に入った。さすが大工の家だけあって、構造は勿論、木目の出し方や、細かい装飾なども素晴らしかった。長いヒノキの廊下の先にあるお茶の間に、森田の父親はいた。

森田の父親は見るからに頑固そうな職人で、長年の仕事で、日焼けは肌にしみこみ、タバコを吸っている手はごつくなっており、顔も長年の疲れや喜び、怒りなどの感情を蓄積しているようなしわだらけの顔であった。

「おう、剛史、こいつらか? 大工に弟子入りしたいってのは」

 いきなり話が違うではないか。

「違うよ、親父、こいつらは俺と同じく、今度の臨海学校に行くためにお金をためなきゃいけなくて、それで働かなきゃいけないんだよ」

と、森田は言った。

「まあ、なんでもいいが、ここで働いている間は弟子のように扱うからな」

と、森田の親父は言った。

「は、はぁ・・・」

俺と赤崎は、何を言えばいいのかわからなかった。

「それと、俺のことは師匠と呼べ」

「は、はぁ・・・」

 こうして、俺たち三人はお金を稼ぐのであった。


 師匠の教え方は時には荒かったが、流石に技術は凄く、俺と赤崎は新しい大工技術を得て、何か大きいものを手に入れたような気になった。そして、時はあっという間に過ぎ、俺と赤崎と森田は宿題と当番や係りの仕事の合間に、一生懸命働き、やっとの思いでそれぞれ五万円を溜めた。溜め終わった時には、五万円がとても尊いお金に見えて、先生に渡すのが惜しくなってしまうほどであった。

「ハイ、確かに受け取ったよ、三人分で十五万円。そして、森田君のお父さんから、ちゃんと働いたっていう証拠。これでもう大丈夫だよ」

 ひげもじゃ先生はお金を受け取り、大事そうに封筒に入れて、金庫の中に入れた。


そして、それからまた二週間ほど。クラスのみんなも、続々と溜め終わり始め、金庫の中にはどんどんお金が追加され、みんなの顔から段々疲れが消えていった。時はあっという間に過ぎ、いつの間にか夏休みの前日になっていた。もう天気はがらりと変わり、毎日が暑かった。

「えー、みんな、よく溜めました。感心してます。先生、感心してますよ。まさかクラス全員が出来るなんてね。これで皆、晴れて臨海学校に参加できます」

と、ひげもじゃ先生は言った。

 クラスから歓声のようなものがあがった。皆嬉しかったんだろう。

「出発のバスは明日出ます。学校に朝の六時に来てください」

クラスのみんなは、元気よく返事した。誰もがウキウキして、明日に向けてわくわくしてた。

「あと、これは旅行中の宿題、百数十ページです」

 クラスのみんなはものすごい勢いで落ち込んだ。


 出発の朝。朝六時なので、まだ太陽は昇りきっておらず、山々は不思議な青緑になっていた。俺が学校に着くと、几帳面すぎて多分一時間前からいたであろう委員長が、校庭に一人で立っていた。俺がつくと、すぐに赤崎と森田もつき、そして、七時までには皆揃っていた。そしてバスがきた。バスの運転手は、こんな田舎まで運転してくるのにうんざりしていたんだろうが、そんなことは微塵も感じさせずに、すがすがしい笑顔で2−Bを迎えてくれた。

 そして延々と手入れされて無い、凸凹の道路を走り、ぐらぐらバスに揺られること五時間。やっと海に着いたが、その蒼さにも目を向けられないほど、みんなは精根尽きていた。勿論俺も。

「まさかあんなにゆれて、しかもあんなに長い道のりだったなんて・・・」

と、赤碕が気持ち悪そうに言った。

 バスの横では、まだ吐いている人たちがいた。あまりにも吐いている人たちが多かったので、海の家の人に集団食中毒に遭ったんじゃないかと思われた。

「は〜い、じゃ〜・・・旅館はこっちですよ〜・・・」

ひげもじゃ先生もかなりこたえたようで、顔色が悪かった。

 そんな中で、森田は着くなり「ヤッホーィ!」と叫び、シャツを脱ぎ、なんと既に海パンを履いていて、一直線に青い海に向かって走っていった。

「何で・・・? 何であんなに走れるんだ? あいつは・・・」

と、赤碕が疲れた顔で言った。

「まあ、あいつは体力馬鹿だから・・・」

と、俺はやっとのことで答えた。

 海で遊んでいる森田はほうっておき、とりあえずみんなは旅館にチェック・インして、大半の生徒がそのまま寝た。

「はい・・・、じゃあ午後七時にこのロビーにまたしゅ〜ご〜・・・」

と言い残し、ひげもじゃ先生もそのまま寝た。

 同じ飼育班の赤崎は、その他四人と一緒に相部屋だった。俺も赤碕もそのまま寝た。旅館のすぐ裏は海だったので、窓の外から人々の楽しそうな声が聞こえた。特に森田の声が目立ったような気がした。恨めしかった。


 午後七時。眠りに眠ったみんなは最高にリフレッシュした、というような顔で、ロビーに集まってきた。森田はあれだけ遊んだのに、まだ元気バリバリというような感じであった。真に体力馬鹿だ。

 集まったみんなはそのまま食堂で御飯を食べ、そして、浜辺を散策した。

 俺は例によって赤碕と森田と一緒にいたのだが、二人はそれぞれ好きな方向に走っていってしまったので、俺は少し岩の陰に座って休んでいた。

「あ、夏川君、ここにいたんだ」

・・・ん? このずいぶんと聞き覚えのある声は・・・?俺が後ろを見ると、そこには旅館の浴衣姿の沖野ちゃんがいた。うわーっ! 俺はあまりにもビックリしたので、岩場から滑り落ちて、砂に頭から落ちてしまった。

「・・・夏川君は、海とか来るの初めて?」

と、沖野ちゃんは聞いた。

 うわー、何だこの状況!? 岩場に二人で座っていて、話してる・・・! どんなにこの状況のことを夢見たことか!

「うーん、あ、いや、初めてじゃ・・・ないかな。前に一回、父さんにつれてきてもらったことがあるよ」

「へー。私は初めてなんだ。あまりあの町から出たこと無いんだよね、うちの親は旅行嫌いだから」

俺は横を見た。月明かりと浜辺の光が海に反射して沖野ちゃんの顔に当たっている。うわー、可愛いなー、沖野ちゃん・・・。

 少しの間、沈黙が続いた。そして、二人がいっぺんに喋った。

「えっと・・・」

「あの・・・」

「あ、沖野ちゃんからどうぞ・・・」

「夏川君からでいいよ・・・」

「・・・」

また沈黙が続いた。岩場の向こうでの浜辺では、クラスのみんながわいわいやってた。

 やっと沖野ちゃんがしゃべった。

「夏川君は・・・好きな人とかいるの?」

 どわーっ! 何故そんな質問を〜っ!? 答えられるはずがないでしょう! 俺は顔が赤くなったので向こうを向いた。

「・・・さ、さあ・・・。どうだろうね・・・」

俺は一瞬にしてこんな意味も無い言葉を吐いてしまった自分が嫌いになった。

 すると、俺の背中に何かもじゃもじゃした毛のような感触がした。この感触はまさか・・・。

 急に後ろにひげもじゃ先生が出てきた。

「よっ、沖野と夏川! あっちで集合だぞ!」

俺も沖野ちゃんもビックリして岩場から落ちそうになった。

「あ、はい、わかりました・・・」

と、沖野ちゃんは小走りで集合場所に行った。

 ひげもじゃ先生の後ろを歩きながら、俺は

「先生・・・いつからいたんですか・・・?」

と聞いた。

「う〜ん、それは難しい質問だねぇ」

ひげもじゃ先生は立ち止まり、僕の方を向いた。

「夏川君、さっきのムードなら絶対、愛の告白じゃないのかな? そんなムードだったよ」

「あ、あ、愛の告白!? な、何言ってるんですか、先生!」

しかし、俺がいくら先生の行動や言動について問い詰めても、先生はただスキップしながらなにやら怪しくメガネを光らせるだけであった。


 集合場所につくと、先生は唐突にも

「今から肝試しをやりましょう!」

と言った。

当然、突然のことなのでクラスのみんなからは不満の声も出た。

「あ、間違えました、肝試しをやりますよ」

そういうと先生は、みんなを少し海辺の山の中へと連れて行った。

「ここには、一応旅館の人たちが協力してくれて色々と整備してあるから、安全面はオッケーだよ。多分。旅館の人たちを信用しましょ。みんな、ペアで行って、一組ずつ、道の先にある神社のお札を一つ取ってきて貰います。じゃあ、ペアを決めますよ」

 俺は何だか不安だった。先生のことだ。自分も参加して驚かすぐらいするに決まっている。案の定、またしてもメガネが怪しく光っていた。

「一組目! 有沢と櫻田!」

有沢と櫻田ちゃんが不安そうに前に出た。クラスの馬鹿どもからは「ヒューヒュー」との冷やかしの声も出た。

「二組目、三神と岸和田!」

 三神ちゃんと岸和田が前に出た。そして、その調子でどんどんペアは組まされていった。先生も絶妙な組み合わせで、意外と仲がよくなるかもしれないカップリングをしていた。何故先生はこういうところで無駄に凄いんだろう・・・。

 そして、いよいよ大体みんなも終わり、あと残る所数名になる。

「次の組! 森田と赤碕!」

クラスのみんながどっと笑った。

「先生! 何で僕達だけ男子同士なんですか!」

と、森田と赤碕が声をそろえて言う。

「だって男子の方が多いんだからしょーがないじゃん、こんなことになっても」

と、先生がやる気なさそうに言った。

「森田くん、赤崎ちゃんを守ってあげてね〜!」

と、男子の誰かがからかった。

森田と赤碕が帰ってくると、

「なんだかすっげー怖いのがいたぞ! あまりにも怖くて逃げてきたんだぜ! 追いかけて来るんだからビックリしたよ!」

と言った。

 俺は嫌な予感がした。

 いよいよ最後の組。

「最後の組! 沖野と夏川!」

 男子から一斉に「あ〜」という、残念のような、悔しがるような声が上がった。そして、同時に女子からも悔しがるような声が上がった。何? 何? 俺そんな女子に人気あったの? そんなようには思えなかったけど・・・。

 懐中電灯一つを手に、沖野ちゃんと俺は暗い道へと乗り出した。俺の目標としては、ここで是非とも沖野ちゃんへ、俺の勇敢さ、頼もしさをアピールしたい所だったが、不幸なことに、沖野ちゃんは怖がりなのか、最初っから俺の手を握り、俺のすぐ後ろにへばりついているままであった。沖野ちゃんはずっと俺の浴衣の背中の布を掴んで話さず、歩きながらも恐怖から俺に寄り添っていた。俺はドキドキしてて勇敢に振舞う所ではなかった。

 行きの道は何故か、お化けや怖がらすものは何も出なかった。俺はほっとした。そして、神社でお札を取った俺たちは、そのまま来た道を引き返した。

 引き返し始めてから数分して、何かおかしい雰囲気になった。何か凶暴なものの気配がした。聞こえるものといえば落ち葉が踏まれる音であったが、それがどの方向から来ているかはわからなかった。すると、急に俺たちの行く道をさえぎるほど大きい獣が出てきた。暗くて何が出てきたかはわからなかったが、黄色い目が暗闇の中から、俺たちを睨んでいた。とにかく大きく、恐ろしく、毛深くで俺としてはもう無理だった。しかし、沖野ちゃんが俺の背中にへばりついている限りは例え死んでも弱気になれなかった。

 月が木の間に差し込むと、その獣の正体がわかった。大きなイノシシであった。しかも、かなり凶暴な。その角には、服の切れ端などがついていた。もしかして、旅館の人がお化けとして出てこなかったのは、このいのししに襲われたから!?

「グルルルルルウ・・・」

イノシシは不気味な鳴き声をあげ、構えていた。そして、ものすごい勢いで突進してきた。俺は沖野ちゃんを掴んで一瞬にして横に避け、また避け、そしてまた避けた。しかし、これではらちがあかないので、ちょっと工夫をすることにした。反射神経には自信がある。俺は沖野ちゃんを途中で気付かれないように木の後ろに隠れさせ、俺はイノシシを引き付けて、大木の前に立った。

 イノシシがものすごい勢いで突進して来た。俺は最後のギリギリの瞬間で避けた。イノシシはものすごい音と共に大木にぶつかり、まるで頭蓋骨にヒビが入ったかのようによろめき、倒れた。

 俺は沖野ちゃんの所にかけよった。

「大丈夫だよね、怪我は無いよね?」

 沖野ちゃんは俺の顔を見て笑い、

「夏川君、凄く勇気があるんだね。凄く頼もしくて、カッコよかった!」

といって俺に抱きついた。俺はもう死んでもいいと思った。


 結局、イノシシは隣の山脈から迷い込んでしまって凶暴になってしまったものであり、旅館の従業員はちょっと体当たりされただけで気絶していただけだったそうだ。

 臨海学校は残る所あと四日。明日の自由時間は、沖野ちゃんが二人きりのハイキングと山菜採りに誘ってくれた。俺は幸せだ〜っ!


明日が楽しみだ!


友達からのお題は「恋愛」で、キーワードは辞書から適当に「対象法、新郎、日直」の三つでした。もうよくわからない作品になっちゃいましたが、アドバイスとか注意、ダメ出しとかあったら言ってください。

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