最終章 幽霊
「祐也......」
俺の本当の名前を呼ばれ、思わず振り返ると、親友だったアイツがいた。
「......。」
「天狐でいいよ、今は。」
なんと呼べばいいのか迷い、何も言えずにいると、天狐が笑って言った。
「天狐......俺は____」
「何を言うつもりかわかってる。でも、言わなくていいよ。祐也はもう、八城鷹犖だ。」
「でも......」
「はいはい、もう愚痴は聞かないよー?ほら、もうメソメソしない!又崎さんが待ってるよ?」
天狐の後ろに、ユーレイが心配そうな顔をして立っているのが見えた。
「僕はもう行かなくちゃいけないけど、又崎さんに心配かけないようにね?」
「......あぁ。」
俺が言うと、天狐は満足したように消えていった。
それとほぼ同時に、ユーレイがこっちに近づいてきた。
「ユーレイ......」
俺が呟くように言うと、ユーレイは少し笑って言った。
「瓢が能力の使い方を教えてくれたんです......。私に出来るのは、このぐらいしかないし......。それに......______」
そこで一度言葉を止めて、俺の方を見た。
「私が......私が八城君のそばに居るから。天野先輩の分もずっと......。だから......だから、八城君は1人じゃないから.........。」
その言葉が少し恥ずかしく、でも、どうしようもなく嬉しくて.........。
「......ありが......とう......。又崎零子.........。」
今まで俺が礼を言ったことがなかったからだろう。
もしくは、初めて名前で呼んだからだろうか?
彼女は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって言った。
「こちらこそ。どういたしまして、八城君。」
この時、俺の中でやりきれず、どうしようもなかった想いがすうっと消えたような気がした。
「八城君、早く帰ろう?」
「あぁ。」
返事をしてから、夕日に照らされ、赤く色づき出した空を見上げた。
「俺は......これからも八城鷹犖として生きてもいいんだな......。」
一言呟き、俺はゆっくりと歩き出した。
明るい、明日へと向かって.........




