第5章 天狐
「ぬらりひょん......いや、総滑瓢!いるんだろう?出て来い!」
八城君が言った瞬間、私達の目の前に、短い黒髪で、にこにこ笑顔を浮かべた、黒主流の着物を着た男......というよりも、青年が現れた。
「あ~あ、見破られちゃいましたねぇ~。流石です。天狗一族の生き残りさん♪」
「やはり居たか。妖怪大将、総滑瓢。」
にこにこ笑顔の青年、瓢とは違い、少し険しい顔をした八城君。
でも、あれ.....?
「今、八城君の事を天狗って......。」
「ええ、その通りですよ、ユーレイさん。彼、八城鷹犖さんは、四百年前に滅びたはずの、天狗一族の生き残り......。ですよねぇ~、八城さん♪」
「誰かさんのお陰でな、瓢。」
八城君が顔をそらして言った。
「あれれっ?もしかして、八城さん。なにか勘違いをしてませんか~?」
「勘違い......だと?お前らぬらりひょんが俺の家族や親友......一族を滅ぼしたのだろう!?俺は......俺はあの時、たしかにお前の顔を見たんだぞ!?」
「えぇ~。酷いなぁ~。心外だなぁ~。天狗を滅ぼしたのは、僕達じゃないですよ~。」
「......なっ!?」
「ど~せ、僕に化けたアイツの仕業でしょ?何でしたら、本人に直接聞けばいいじゃないですかぁ~。僕がここに来た目的の一つは、このことを教えるためですしねぇ~。」
「おい、どういう事だ!?」
「どうしたも、こうしたもないですよ~。本当はもう、いつでも出てこれるというのに、ずっと機会を伺ってたんでしょ?そろそろ正体を現したらどうですか~?ねぇ__________________________天狐さん?」
「っ!!」
瓢が『天狐』と言った途端、天野先輩が苦しみ出した。
「ごめん......祐也......」
「天狐!?まさかお前......_____」
八城君が何かを言おうとした時、天野先輩の周りを金色の光が包み込み......_________
あまりの眩しさに、私は思わず目を閉じた。
しばらくして、目を開けた私が見たのは_________
_______毛と眼が金色に輝き、尻尾が九本ある、美しい狐......つまり妖怪『天狐』だった。
あまりの美しさに、私が見とれていると、天狐がそっと口を開けた。
「数百年にわたる長き年月......。どれほど長く感じたものか......。」
「あぁ、そうか......そういう事か.........」
「八城君......?」
八城君の様子が少しおかしい.........。
「お前......だったんだな......。ぬらりひょんに化け、俺の一族を滅ぼしたのは.........。」
「ほぉ。あの時の天狗の生き残りか。あぁ、そうか。今まで我に取り付いておった、あの生意気な魂は......、お主の親友といったところだったのだな?」
「やはりあいつは、お前を封じ込める形でお前に取り付いていたんだな!」
八城君が天狐に向かって叫ぶ。
「あの~......。私には何が何だかさっぱりなんですが......。」
「僕でよければ説明しますよ?」
振り返ると、いつの間にか私の後ろに、瓢が立っていた。
「今まで貴方達といた天野さんは、目の前にいる天狐を封じ込める形で取り付いていた人物。つまり、八城さんの親友だった人物の魂だったんです。ついさっき気配が消えたので、天狐は本来の姿を取り戻した......という訳ですよ。」
「ど......どうも......。」
私はぎこちなくお礼を言って、再び2人の方を見た。
「天狐!お前の目的は何だ!!」
「さぁ?お主に教えても仕方なかろう?これは復讐だ。天狗は滅ぼさなければならぬ。よって、お主には死んでもらうぞ!」
「そう易々と、俺がやられる訳がなかろう?」
そう言って、八城君が右手を前に突き出した。
その手には、いつの間にか謎の剣が握られていた。
「それは......!まさか!」
天狐が怯えたように一歩後ずさる。
その様子を見て、八城君がニヤリとする。
「俺の能力は『物体移動』。その能力を使って、これを出現させた。この剣は殷の軍師、太公望が投げたとされる宝剣だ。話ぐらい聞いたことはあるだろう?」
「......?」
「ユーレイさん、あの宝剣で太公望が妲己という化け狐の体を3つに引き裂いたんですよ。まぁ、僕も初めて見るんですけどね~」
首を傾げる私を見て、少し笑いながら説明してくれた。じゃあ、八城君が、その宝剣を出したってことは.........
「天狐。俺はお前を許すことは出来ない。せいぜいあの世で後悔するといい.........。どうせ殺すなら、俺だけにすればよかったものを............。」
「貴様っ......_______」
最後の方に八城君が何を言ったのかは、ハッキリとは聞き取れなかったが、何かを言おうとした天狐を無視し、八城君は天狐の体に剣を突き刺した。と、同時に天狐の姿と剣が、一瞬にして消えた。
「『きば』も、『太公望』も......天狐を殺していたのは俺だ。俺が......人を守るためにやったことなんだ......。」
天狐と剣が消え、後には八城君だけが残った。
八城君は天狐に何かを言ったようだったが、私にはまた、聞き取ることが出来なかった。
八城君の姿は、悲しみに包まれているように見えて、どう声をかければいいか、私には分からなかった。
「ユーレイさん。僕があなたに出来ることを教えて差し上げます。八城さんの為に、ユーレイしかできない事です。僕がここに来た一番の目的がこれですし。」
瓢はその後、私に色々と言って、帰っていった。
「私に......出来ること.........。」




