番外編「天狐」
「さて……。これからどうすることか……。」
今まで住んでいた村から追い出されてしまったオレは、一人呟いた。
追い出された理由?
そんなのただ一つだ。
『オレが天狗だから。』
「今の時代の奴等はつまらん。自分達と違っていると思えば、すぐに害とみなして、村から追い出そうとする。ちつまらん。実につまらない。」
誰も聞いていないが、口に出さずにはいられなかった。
こんなとき、皆が居てくれれば……。
ふと浮かんだ思いを「いや……。」と、すぐに打ち消した。
昔の仲間は、とうの昔に「ぬらりひょん」に殺されたじゃないか。
オレだけがこうして生きているのも、オレを庇って死んでしまった親友のおかげだろう。
一人になってから訪れた村は百をこえ、そろそろ一人旅にも飽きてきた。
誰か居ないものか……。
周りを見回してみたが、やはり誰もいるはずがなかった。
「仕方がない。今しばらく、一人旅を続けるとするか。」
あきらめて歩き出した時だった。
「ねぇ。君って天狗でしょ?」
誰もいないはずのオレの背後から、いきなり声か聞こえた。
振り返ってみると、そこには九本の尾を持つ、美しい狐がいた。
「確かにオレは天狗だが……。お前は一体……。」
「僕は天狐さ。君って一人でしょ?僕も一人だからさ。一緒に連れていってよ。」
とつぜんの天狐からの提案に、オレは少し戸惑った。
「……何故、オレなんだ……?」
「だって僕……君以外の真怪って、会ったことがないんだもん。一応、人の姿にはなれるけど、人間って苦手なんだもん。いいでしょ?一緒に行って。」
「……まぁ、別に良いが………。」
「じゃぁ、決まりね。僕のことは天狐って読んでくれていいから。君の名は?」
「オレは……」
名乗ろうとしたとき、ふと思った。
今までいろんな偽名を使ってきたからだろう。
本当の名前はもう、忘れてしまった。
かといって、「天狗」と呼ばれるのは何かいやだ。
さて、どうすることか……。
『お前のせいじゃない。自分を責めんな。』
あぁ。何でこんな時にあいつの顔が浮かぶんだ……。
「……どうしたの?」
急に黙ったオレを心配するように、天狐がオレの顔を覗きこんできた。
その顔がオレの中で、親友の顔と重なった。
「……いや、何でもない。オレの名はーーーーーー」
こうしてオレと天狐は出会った。
あのとき、勝手にあいつの名を語ったオレを、今でもあいつは………
ーーーーーー笑って許してくれるのだろうか……。




