第3章泥田坊・川坊主
べとべとさんの去っていった、次の日のこと。
「黒いネバネバ!?」
思わず私は声を上げてしまった。
「うるさいぞユーレイ。少し......というか、しばらく黙ってろ。」
私が声を上げたのにはもちろん理由がある。
っていうか、普通はこれを見たら、絶対逃げるか、声を上げるだろう......。
だって、私達の目の前には.........
田から上半身を突き出し、体全体が黒く、目玉がひとつ。そして、肌は滑りを帯びている謎の物体......いや、妖怪がこちらを向いていた。
数時間前の事。
「つまり、お前の家の田んぼから、黒いわけのわからないものが現れるから、それを退治しろ......という事か?」
八城君は目の前に座る女性___つまりは今回の依頼主に内容を確認した。
「はい。そうです。よろしく、お願いします。おれいですが、終わり次第、お渡しします。はい。では。お願いします。」
そう言って、依頼人である夜口町子さんは帰っていった。
「あの人、喋り方おかしいですよね?やけに分かりにくかったんですけど......」
「いちいちうるさいぞ、ユーレイ。今から現場に行こうと思うが、お前も_____いや、聞くまでもないようだな。」
テキパキと荷物をリュックに入れる私を見ながら、呆れた声で八城君が言った。
「そういえば、天野先輩は?いなくなってますよ?」
「ん?本当だな。天狐のヤツ、何処に行ったんだ?」
私と八城君が周りを見ても、室内にはいないようだ。さっきまでいたのに......。その時だった。
「お~い、2人とも~!!」
私と八城君が声のした方を見ると、既に天野先輩は廊下で足踏みをして待っていた。
「早く行かないの?」
___そんなこともありながら、今に至るわけなのだが......。
「八城君、これって一体......」
「恐らく、泥田坊......だろうな。江戸で発行された妖怪絵本『今昔鬼拾遺』に書かれていたものとそっくりだ。」
八城君がそういった時だった。
「た......た......田を......田を返せぇぇぇぇぇぇ」
あれ、こいつ......
「近づいてくるみたいだけど、どうする?鷹犖。」
「ふむ、これは......」
次の瞬間!さっきまでカタツムリ並みにゆっくりだった泥田坊が、猛スピードで動き出した。っというか、近づいてきた。
「に......逃げろーーー!!!」
八城君が叫び、私達は走り出した。
「何でこいつ追いかけてくるのー!?八城君!どういう事か説明してよーー!!!」
「俺が知るか!!」
「仲いいねぇ。」
「「うるさい!」です!!」
なんて言ってる間に、少しずつ泥田坊が近づいているような気が......
「どうします!?このままだとやばいですよ!!」
「.....仕方ない、ものは試しだっ!」
そう言って、八城君が何かを投げた。それが泥田坊の口の中にホールイン!
「☆¥♯♭*......」
泥田坊が声にならぬ声を上げ......消えた!?
「一体どうして......」
「川坊主という妖怪がいるんだ。川の近くにいる妖怪で、肌は滑りを帯びた粘液質。通りかかった人を襲うらしい。」
「あれ、それって......」
「泥田坊に似てるね。」
「あぁ、川坊主は弱点とともに語られている妖怪でな。その弱点は『エンドウ豆』なんだ。無理に口に入れると、消えてしまったという話もある。」
「えっと......つまり、さっき投げたのはエンドウ豆で、泥田坊と川坊主は同じ妖怪......ってこと?」
「そうか、だから鷹犖の投げたエンドウ豆を食べて、泥田坊は消えたのか!」
「一か八かの賭けだったがな。予想通りで助かった。」
結局、今日は夜口さんに「エンドウ豆を植えておけば、もう出てくることはないだろう」とだけ行って帰ることにした。
その後......
「そう言えば、この前はなんで怒っていたんですか?」
「この前って......あぁ、あの時の事ね」
「別にお前には関係ない。」
「僕は何で鷹犖が怒っていたか知ってるよ?なんで顔が赤くなっていたのかも。」
「先輩!教えてください!!」
「良いよー。って言いたいところだけど、鷹犖が怖いから辞めておくよ。」
「えぇ~......」
(又崎さんのこと、鷹犖が好きだから。なんてこと言えないしねぇ......)




