第1章 うわん
深夜零時ぐらいだろうか。
ここ、夭功大学の、今は使われていない古い元校舎の前に、一組の男女が立っていた。
夜遅い上、昼間でも人気がないこの場所にいるのには、もちろん理由がある。
「・・・・ちょっと八城君、やっぱりやめようよ。」
別にこんな時間じゃなくてもいいじゃんか・・・・。
「ユーレイ、お前何も分かってないだろ。俺の話もあまり聞いていなかったようだしな。」
「うっ・・・・。」
「図星か。そもそも、妖怪が昼に出るとでも思っているのか?」
そう。この私、ユーレイこと又崎零子と、少し変わり者、八城 鷹犖は、ここに現れるという妖怪を見に来たのである。
「ところで、八城君。妖怪がいたらどうするの?」
「しらん。何も考えてないからな。」
…………こんなので、大丈夫なのだろうか?
そもそも、妖怪を見に来ることになった理由は二つある。
一つ目の理由は、天野 有几である。
彼は八城君の住んでる部屋のサークルの一員で、八城君と、私のひとつ上の先輩だ。
(ついでに、私達三人のサークル名は『妖怪部』で、天野さんのことを八城君は『天狐』と呼んでいる。)
どうも、天野さんの知り合いが肝試しに彼氏とCー2棟(今私達がいる、ここのこと)に来たところ、ある教室の中から「うわん」と声がしたらしい。
怖がりながらも教室の中を見たところ、誰もおらず、恐ろしくなった二人はすぐに逃げ出したという。
怖くてCー2棟に忘れて来た財布を取りにいけない。どうにかして!っと、彼女さんの方に涙ぐんで言われたため、つい「任せてくれ。」と自信満々に言ってしまったらしい。
そして二つ目の理由が、妖怪について調べたり、退治したりするのが私達『妖怪部』の活動内容だからである。
もっとも、「任せてくれ」と言った本人は、もうひとつのサークルで忙しいとか、実験の記録をする時間だとかなんとかで来ておらず、私と八城君の二人だけで来ることになったのだ。
っていうか、こんな時間まで実験してるって……。何の実験なんだろ。
まあ、そんなこんだで今に至る訳なのだ。
私が回想していると、
「ほら、ぐずぐずするなユーレイ。さっさと行くぞ。」
そう言って八城君は幾つもある鍵の中からひとつ選び出し、それを校舎の入り口の鍵穴にさしこんだ。
すぐにガチャっと音がし、八城君がドアを開けた。
よくそんな鍵、持ってるなぁ~。と思いつつ、私も八城君の後に続いて中に入った。
中は真っ暗で、行き先を照すのは私と八城君の持っている懐中電灯の明かりだけだ。
私は少し怖くなって、八城君の服の裾をこっそり摘まんだが、すぐに「バカ。離せ。歩きづらいだろうが。こんなので怖がるな。」と怒られたので、仕方なく離した。
ちぇっ。ちょっとぐらい、いいじゃんか。けちだなぁ。
心のなかでそう思ったのだが、顔に出ていたのか、直感で分かったのかは知らないが、
「俺はけちじゃない。こんなときだけ俺を頼るな。」
と言われてしまった。
もし直感なら、八城君はエスパーか!
どのぐらいたったのだろうか?
2階を歩いている時、不意に近くの教室から「うわん」という叫び声が聞こえた。
その教室は「2ーD」となっており、あのカレカノが妖怪に会ったと思われる教室だった。
私と八城君は顔を見合わせて頷き、八城君が教室のドアを、ゆっくりと開けた。
中を見ると、教室の後方で何かがうずくまっている。
「八城君、あれが………」
「ああ。今回の妖怪、『うわん』だな。」
妖怪「うわん」。夜、寂れた廃屋から、いきなり「うわん」と叫び、驚かす。
一声叫ぶだけで、正体は不明。出現地は青森。と、八城君は説明してくれた。
「それで、どうするの?八城君。」
「話して来る。ユーレイはここにいろ。」
そう言って八城君は、うわんの元へとゆっくりと歩き出した。
「ちょっと、八城君!?大丈夫なの!?」
八城君は私の事を無視して、うわんに話しかけた。
私はすることも無いから、聞き耳をたてることにした。
「……に来た。いくら……だろうと、……のはずだ。……は……ない。………?」
途切れ途切れだが、八城君の声が聞こえる。何をはなしてるんだろー?と、私が思っていると、ふと、八城君が何かを思いついた顔をし、うわんに耳打ちした。
次の瞬間!
うわんがサッと動いたかと思うと、懐中電灯の光が消えた。
「えっ!?」
まだ明かりがついた時には、八城君の前にいたはずのうわんは、いなくなっていた。
「まっ、こんなもんだな。」
八城君の、嬉しそうにも、めんどくさそうにも聞こえる声が、教室の中に響いた―――――。
《続く……。》




