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ありふれた日常のアルバム

SS.雨の夜に踊るもの

作者: かるちぇ

私はとある大手の電子機器メーカーの工場で夜警の仕事をしている。


当直室に泊り込み、決まった時間にランタンを片手に場内を巡回して異常がないかチェックするのが主な業務内容だ。


昼間は何千人も働いている巨大な工場も、真夜中ともなればひっそりと静まり返り、昼間はあんなにも騒々しく動いている巨大な機械が物音立てずに黙って佇んでいる様子はある意味不気味ささえ感じられる。



今晩は雲が多く、濃密な闇が場内を支配しており、私が最初の巡回を終えて当直室に戻った時、ついに雨が降り出してしまった。


雨はたちまちのうちに本降りになり、私のいる当直室のガラス窓にもさながら滝のように雨が流れ落ちている。


次の巡回は二時間後だが、それまでに少しは収まるだろうか?


そんなことを思いながら私が何気なく見た窓の外で何かが動いた。


「……」

 

流れ落ちる水のせいではっきりとは分からないが、なにやら黄色いぼんやりしたものが不自然な動きをしているのが見えた。


あの場所に黄色い物など存在しなかったはずだ。


それは、激しい雨の中、踊っているようだった。


当直室のガラス窓は開かないようになっており、雨が弱まる様子もないので外に出ない限り黄色いものの正体は分からない。


私は雨具を羽織り、当直室を出て黄色いものの正体を確かめに出て行った。


植え込みのところで雨に打たれて踊っていたのは黄色い風船だった。おそらく飛んできたものがガスが抜けてここに降りてきたのだろう。


「……ったく、人騒がせな」


ぶつぶつ言いながらそれを手に取ると、紐の先に小さな封筒が下がっていて、子供の字で「花いっぱいになあれ」と書かれていた。


封筒の中には何種類かの花の種。

 

思わず口元が緩むのを感じた。

 

 まあ、いいか。


私はその花の種をその植え込みの土の上にばら撒いた。



    Fin.

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