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空を飛びたい竜のように  作者: 水木紅緒
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地獄から来た男

不思議な世界、ガーファンクルに迷いんこんだ高浜ワタルは、ふいに出会った“ドクターキャット”に出会う。

ドクターキャットによってこの世界の秘密を知っていくワタルは、この世界には不思議な能力が存在することを知る。


「あなたは何になりたいの?」

尋ねるドクターキャットにワタルは答える


「竜になりたい」


ワタルは溢れでる好奇心を抑えられなかった。

 ワタルがドクターキャットと話をしている時のことだった。


 舞台は二人がいるところとは大きく離れた所に位置する。

「発見しました! ここです」

一人の男が無線で何かを伝えているようだった。


「まさか日本の下にこんな世界があるとはな」

男は煙草を吸った。家族のことを思い出しながら。男は妻と娘の三人家族で、もう一ヶ月くらい妻と娘に会っていなかった。男は一刻も早く妻と娘の顔が見たかった。それだけが男の生きる理由だった。


「とりあえず、報告はしたし、ここで待っとくか」

男は妻に向けて電話をしたい気分だったが、忙しいだろうからおそらく出てはくれないだろう。


その時だった。


「何者だ?」

突然、ふいに一匹の大きなライオンが男の目の前に現れた。ライオネルである。


男は驚いたが、逃げるそぶりは見せなかった。一刻も早く逃げたかったが、背中を見せるわけにはいかなかった。男は着ていた作業服のポケットの中から予備の銃を取り出していた。


「お前も地獄から来た者か」

ライオネルは再び質問した。男は不思議な気持ちになった。あのライオンは日本語を話している訳ではない。ただガウガウ言っているだけだ。それなのに何故か何を言っているのか激しく伝わる。


 男は答えた。

「日本という国から来た者だ」


「日本・・・・。高浜ワタルと同じ所か。しばらくそこで待っているといい。じきにドクターキャットと名乗る者がくる。彼女に案内してもらうといい」

そういうとライオネルは男に背を向け、茂みに入っていこうとした。


 その時だった。

(俺はこのライオンに食い殺されるかもしれない)

男は発狂してしまいたいほど頭の中がパニックになっていた。自分には守らなければならない家族がいる。いまここで死ぬわけにはいかない! 絶対に、絶対に死ねないのだ!

 男はライオネルが背を向けた瞬間に握っていた銃の引き金を放った。銃弾はライオネルの額と背中に命中した。


 ライオネルはあまりの痛さに狂い、大きく吠えた。そのまま男に向けて突進する。男は続けて銃の引き金を放つが、もう弾は入っていなかった。


「銃を、初めて手に取った時、調子に乗って練習しすぎたんだ。くそっ!」

 男はそれでも諦めなかった。自分はどんな理由があっても死ぬわけにはいかない。その時、男の体に羽が生えたのだった。この世界“ガーファンクル”では自分の思いの強さと覚悟によって急激な進化をすることが出来るのだ。


しかしライオネルは飛び立とうとする男の首根っこを捕まえ、取り押さえた。


男は抵抗してライオネルの頭におもいっきり噛みついたがライオネルは怯まなかった。


「死ね!」

ライオネルはそのまま男を食いちぎろうとしたが、その時、男の中にある記憶が何故かライオネルに伝わっていくのだった。


 男の世界。ライオネルは空白の風景の中にいた。辺りを見回すと、男の姿があった。

 男は他の人間から酷く殴られていた。もしくは心ない言葉を浴びせられていた。それでも男は泣いたり、逃げようとしたりはしなかった。むしろニコニコしていた。


「何故あそこまでされて幸せそうなのだ?」

ライオネルは疑問が隠せなかった。

 その時だった。

 ボロボロの男に二人の生き物が寄り添った。男の妻と娘だった。

 三人はそのまま男に寄り添った。寄り添い続けた。それだけだったのにライオネルにはこれが男の生きる理由なのだということを察した。


「この男はあの二人のために生きているのだ」

 ライオネルがその事に気づいた瞬間、辺りは元の場所に戻る。ライオネルはその大きな口で男を噛み砕こうとしていた時。男は必死に抵抗しながらライオネルに噛みついている時。


 ライオネルは口を空けて、男を解放した。

「あんな地獄の世界にも、天国のごとき幸せが隠されていたのだな」

そういうと、ライオネルは人間の姿に戻り、男を持ち上げのっそりのっそりと森の中に入っていった。 

「ドクターキャットの所へいこう」


 男は気を失っていた。ライオネルは撃たれた傷が激しく傷んだが、それでも歩くことは出来た。辺りはいつもの青空が広がっていた。

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