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紫苑穢国のエトランジェ  作者: 葛葉狐
第三章    天帝の御世    《紫緋紋綾》
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第三五六話    天使の計略Ⅱ





 桜城戦那は天才的頭脳の科学者であったが、その知性と知識を自らが望むものにしか使わなかった。それでも尚、祖国の科学技術発展に多大な功績を遺したという人物であり、温厚で知られているが、それは上位者としてヒトを導かねばならないという視点からの慈愛であった。


 神々がヒトを愛するが如く。


 人が愛玩動物を愛するが如く。


 それは一般的な感性からの慈愛ではない。


 その発露が、この多種多様な種族が住まう広大な世界である。


「俺には何とも言えないな。中々どうして波乱万丈な人物な様だが……異世界で機械化して異邦の神々と衝突した挙句に、この世界だ」意味が分からん、とトウカは肩を竦めて見せる。


 ヨエルは、そうでしょうね、と呟くしかない。


 当事者であるヨエルとしても意味が分からないという心情である。センナは熾天使から見ても理不尽な存在であった。


「私がセンナさんと出会ったのは、我々天使を生み出した異邦の神々に仕えていた頃です」


「何だ、面識があるのか。益々、世代を感じるな。年長者として尊重しなければならない気がしてくる」


 トウカは両親と面識があると語るヨエルに対して遠大な距離を感じたのか唸る。


 親と親交があると聞けば、同世代でなくとも年長者として遇するべきなのだろうかという逡巡を見て取ったヨエルは慌てる。


「違うんです! 私は年齢設定がないので永続的に乙女です!」


 生物的に言うところの老化を想定していないヨエルには、そもそも年齢という概念が適応されない。


「貴方が国家の歯車として武士に作られた様に、私は異邦の神々に尖兵の統率者として作られたのです。当然、加齢による世代交代などという不合理の余地は除かれています。それに、齢は百を過ぎれば人間種からすると誤差だと巷でも言っているではありませんか」


 妥当性と正論を言い募るヨエル。


 トウカは溜息を吐く。


「俺は御前を皇国宰相として遇する……それでいいだろう?」


「あ、面倒臭くなりましたね? そんなところも母親そっくりですよ。感心しないです」


 笑顔で頷きながら話を聞いている様で聞かずに流す母親の仕草と重なる。 面影がある為、尚更であった。


 ヨエルは手にしていた緑色の液体を口に含む。


 奇妙な甘さに最近の若年層の味覚を心配するが、 若者を心配するという姿勢に、 自身が老齢者側の視点に立っていると危機感を抱く。


「私、乙女です」


「気にする程でもないと思うが……男など容姿で騙されるくらいに単純だぞ。第一、皇国で年齢の話など不毛だろう」


 年齢の差異が人間種程度に収まるならば徴税に苦労しない、とトウカは溜息を吐く。統治者永遠の悩み。徴税。皇国の統治に於ける最大の難事。


 多種族国家皇国で年齢が意味を為さないのは、徴税の面からも同様であった。複雑化を避ける為、年齢からなる徴税の差異が生じない様にする為の試行錯誤の連続である。皇国の歴史とは、多種族の不公平感を低減する為の徴税方法の試行錯誤の歴史であると、語る歴史家も居る程である。


 実情として、総収入や利益に対する課税が主体となっていた。住所や現在地の確認が難しい種族も多い為、住民税も不公平となるので存在しない。そうした統治面での無意味を乙女の心情のを慮る定義に利用している点を察したヨエルは、益々、トウカの母親の面影を見る。


「貴方の御父様も貴方も、どちらかと言えば、いつも狐に拐かされる気がします……」


「そうなのか? そこは血を継いだ訳か。いや、呪詛か祝福の類かもな」


 狐を御使いとする女神の嫉妬深さを知るヨエルとしては、血筋と言われるよりも納得できる話であった。


「天使では駄目ですか?」


 その一言にトウカは臆する。


 恐怖を感じたのだ。

 

 長き時を経て叶わぬことに対する苛立ちや焦燥が見て取れた為である。


 妖精が良くて、その一言だけは辛うじて抑えたヨエルだが、トウカはその心情を察していた。


「そういうのは感心しない。一応、種族という色眼鏡では見ない事にしている。何より状況がそうさせた。種族や立場では見ていない心算だ」


 公明正大という訳ではないが、女性との関係に於いて種族よりも周辺関係からそうなったと告げるトウカ。


 ヨエルは、マリアベルやクレアとの経緯を思い出して、状況に流されるという事かと得心する。苛烈であっても近しい者が相手では情に流されるという点もまた、クレアの知る母親と似ている。頑迷とも言える父親とは対極的であった。


「何処かの総統が世界帝国の首都で長年親しくしていた女性と結婚後に自害したという……」


「……国家を松明にしながらの愛は止めてくれるか?」


 浪漫に溢れた愛を提示してみるが、為政者としては許容し難い様子であった。ヨエルは大いに安心する。トウカは政戦に固執するが、皇国に執着していないように思える言動も多い。一度、国家を再編すると皇国を解体してから周辺国を巻き込んで新国家樹立という可能性もヨエルは密かに懸念していた。


 陸海軍の同意を取り付け、国内の不確定要素を徹底的に排除するべく国家再編の為の内戦に突入する。それは奇襲的なものであり、内戦というよりも軍事力による政敵の排除というものになるが、その規模を拡大して政情不安定の諸外国の領土を切り取り次第とばかりに併合する動きが在ってもおかしくない。


 国内の混乱から目を逸らさせると同時に、熱狂させる戦勝を用意する。


 皇国への帰属意識の希薄を思えば十分に有り得る事である。


 政治的な不安定を危険性(リスク)を承知で根本的に解決しようと考えるならば、選択肢としては悪いものではない。そうしたヨエルの懸念の懸念は後退したと言える。


 愛する理由が何であれ、皇国という形を保持しようと指向するのであれば、ヨエルは己の精華たる国家を失わずに済む。ヨエルの苦悩を他所に、トウカは朗らかに笑う。


「今日は随分と積極的だな? 慎み深い天使の姿とは違う。無論、それで損なわれる何かがある訳でもないが」


 肩を竦めるその姿には女性を扱う事に対しての恐れや懸念は見受けられない。クレアで慣れたのかと思うと、ヨエルは僅かな嫉妬を覚えた。


「……貴方が私を望む形に損なっても、それを咎める者は居ませんよ?」


 強大無比な権威を持つ主君に乱れた女性関係を諫言する者は現状では居ない。少なくとも政治に関わる者達は、トウカの後継者を待望している上、特定の種族だけが侍る事で種族政治の面から不均衡が生じるのではないかという懸念も大きかった。寧ろ、もう少し女性を侍らせられないものかと懸念する者も少なくない。


 ――狐への厚遇を快く思わない者は多いですから。


 狐系種族の気質から他種族に対する隔意や強硬姿勢が生じて問題が起きるという事はないが、主君からの寵愛はそれだけで嫉妬の対象になる。北部地域ではマイカゼの手腕とマリアベルの遺した家臣団の連携によって実力と利益を示した為、狐系種族に隔意を抱くという動きは生じていないが、狐系種族はヴェルテンベルク領に狐系種族初の領主が誕生したと聞いて移住する者が多い。


 ヴェルテンベルク伯爵領が狐の巣窟になりつつある。


 そうした懸念を持つ貴族は多い。


 狐系統種族を集めて組織化を図っているというのは、穿った意見とは言い切れないと見られる程度には狐達は移住している。


 ヨエルはマイカゼにそうした意図がない事を理解している。


 どちらかと言えば、稲荷寿司ときつねうどんと海産物を食べに来た面々が気に入って住み着いたという流れに過ぎない事は、天翼議会の調査からも判明している。寧ろ、隠す程ではない分かり易い事実であった。


 去りとて、ヒトは見たいものしか見ない。技術と歴史を進めてもヒトの本質は変わらないのだ。


「狐ばかりを愛でている、と口さがない者は申しております。今となれば、他の種族を愛でたとしても、安堵は在っても、非難などありましょうか」


尽くすと評判の天使など最適である、とヨエルは言わないが、トウカの手を取って嫋やかな笑みを崩さずに静かなる自己主張を欠かさない。


ものは言い様だ、とトウカは椅子に深く腰掛けて肩を揺らした。


 そこには僅かな警戒の色があった。











「……天使なら龍種と組んで飛行系統種族として強大な政治勢力を誕生させる事も可能だろう」


 その点を懸念している種族は少なく無い筈である。狐よりも遥かに警戒されている天であるのも事実であった。


 トウカとしても無視できな部分である。


 虎系種族や狼系種族という軍事に於いての花形兵種で主導的立場を恣にしていた両種族に対し、龍系種族は政治に於いても一歩譲る立場にあった。法という建前は別として、実情は国防という実績に政治も左右される。


 そして、天使系種族は元より政治権力に興味を示さない。


 それが内戦以前の皇国に於ける主要な種族政治の情勢であった。


 しかし、天使系種族が政治権力に目覚め、龍系種族は航空戦の基幹種族となった今、 連携すれば虎系種族や狼系種族を優越する政治勢力として伸長できる余地が生じた。   


 天使系九種族の人口は他の三種族と比して極めて少ないが、他の有翼種に対する影響力を踏まえれば純粋な種族人口のみでは評価できない。龍以外の種族は非力である為、 政治問題のなどが生じた場合、伝統的に天使系種族を頼る動きがある。天使系種族はそれに然したる代償なく答えていた為、その呼集の下で集まる有翼種は極めて多い筈であった。


 トウカの懸念は皇国政治の場に在って広く存在するものであった。


 例え、国会が無期限停止していても、地方議会以下の議会は存続しており、実情は枢密院が国会に変わっただけに過ぎない。国家で最も多くの者に影響を及ぼし、そして耳目を集める議論の場が喪失した事で臣民の目には種族派閥による政治が、天帝の下で沈静化した様に見えるが、地方政治の場では寧ろ激化している。


 国会が再開された際、地方政治に於ける影響力が議席数に影響を及ぼすと見てのものであった。


 しかし、地方政治とは各貴族領の政治であり、議会の上位に貴族領主が存在する。トウカの元居た世界よりも遥かに地方と中央の政治は繋がりに乏しい。


 だが、同時にトウカが敵対的な貴族の取り潰しや、転封を繰り返して天領を拡大する中で領主の存在しない領地が数多くできた事も大きい。天領では地方議会が大きな影響力を持つ。貴族領主の立場に天帝を戴く事は、職責の性質と量から見て不可能である為、議会それ自体が議長を選出している。


 これは以前からそうであるが、トウカもまた放置した結果、未だその状況は継続している。代官を立てる事はできるが、それをトウカは行わなかった。


「それ故に天領の地方議会の議長に地方領主と同等の権限を御与えになったのではありませんか?」


 ヨエルの指摘に、トウカはそうした側面もある、と苦笑する。


 実際、代官を任命する程に信頼の於ける人材を多数用意できないという都合と、議会という不特定多数は失政時の緩衝材として利用できるとの判断からであった。政治権力者の厚みは、国家指導者にとって民衆との緩衝材の厚みでもある。地方政治にまで気を配るだけの余裕はなく、その問題や失敗までをもトウカは負ってはいられない。


 国政では余りにも非効率と邪魔が多い為、それを維持できなかったが、地方政治に関してまで面倒を見ようと試みる程にトウカは自らに地方の権力を集中させる心算はなかった。


 地方政治は国家政治の人材の育成を兼ねるという側面もある。


 地方政治で経験と活躍を経た者を国政に登用する事は理に叶う。失敗や混乱が生じたとしても地方政治であれば被害は国政に波及し難い。


 皇国議会の質の低下を見たトウカの苦渋の判断でもあった。


 天領の地方政治に於いて議会の権限を拡大する。そこで国政に進むだけの経験と活躍と知見を養った者が国政に進むという流れをトウカは求めていた。


 無論、そこには種族政治に傾倒させない様に多様な政治家を国会に送り込むという目的もある。金銭や支持母体の規模だけで国政政治家を擁立するのは危険過ぎるとトウカは考えていた。地方政治で才覚と自覚に欠ける者を間引けば国政での失敗と無駄は減少する。


 阿呆が銭と背後関係だけで国会の議席を取れるようにはしない、というトウカの決意。


 地方政治でも瑕疵があれば政敵は叩くに違いなく、金銭と支持母体による当選はあり得ても当選後の活動で判断できる。選挙で勝利するにも、擁立者自体の質が悪ければ組織票しか集まらず、そうした者を擁立しようとする組織に対する信頼への打撃にもなる。国政以外で篩に掛けられるのであれば安いものである。地方政治での実績がトウカや国民の判断材料となり得た。


「何も天使を信用していない訳ではない。だが、その地位と種としての優越に新たな優位性までをも加える真似は避けるべきだろう」


 つまるところトウカとしては天帝となった以上、自身に侍る者は政戦に於ける都合を満たしていなければならないと考えていた。天帝に即位する以前の関係であるならば兎も角。


「そうでしょう。貴方はそう言うと分かっていました」ヨエルは鷹揚に頷く。


 予期していた返答なのか、ヨエルは落ち込む事もない。


「何者でもない己を見ている保証が欲しい。そうでなければ、それは虚構の関係だと……貴方は愛というものを特別視し過ぎています」


 本来、女性に多い筈の愛への殊更な特別視がトウカが持っている事を、ヨエルは理解している。トウカもまたヨエルが自身の身辺に対して特段の”興味”を持っているので把握されてい事は当然と動じない。


 周囲に魔術迷彩で待機している天翼議会から用意された護衛の天使達が二人の会話に目を回しているが、トウカはそれを知らない。


 トウカは姿なき周囲を他所に、堂々と応じる。


「勿論だ。反論の余地がない意見だな。俺は、ああした感情を特別視している。そして、そうでなけれ愛ではない。そう思う。それこそが不定形な愛という感情に於ける最大の保証だろう」


 保証や確証というものを求める事に固執するのは政戦に携わる者の性である。例えなくとも、決定付ける要素は把握したいと強く願い、時に強く妄信して過つ。


 愛は所詮、感情。


 それを求めるならば、相当の理屈が必要となる。


 そうした理屈を用意しない、或いは必要としないのであれば、侍るのは政略という扱いでなければならない。徹頭徹尾、政略であったアリアベルの様に。


「面倒臭い男だろう? 何であれ確証がなければ安心できないという事だ」


「貴方と出会う以前であれば、地に足の着いた人物だと評価したと思います。慎重で思慮深い、と」


 ヨエルの言葉に、トウカは天使が地に足が着いたとはどうなんだろうかと明後日の方向に思考を巡らせる程には現実逃避をしていた。


 食い下がる熾天使に、トウカは頭を掻く。


「今は違うのか?」


 ヨエルの以前の評価こそ意図するところであり、妥当なものであるとトウカは信じて疑わない。ザムエルの如く下半身の赴くままに好き勝手に振る舞う事は人品を毀損する真似と心得ていた。無論、ザムエルに影響を受けて屈折した可能性もあるという自覚もあった。俗に言うところの反面教師である。


 トウカに中庸はない。


「困った人だと思います。中々どうして隙が無い」困り顔のヨエル。


 防空砲塔の景色の一角に見目麗しい熾天使の姿。


 酷く現実感がない、とトウカは瞳を眇める。


 ヴェルテンベルク領の画一的な建築物の群れは質実剛健な構造であるが、それ故に無駄がなく、尚且つ乱れなき間隔で屹立する様は一種の荘厳さを覚える。外周部は未だ復興の最中にあるが、同時に外周を囲う防壁は解体されつつあり、以前は草原であった市外にも建築物が蠢いていた。


 その全てを手中に治める権力を持つのが己であるという実感は未だトウカにはない。


 それは、眼前の熾天使に対しても例外ではない。


 自由気儘に雌を貪る事が赦された立場であっても、犯し難い生き物は変わらず、女への美学と押し付けという名の偏屈も何ら覆る事はなかった。寧ろ、立場を得て、それは正当性すら帯びつつある。


 何ものをも得た男は、未だ何ものをも得たという実感など抱いていなかった。


 天帝としての立場を以て得たものなど、論評に値しないとさえトウカは考えている。


 しかし、ヨエルはトウカのそうした視点をも理解した上で微笑む。


「でも、それもまた愉しいものなのです」


 楽し気に笑う熾天使は、少女と女性の間を遊んでいるかの様な一瞬の可憐を収めたかの様な姿を永遠としたものである。


 心底と、トウカと過ごす事を楽しんでいる。


 直截的な物言いに対し、トウカは応じる言葉を語彙に見つけられない。


「女の子はね、好きな男の子と話しているだけで楽しいものなのです」


 立ち上がったヨエルが翅を揺らす。


 陽光の下で微笑む熾天使は流れる様な金糸の髪を靡かぬ様に抑えて、あどけない笑みを見せる。それは、気恥ずかしさの入り混じった少女の笑みだった。


 そして、両手を腰に当てて僅かな自信を覗かせる。


「それに、男の子を振り向かせるのは女の子の甲斐性ですからね」


 己の努力と意地だと言って見せるヨエルに、トウカは頭を掻く。


 トウカは自身が何を口にしても無意味だと悟った。


 ヨエルは己の力量で成すと言う。


 トウカを原因としていない。


「やれやれ……俺の心情は無関係という事か……」


 トウカも苦笑と共に立ち上がる。


 斯くも明白に断じられては反発心すら生じない。


 ヨエルは徹頭徹尾、己の理屈で押し通そうとしている。


「恋なんです。それは押し付けるものでしょう」


 反論し難い意見と、トウカの腕を抱き締める様に寄り添ったヨエル。トウカは何処かで見た恋する乙女の果断に困り顔。


「リシアに何か吹き込まれたか?」


「……まさか。ただ、成功体験を見せられて焦燥に駆られる乙女心というものですよ」


 相当な間があったが、理屈は通っている。


 成功体験を模倣するのは手堅い手段である。常に有効な訳ではないが、知者は先例に倣うものである。


 抱き締められた右腕に尋常ならざる力が加わる事で疑問を封殺する姿勢は正にリシアのそれに等しいが、他の女の名前を出すと機嫌を損ねるのは天使であっても例外ではないと、トウカは学ぶ。


「逢い引きなのに恋心に難癖を付けられた私は傷付いてます。天使を傷付けるなんて酷いヒトですよ?」むぅ、と剥れて見せるヨエル。


 トウカは、本来のヨエルが奈辺にあるのか逡巡するが、女性とは元より多面的な生き物であると思い出す。


「今日は付き合ってやるから剥れるな。人目のある所で天使に臍を曲げられては敵わん」


 幸いにして防空砲塔に二人以外の人影はないが、天下の往来で天使を怒らせるというのは外聞が悪い。慈愛に満ち、寛容な種族というのが一般的な天使に対する印象として根付いている。そうした天使を怒らせたり泣かせたりする事は一般的に相当な真似をしたのだろうと見られた。


 ――まぁ、九つの天使系種族にも色々あるが……


 天使系種族の中で九割を占めるのが天使種で、それ以外の八の種族は合計しても一割程度である。しかし、天使系種族は軍隊以上の階級序列が成立しており、それは天使系種族の成立の経緯を踏まえれば覆し得る事でもなかった。


「計算高い熾天使は何をお求めかな?」


「勿論、逢い引きです」


 今現在しているのがそれではないのか?とトウカも口にする程に女性に対して無理解ではなかった。要するにミユキやマリアベルに対して成したようにして欲しいという要望である。トウカとしてはリシアの様に宴席を囲む様な扱いではダメなのか?と思いはすれども、確かにリシアは女性というよりも友人として遇しているという納得もあった。


 ――そう考えると、リシアは俺が嫌う距離には踏み込まない様に配慮しているという事か……


 遅まきながらリシアの隠れた神経質……という名の慎重な姿を垣間見たトウカは、そうしたリシアの姿を僅かながら愛らしく思えた。


「男に乱暴に扱われ、そう在れかし、と型に嵌められる事を望むとはな……」


 ミユキもマリアベルも、そう扱ったという自負がトウカにはある。無論、二人の女性もトウカを意識的死せよ無意識的にせよ、そう扱った為、傍目にはトウカの傲慢には見えなかったが。


「恋とは二人で愚かになる事だ、そう言うではありませんか」


 仏蘭西人の言葉を囁く熾天使。


 トウカは愚かになった心算はなかったが、反論はしなかった。





恋愛とは二人で愚かになることだ。


ポール・ヴァレリー  19~20世紀フランスの作家・詩人、1871~1945




 自分は転載とか盗用は気にしないんですが、なんかいつぞやに半島ぽい方に丸々転載されてたらしいんですよね。ハングルと日本語の小説が色々転載されてたサイトらしいんですが……。まぁ、放置したんですが、この作品の日本は大東亜共栄圏が連邦化した感じなので、寧ろそれでいいんか?と思うんですよね。向こうで日本語分かる人がいたら炎上しないんだろうか?


 てか、大陸でもヤバいんですよね。首都で戦車で民衆?を、というのをしてるんで、その……



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