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紫苑穢国のエトランジェ  作者: 葛葉狐
第三章    天帝の御世    《紫緋紋綾》
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第三〇七話    北部巡幸 Ⅲ



「どいつもこいつも無茶をする」


 トウカは心底と煩わしいという表情を隠さずに吐き捨てる。


 クレアから受け取った報告書を投げ捨て……それはクレアの魔導術式によって床へと落ちるより前に炭化物となって形を失った。その動作を一瞥し、トウカは応接椅子に荒々しく腰を下ろす。


「情報部の失態を軍事力で糊塗するが如き振る舞いを赦せというのか」


 軍事力を万能薬と勘違いしている動きにトウカが悪態を吐く。


 本来であれば劇薬である軍事力を選択肢がなかったからこそ扱い続けたトウカとしては、こうした場面に直面する事は可能性の一つとして有り得ると想定していた。


 それなりに鮮やかに軍事力を以て諸問題を解決したという自負がトウカにはある。


 再演を狙う動きが配下から生じる事は致し方ないと、トウカは予見していた。同時にそれが性急なものではないとして放置していた部分もある。それ故に、戦略爆撃航空団という国家戦略の中枢に関わる戦略兵器を用いた謀略が行われるというのは二重の意味で晴天の霹靂であった。


 ノナカの上奏という名の都市爆撃要請に鼻白んだトウカだが、都市攻撃の目標として挙げられた名が戦略爆撃目標としては的確であるとは言い難かった為、問い詰めた結果として情報部と憲兵隊が関わる謀略が明らかとなった。


 トウカとしてはノナカの得意げな顔に蹴りを入れたい心情であった。同時に情報部と憲兵隊が軍事力……それも即応性のある航空戦力に頼るという時点で既に水面下での試みは手詰まりとなっている事は明白である。状況を聞かぬという選択肢はなかった。


 戦略爆撃は国内外への政治的影響が小さくない。


 そうした部分への配慮もまた必要であった。無論、自己弁護ではなく、各大使館を経由して“戦果”の通達などである。適正な戦果の喧伝は交戦の意図を抑止する事は歴史が証明していた。


「概要は理解したが、気に入らんな」


「そう仰らずに認めて差し上げれば宜しいのです。彼らも成果なくば肩身が狭いかと」


 対面に座したクレアが苦笑交じりに翻意を促す。


 二人しかいないアルフレア迎賓館の執務室で二人の曖昧の視線が交錯する。


「……大層な悪女だな。大事にしておいて、相対的な狙いは小さい。基本を押さえているが、極端に過ぎる。諜報を司る者の提案ではないな。恩を売るか」


 諜報は無駄なく極小化した振る舞いを以てして目的を達成する実力組織の技である。陰から影へ。決して表には出ない国益の追及こそ彼らの本分である。大々的な、それも諜報の為に強大な航空戦力を投射するというのは諜報畑出身者の提案とは考え難い。本末転倒ですらある。


「はい、陛下。御相談を受けました故」


 酷く端的な同意に対して、トウカは酷く困った顔をする。


 曖昧な表現か、或いは迂遠な否定が返ってくると考えていたが故のものであるが、斯くも直接的な同意が返ってくると思わなかったトウカは鼻白む。肉体関係を持ち、ある意味に於いて対応し難い相手が、己に対して罰を求めているかの如き振る舞いをする。トウカは己が試されていると感じて不愉快な感情を覚えた。


「一度、その身体を貪られたからと増長したか? 飽きれば捨てられる女に過ぎない事が分からないのか?」


 身を切るが如き発言。


 斯様な振る舞いをするからこそ己から離れて往く女達が居ると知るトウカからすと、クレアの発言は己を追い詰める卑怯なものであった。試されているのかという思案を乗り越え、トウカはクレアの襟首を掴み、引き寄せる。


 その様、まさに暴君。


「周囲は壟断と判断するぞ?」


 酷く乱雑に扱い、襟首を掴んだ清楚可憐な憲兵総監を応接机へと叩き付ける。乱雑な振る舞いに浮き上がる灰皿と花瓶を無視して、トウカは尚も吐き捨てた。


「皇権を担いだ咎はお前を殺すだろう」


 周囲がクレアを天帝の寵愛を利用し、政治勢力として伸長する構えを見せていると見れば、既存の政治勢力はそれを危険と見る事は間違いない。極めて強力な皇権を盾にした政治勢力との政争は一方的な勝敗を齎す。よって政争は個人を標的とした実力行使になる。


 暗殺である。


 天帝の寵愛からなる皇権の乱用は、ただただ寵愛を根拠とした個人に由来する不安定な権力に過ぎない。寵愛を受けた個人が喪われた時点で霧散する政治勢力であるが故に、個人を暗殺するという手段は極めて有効であった。


「存じております。それ故に佳いのです。御身に憎悪が向いては成らないのです。天帝は何時如何なる時も一片の瑕疵なき絶対者でなければならないのですよ」


 クレアが応接机越しに差し出した手。


 トウカはクレアの手を取り、応接机を無視して抱き寄せる。


 応接椅子上の花瓶や灰皿、書類が音を立てて押し退けられ、トウカとクレアの抱擁を批難した。調度品の批難の音に、内容だけに下がらせていた護衛が扉を開けて室内を確認しようとするが、トウカは空いた片手を振って無用だと伝え、再び下がらせる。


「莫迦め。今更、無駄な努力をする」


 トウカからするとクレアの努力は無駄でしかない。


 抱き止めた女の愚かしさに甘さと軟さを感じたトウカは、政治姿勢もまた女性的なものとなるのだろうかと嘆息する。


 精神は肉体に囚われ、思想は精神を代弁した。肉体が政治に及ぼす影響とは決して少ないものではない。肉体的劣等感、或いは優越感による政治的決断。片手の不自由と痘痕に犯された書記長、下半身麻痺で車椅子の大統領の決断は、果たして肉体の影響を受けなかったのか。


 トウカは一層と強くクレアを抱き締める。


 肉体という枷が肉体という枷を抱き寄せ、影響を受ける。


 その結果はトウカにも不明瞭であった。


 天帝たるトウカが負うべき憎悪を肩代わりできる存在など存在し得ない。余りにも殺し過ぎたという部分もあるが、陸海軍に対して積極的に作戦計画を提示し、反発する政治勢力を軍事力で制圧する以上、トウカへの憎悪は避け得ない。自らの判断で苛烈な命令を下す以上、クレアが苛烈に振る舞ったところでトウカへの憎悪を肩代わりできるものではなかった。


 狂信的な物言いで檄を飛ばし、敵を討つ。


 トウカのそうした姿勢こそが恐怖で諸勢力を押さえ付け、反発を良く押さえる。懐柔し、利益を生み出し、国益を証明するまではトウカへの反発と害意は無視できない規模で続く。


 抱き寄せ、隣に座らせたクレアをトウカは諭す。


「俺を守りたいならば、周辺の護衛を信頼の置けるもので固めればよい」


 憎悪の分散、或いは肩代わりなどという高尚な発想は無意味であった。クレアの予想と常識を超えてトウカは大いに敵を殺戮するからである。


「陛下……それは護衛という存在を過大評価なさっています」


「だろうな。敵意を軽減するのが本来の上策だろう」


 当然の様に言葉を翻して同意する。


 公爵相手にベルセリカですら優位を確保できなかった以上、護衛体制という集団を圧倒する個人という戦力単位は絶大な脅威であり続ける。皇国にはそうした個人が少数ながら存在していた。


 トウカとて理解しているが、既にそうした余裕は喪われている。権力の委譲を短兵急に進めざるを得なかった影響として皇国の権力構造の各所にトウカへの敵意が満ちていた。それを恐怖と軍事力で押さえ付けている弊害は大なるものがある。官僚は受動的になり、一部の軍人は積極性を減じた。


 反発心が恐怖を上回れば、暗殺の危険も増す。


 鎌と金槌を掲げた皇帝(カイゼル)髭の独裁者の様に、保身を目的として組織に足枷を求める非効率をトウカは望まない。故に暗殺や抵抗は享受せざるを得ない不利益である。


 しかし、それらは実績を積み上げれば融解する問題でもある。


 軍人は天帝以前の軍事的実績を知るが故に大部分が心服している。政治家や官僚も政治的実績があれば、心服する余地は十分にあった。無論、天帝以前にもトウカは政治的実績を数多く上げているが、それは軍事力を背景にしたものである為、評価は毀損されている。その上、マリアベルがトウカの上位に存在していた為、実績は混同される傾向にあった。


「実績を作るといい。御前が実績を上げれば上げる程に、配した俺が評価を受ける」


 自ら行動して評価を勝ち得るのは、指導者の振る舞いではない。隷下の者達に武功や実績を立てさせてこそ意味がある。指導者とは管理者にして統括者である。現場に立つ者ではない。


 トウカは己の役割を履き違える事はない。


 同時に自身の影響下にある者達が文武の後者に偏重している事も自覚しており、クレアがもし政治に寄る実績を打ち立てたならばその意義は大きなものとなる。


 それはトウカの評価にも繋がり、見方を変える者が出る、或いはその切っ掛けとも成り得る。


「だが、我々は色々なものに背を向けて戦い続けた。その代償、小さくないぞ?」


 全ての原因を己とする程に愚かではないが、トウカは七割程度の責任は己に帰属すると見ていた。無論、その責任を代償に北部貴族の存続に成功したので選択として間違いはない。奇蹟の代償としては格安であるとすら言える。


「ですが、私は成さねばなりません」


 貴方がヒトとの関係を不得手とするならば、と言い添えたクレア。


 トウカの欠点をクレアはよく理解している。


 自覚があるトウカはクレアの言葉を咎める事もなければ否定する事もない。権力とは孤独であり、理解されないものであるという確信が、トウカの排他性の根拠や自己弁護となって、その姿勢は天帝即位に当たって揺ぎ無きものとなった。


「憲兵がそれを成すというのか? 世も末だな」


 政治的信頼を憲兵が獲得しようと試みるというのは、軍による政治介入とも取れる上、軍政側による議会や官僚に対する干渉と捉えかねない。そうした動きを超えて暗殺や謀略を展開したトウカに対する信頼など路傍の石よりも乏しい現状、間違いなくそう判断される事は疑いなかった。


 トウカは無理な紐帯を求めていない。


 国益が明白な形で還元され始めたならば、トウカの方針に従う者が増え、敵対的勢力も形骸化する。それまで付け入られる隙を与えない様に動く必要はあったが、そうした動きに対する抑止力、或いは阻止力として、十分に信頼の置ける軍事力を有している。暗殺さえ避け得るならば、謀略ですら適正な軍事力行使で打開できた。(しがらみ)の少ないトウカだからこそ軍事力行使には躊躇がない。


「だが、利益の切り売りをするには元手が乏しいだろう」


 ヒトは利益に忠誠を誓う。


 それは恥ずべき事でもなければ軽蔑すべき事でもない。其々に配下が居り、それを養う義務がある。トウカは国民に可能な限り富を適正に分配する義務があり、当然ながら国家の富自体を増加させる責務も負う。


「義母上も協力して下さいますから。それに、陛下に侍る憲兵というだけでもある種の信用が生じるものなのです」


 信用は利益を生む。


 法治主義の危機を感じる発言だが、議会を事実上、機能停止に追い込んだ自身がそれを諫める無意味をトウカは理解してもいた。危機的な状況を立て直すには、実力者の能力を最短で最大限に活用するしかなく、それを阻害する要素は排除する必要がある。行き着く先は権力集中に他ならない。会議はその障害となり得た。


「皇権は神々により下賜され、皇権の周囲には新たな権力が生まれる、か」


 権力は権力を産む。


 権力構造が刷新される最中に在って、皇国では今後百年の権力構造への介入を求めて多くの者が蠢動している。議会の実力に猜疑を向けられる現状、貴族や官僚の伸張は議会という調整機関を失った。


 空手型の乱発による陣営の増強や保全すら各地で発生している。


 帳尻を後に合わせること叶わなければ、死期を早める事になりかねない火遊びをしている者も少なくない。国家に利があるならば、トウカも帳尻を合わせる事を認めぬでもないが、それが国益を毀損するのであれば、死期はトウカによって定められる事になる。


 それすらも当然とトウカは受け取らねばならない。


「弱みも負い目も見せてはならない。それは譲歩という名の権力の譲渡になる」


 トウカは偏執的なまでに主導権を希求する。


 敵対者の行動は断固として制限して然るべきだとすら考えていた。


「しかし、何時までも押さえ付け続ける事ができる訳でもありません。切り崩しを図るべきでしょう」


 クレアの指摘に、トウカは彼女を抱き寄せ、本来であればそうなのだろう、と自嘲する。


 それはできない。


 切り崩しを図るにはトウカは敵意を買い過ぎた上、既得権益を真っ向から否定し、初代天帝からなる貴族制度にすら手を付けようとしている。


 切り崩すには思想(イデオロギー)面での隔たりが大きい者が余りにも多過ぎた。本来であれば、切り崩せるであろう者達も、思想によって纏まる陣営からの離反が高確率での死を意味する事を理解している。実利による離反よりも遺恨は根深くなる傾向にあった。思想とはそうしたものである。よって切り崩しは一層と困難な状況に陥っていた。


「我々が一時的に軍事力で黙らせてきた者達は、我々の弱みや負い目に全力で付け入る。徹底的に追撃し、嬲り者にするぞ。僅かなりとも有利な時節あらば、相手は勇んで打撃を加えるだろう。今この時、我々が成しているが如く」


 故に先手を打って相手の権力と財力、軍事力を徹底的に削がねばならない。可能ならば、殲滅する事が望ましい。当然、それは政治的ではなく、軍事的……物理的な断絶であらねばならなかった。


「またその様な事を仰られて……一面に於いては事実でしょうが、それだけが世の全てではありません」


「その一面が大きいと俺は確信している。完膚なきまでの報復ほどにヒトを酔わせるものはない。他者への打撃こそが自己の尊厳を良く取り戻させる。誰しもが他者を叩く手を止めはしない」


 ヒトのどうしようもない一面であり、紛れもない真実である。


 そこを見ずに理想を謳い、綺麗な御題目を唱える者は多いが、その全てがヒトのそうした一面を前に頓挫している。


「御前が成したいと言うならば好きにするといい。国益を毀損する真似をしない。御前もヨエルも。だが、国家憲兵隊の重武装化は遅滞なく勧めて欲しい」


 クレアとヨエルが試みるならば、それなりに上手く進む可能性もあるとトウカは見ていた。二人と近しい関係であるという贔屓目などではい。永きに渡り国権に侍る熾天使と、行政警察や司法警察としての権利を持つ国家憲兵を掌握する妖精であれば、硬軟織り交ぜた折衝が可能である。


 権力に対する各種警察業務を担う都合上、そこには相応の軍事力を有している必要性がある。


 国家憲兵隊を運用しない国家は、常備軍を組織してない程に無防備な国家に等しい。国家は外敵と相対する常備軍だけでなく、銃後の敵に備えて国家憲兵隊を用意する必要がある。無論、歴史上を顧みれば、秘密警察や情報部などが権力や反動勢力に対する抑制の主軸となった例もあるが、総じて常備軍に劣らぬ正面装備を有していた点は変わらない。


 そして、国内での弾圧や牽制を前提とした戦力には戦車は当然として、軍艦を有していた例もある。


 トウカとしては国家憲兵隊の重武装化は急務であった。


「皇州同盟軍の武装親衛軍への転換も遅れているからな」


 名称が変わるだけだと見る者が多いが、皇州同盟軍から武装親衛軍への転換は装甲師団と機械化歩兵師団を大部分とした機動的な軍事力への転換でもある。戦場での打撃に重きを置き、戦線維持などは想定されていない。無論、要人警護や特殊兵器の運用なども行うが、その規模は陸上に於ける機動的な戦力と比較して僅少である。


 実験的要素……装備から運用に至るまでの広範囲に渡って多くの試みを成す為の編制である為、未だ形になったとは言い難い。それ故に早々に戦闘に投じて消耗する事は躊躇された。武装親衛軍によって蓄積された知識(ノウハウ)は陸海軍にも展開されることになる。


 陸海軍もまた新兵器やその運用に関する知識の習得に余念がないが、旧来の兵器や運用に固執する者が多く、それらの妨害や消極性を完全に排除できない。そこで、競争相手にして新兵器や新たな運用に対して寛容な、押し付けられる事に慣れた皇州同盟軍に属していた将兵、特に旧ヴェルテンベルク領邦軍将兵にも模索を求めた。


 旧ヴェルテンベルク領邦軍将兵は、マリアベルの突然の思い付きからなる兵器を押し付けられて途方に暮れる事は日常茶飯事であった。新兵器を学習し、その余力を以て敵と戦うという変則的な領邦軍の性質は、少々の無茶にも不満と反感が生じ難い土壌に繋がっている。


 しかし、装甲部隊の車輛や航空隊の航空騎に携わる者は技能職であり、その練成は歩兵程に容易ではなかった。


 砲兵隊を運用が容易な多連装擲弾発射機(ネーベルヴェルファー)に変更するなどの工夫で練成期間の削減を図っているが、装甲師団を内戦時の三倍揃えようという目標自体が短期間では不可能なものであった。


 陸軍と戦闘車輌の取り合いもあり、それもまた遅延の原因となっている。皇都憲兵隊の一部は騎兵科が解散した事で生じた騎馬を運用して治安維持に当たってすらおり、戦闘車輛は全軍での爆発的需要増加の前に致命的な不足が続いていた。


 そして、最大の問題点は消費物資の増大に輜重線とそれ支える行政全般の不足に在った。


 皇国軍全体で重武装化が進む中で、既存の輜重線やそれを運用する行政は既に限界を超えていた。戦車一輌とそれを運用する装備一式だけでも、一個歩兵大隊を一週間維持できる物資に近い重量となる。それは本来想定されていた規模を遥かに超える。


「鉄道総監の皮肉も国土交通府長官の悲鳴も無視する事はできない」


 トウカは余りにも足りぬモノが多い現状に足止めを受けている。


 クレアが国益に敵う試みを望むのであれば、それを許す時間的余裕は十分にあった。


「時間はある。必要なものも調達するといい……だが、報告は忘れるな」


 互いの行動が相手の行動を阻害、或いは無駄にする可能性もある。


「感謝致します。我が天帝」


 瀟洒に一礼する浅葱色の妖精。


 妥協の余地があるという錯覚を齎す程度の働きは期待できるかも知れないという打算と、反動勢力の分断……までは行えずとも統一した行動を阻害できるという期待もあった。


 致し方ない部分もあるが、トウカはクレアの暗躍を不安とも考えていた。


 情を交わした相手に対して非情になり切れない。


 トウカは困ったものだと自嘲する。


 感情の折り合いよりも合理性を見い出せたからこその決断であるが、今後も全ての名目に対して合理性を確認できるとは限らない。


「しかし、報告は毎日行います。陛下がおわす地が皇都なのです。小官は憲兵の長として御身が陣を構える地の安寧を用意せねばなりません」


 右手を胸に当て、己の義務を謳う浅葱色の妖精。


 清楚可憐な仕草と表情の中、眼光だけは職業軍人のそれである。


 フェルゼンは軍事都市であり、当然ながら首都機能など備えておらず、皇都としての運用は困難であった。対照的に軍事的防禦力という点に関しては皇都を上回るが、国家の中心となるには立地的にも問題がある。軍事的防御力を優先し、他地方や他都市との交通網整備を最小限に留め、シュットガルト湖からの水上交通に偏重している事も懸念材料であった。


 現在も各行政の中心は皇都にあり、トウカはフェルゼンより高速偵察騎を用いて指示を出している状況であった。フェンゼンにはそれを可能とする航空行政が存在する。


 トウカはクレアの手を取る。


「……なら、夜毎、報告に訪れて欲しい」


 甘えであり弱さである。


 困り顔で問い掛けるトウカの胸中を察したクレアは、トウカの手を握り返す。


「御望みとあらば」


 緩やかな笑みで応じる浅葱色の妖精。


 権力の奥底で寂寥と愛執が渦巻いていた。










「この辺りの船渠(ドック)は損傷艦の修理に充てられております」


造船技官の紹介に、若き天帝は大きく損傷した軍艦を見上げる。


小規模な遭遇戦ばかりだった中、近年まれにみる大海戦での被害は皇国海軍の戦力を忽ちに払底為さしめた。


帝国海軍の主力と比較しての被害は小さいと言えるものの、その事実を以て皇国海軍の被害が減少する訳ではない。仮想敵として世界最強の神州国海軍が存在する以上、寧ろ状況は悪化している。


艦艇建造と慣熟までの期間を踏まえれば、嘗ての戦力を取り戻すには五年の歳月を要すると見られていた。


「〈グラーフ・カレンベルク〉型か。修理を優先しているのか?」


「はい、陛下。速力のある艦艇を優先して修理せよとの命令を海軍より受け賜わっておりますので」


若き天帝であるトウカの言葉に造船技官のマキノが応じる。


制海権確保の為、速力のある艦艇の復帰を最優先していると推測したトウカは、海軍の窮状を察する。皇州同盟軍艦隊所属の艦艇である〈グラーフ・カレンベルク〉型の修理を優先している所に一層の焦燥感が垣間見えた。


「軍人まで手伝いに駆り出されているのか。役に立つのか?」


「単純作業も多いですので。それに軍人は体力もありますし、修理と並行して食糧や弾火薬などの積み込み作業を行えば出渠までの期間を僅かなりとも短縮できます」


 使えるものは何でも使うという姿勢に、造船所と鎮守府、艦隊の一層の連携が行われている事が見て取れる。要求に対して不足する造船所を可能な限り最大効率で運営する為、組織の垣根を超えた姿がそこにはあった。


「苦労を掛けるな。こうした皺寄せが起こらぬ様に改善するだけの予算は組むが、それが形になるのは随分と先だろう」


造船所の新設に拡充、人員増強、物流改善などは予算を充てたからと忽ちに是正される問題ではなかった。付随する設備や行政の整備、それに習熟する人員を踏まえれば、規模は四倍を数える。


「何を仰いますか。陛下が国防に最善を尽くされている事、北部臣民に知らぬ者はおりません」


 北部臣民と限定するところが、実に北部臣民らしい物言いであるが、穏やかな所作のマキノまでもがそうした言動を顧みない所に問題の根深さの一端が窺えた。


「それに、この艦は陛下の御言葉によって改修され、活躍致しました。この艦の初期設計に関わった者として子々孫々まで語り継げる偉業に御座います」


 マキノの言葉に、トウカは苦笑するしかない。


 水上偵察騎の作業甲板を廃し、対空兵装の増強に利用するという提言のみに過ぎなかった。


 付け加えると艦首方向に魚雷を投射する事を目的とした複雑な機構の故障率と、魚雷発射管という構造上の弱点を理由として廃止をトウカは提言したが、当時存命であったマリアベルは対艦攻撃能力の不足を懸念して退けた。妥協の産物として〈グラーフ・カレンベルク〉型重巡洋艦の改装があったのだ。


「艦尾への対空兵装増強程度の提言だったが……」


 経空脅威への対策として、水上偵察騎の作業甲板を廃し、余裕のある艦尾に無数の高角砲と機銃を増設するという提言は、〈グラーフ・カレンベルク〉型重巡洋艦の対空戦闘能力向上だけでなく、トウカが艦艇に対しても航空攻撃が脅威であると見ているという傍証でもある。


 〈グラーフ・カレンベルク〉型重巡洋艦四隻は、戦艦を足止めし、群がる水雷艇を阻止したという記載があったが、トウカは多忙を極めた時期であった為に流し読み程度で詳しくは見ていなかった。流し読みによる概要の限りでは改装前でも可能な戦闘であるように思えので、トウカとしては然して印象に残っていない。


「提言なくば、この艦も水雷艇の襲撃に抗する事すら叶わなかったでしょう」


 マキノの賞賛に、随分な買い被りをするというトウカの苦笑。


 周囲の者もが誰も止めないのは称賛であるからか、或いは紫苑色の独裁者の勘気に触れたくないからか。


トウカが納得していないと見て、マキノは尚も言い募る。


「この艦の設計思想は投槍に御座います。それ故に主砲を艦首に集中配置し、優れた速度で一撃離脱を狙う。魚雷まで前方投射できるように致しました」


控えめに見て極端な設計思想の艦である。


しかし、建造開始当時の主君がマリアベルであった事を踏まえると納得できる事である。魚雷発射管の左右への展開機構や、陸上戦艦にも使用された海防戦艦の主砲配置は局地戦に特化した構造である。


 それは、シュットガルト運河という特殊な戦場を前提とした為に前方集中配置だった。


しかし、〈グラーフ・カレンベルク〉型重巡洋艦は速度をも求めた為に船体形状が鋭利で搭載容積に乏しく、軽量化の為に副砲などの搭載数も既存の重巡洋艦よりも抑えられている。


 それ故に小型艦への対処能力に不安があった。


「成程、北大星洋海戦に於ける水雷艇への対応は対空兵装で行ったか」


思い当たったトウカは、そうした先例があったと思い出す。


軽空母が商船を高角砲で撃沈した実績もある以上、水雷艇を迎撃する事は不自然ではない。大戦末期には護衛駆逐艦の主砲として高角砲を流用して搭載していた例もあった。投射量からみても有利である以上、迎撃には最適と言える。


「陛下の御慧眼には海軍の大砲屋も感謝しているでしょう」


「本来の用途とは違うがな……それに被害も多かっただろう」


搭載した対空火器は量産性向上の為、陸上部隊向けの流用品であった。


つまりは砲を操作する人員を守る防楯などは正面に最低限でしかなく、破片や爆風に晒される事になる。後甲板が血と臓物で赤黒く染まった事は疑いない。


艦尾を見やるトウカ。


海水で洗い流したのか、甲板がヒト由来の染料で変色している事はないが、確かに後甲板に集中配置された高角砲や対空機銃はその多くが金属の残骸と成り果てている。船体や主砲の修理が優先されているのか未だ撤去されていなかった。


 船渠の端からの威容は、トウカの知る祖国の打撃戦艦などには大きく劣るが、その鋭利な印象は戦闘艦であるとの印象を受けた。鋭角な形状は攻撃性を思わせる。


「我が陛下、本艦の乗員に御言葉を頂きたく存じます」


周囲の人垣の中より進み出た一人の大佐の言葉に、憲兵が割り込もうとするが、トウカがそれを制する。


「この船の艦長か?」


「はい、陛下。〈第三巡洋戦隊〉重巡〈グラーフ・カレンベルク〉艦長を拝命しておりますレイヴォネン大佐であります」


一部の隙も無い敬礼。


天帝として鷹揚に頷くべき場面だが、癖で答礼するトウカ。背後のリシアの咳払い。


「本艦の乗員は小官を含め先のシュットガルト運河の海戦に於いて武運拙く撃沈した重巡〈クララインシュミット〉の乗員であります。一度、御身の命令で戦い、二度目はその屈辱を濯ぐ機会を与えられた者達に御座います」


皇州同盟軍艦隊の重巡洋艦である以上、内戦中の海戦と帝国との海戦の双方に参加している者が居るのは不思議ではない。


レイヴォネンの軍装の右胸に窺える略綬(ローゼット)の数は、歴戦の勇士であることを示していた。容姿のみで年齢を把握し難い皇国人だが、正装の軍人のだけ戦歴だけは明白である。


 トウカは困ったと、軍の上から頭を掻く。


「国家に報いよとでも言うべき場面なのだろうがな。己の人生は己次第だ。軍人で在り続けるにせよ、民衆として新たな道を進むにせよ、それを止めはしない」


愛国心を国民間に醸成する義務が国家指導者にはある。


 有事に至るまでに燃え上るべき激情が醸成されていなければ、それは主権者の落ち度であるが故に。


 トウカは懐から煙草箱(シガーケース)を取り出し、葉巻を咥える。


 多くの者達に死を命じてきても尚、トウカは個々人の意志による挺身を強く信奉していた。流されただけの愛国心に鋼の戦意を求める無意味を桜城家の者として、トウカは痛感している。


 戦士としての途を強制するようでは、愛国心は毀損される。


 自らの意志で死地に赴く高潔と激情それこそが、良く国家を(たす)けるのだ。


 故にトウカは煽動する事は在れども途を強制する事はない。


 殉教者が無言で背を押す宗教よりも残酷に、正者として皇国臣民の在り方を示す。


「伝えろ、遍く、永久に」


紫煙と共に吐き捨てる。


 トウカは皇国という国家の成立理由を、目標を理解している。そして、仔狐との在り得たかもしれない未来の揺り籠として機能する集団と見ていた。


 それ故にトウカは、赤子なき揺り籠を尚も揺らしている。否、恐らくは多くの者の濫觴が詰め込まれた揺り籠だという認識はあった。眼前に並ぶ様々な表情がそれを証明している。


 だが、それでも本来あり得たかも知れない未来はそこになかった。


 多くの者達を向こうに、トウカは皇国臣民の在り方を示す。


「好きに生き、好きに死ぬがいい。臣民が種に違わず成すべき事を為すが儘に赦す為に皇国は存在する」


 種族も民族も貴軍官民も関係なく、少なくとも法律を逸脱しない範疇に於いては物事を己の判断で決断できる国家でなければならない。それを国是とし、その為に建国された国家なのだ。そして、個々人の決断の選択肢を一つでも多く用意する為、指導者は国家により多くのモノを用意せねばならなかった。それ故に国家指導者は絶大な権力を佩用する事が赦されている。


 トウカは直立不動のレイヴォネン、頭一つ高いその姿を見上げ、その双肩を叩く。


「さぁ、御前はどう生きる? そして、どう死ぬ?」


 それは悪魔の囁きのようでいて。


 トウカも答えを求めてはいなかった。


 緩やかなる自由、その先に挺身を厭わない愛国心があるのならば、行き着く先はそう多いものではない。


 結局、誰かを愛し、その所属集団を護る為の決断とは限られる。


トウカはリシアに促され、次の船渠へと足を向けた。










「会議内容としては消極的で些か驚くものがあったな」


 トウカの言葉に、初老の侯爵は苦笑を零す。


 農業と水産、林業などを取り仕切る職責を拝命したレジナルドは、先の会議をさも自然現象であるかのように評したトウカの言葉に奇妙な諧謔を感じた。


 当然、自然現象ではない。


 レジナルドの説得によるところが大きい。


主要な北部貴族領地を持つ主要な北部貴族の意見を汲み上げる名目で開催された会議には多大な緊張感があったかと言えば、そうではなかった。武断的な貴族が多い上、トウカが北部鎮護の為に死線を幾度と踏み越えた実績を知るからである。戦士に対する礼節を彼ら彼女らは弁えていた。無論、北部貴族なりの、という言葉が前置きに必要な類の弁え様であったが。


 レジナルドは、頭を掻いて、誤魔化してみる。


「謙遜も過ぎれば付け入られる隙になる」


「手柄を誇示するのは、どうも気恥ずかしく感じる質でして」


君にもそうしたところがあるじゃないか、とは胸中で思いはすれど、名実共に君主となった相手に対する言ではないとレジナルドは曖昧な笑みで応じる。


北部貴族は自領の発展の遅れ、或いは荒廃に強い危機感を抱いている。


近年の情勢を見れば当然で、発展が遅れているところに帝国軍侵攻が発生し、それによる人口流出は労働力と税収の両面で不利を齎しつつあった。


「十年間の税の免除は良いが、鉄道路線の敷設をあの規模で求められるとは、な」


 他国よりも威容を持つ皇国の鉄道車輛は主要路線のみの特権である。それ以外では軽便鉄道……皇国基準ではそう呼ばれるが、他国基準ではそれでも大型のそれが主要な鉄道車輛として採用されている。当然であるが軌間が大きく違う為共用できず、去りとて統一するにはかなりの歳月を要する為、放置されていた。そこにヴェルテンベルク領の独自規格まである為、三つの規格が国内に存在する事になる。


鉄道による輸送力は絶大である。


船舶を除けば時間単位当たりの輸送量は最大であり、それは陸上での輸送量最上位を意味する。そうした輸送手段のあるところに各種工場などの建築を目的とした用地取得が始まった事を受け、北部貴族の多くは鉄道による恩恵を理解し始めた。


長距離移動手段に乏しいという不便が人口流出を招くと、トウカが口にした点も大きい。労働者の住まう土地と労働現場までの移動時間短縮は、労働者の住まう土地の分散と広範囲化を齎す。それは即ち労働現場を数多く有する都市部への人口集中を低減する事に直結する。都市側としても過度な地価上昇や人口過密を抑制できる為、損失ばかりの話ではなかった。北部の都市は人口が集中するには公共施設(インフラ)が脆弱に過ぎたのだ。


「皆が鉄道の利点を理解したのでしょう。農作物の供給範囲も大幅に拡大するので食糧が不足しやすい領地を持つ貴族としても死活問題ですからな」


 それはレジナルドが積極的に鉄道路線敷設を推進する理由でもある。ともすれば国土開発府よりも熱心に推進しているとすら陰で言われる程に熱心な動きに、北部貴族の多くが賛同した結果として鉄道路線敷設の嘆願が相次いだ。


「発展の糸口になり、それは国益に繋がるのだ。異存はない……だが、ヴェルテンベルク伯爵領との連結を望む声が多いのは困るな」


 規模だけで言えば北部最大の都市であるフェルゼンを要するヴェルテンベルク領との連結は大きな利益を齎す。工場群に複数の採掘場を有する為、その利益が鉄道を通して流れ込むとの期待があったのだ。周辺貴族だけでなく、北部貴族全体がそうである事がその期待の大きさを示している。


 当代ヴェルテンベルク伯は先代とは対照的に温厚である為、連携する余地があると見られている事も大きい。


 トウカとマリアベルの関係は広く知られている為、北部貴族ですらそうした意見を口にする事は憚られたが、レジナルドとしては無意味な配慮に苦笑するしかなかった。良くも悪くもマリアベルの名を出した程度で機嫌を損ねる程に単純な人物ではない。


 結論として、ヴェルテンベルク領への鉄道路線連結の嘆願は退けられた。


海軍がヴェルテンベルク伯爵領への鉄道路線連結に非公式で難色を示し、トウカがそれを受け入れたのだ。


その結果、ヴェルテンベルク伯爵領では領外と連結する鉄道敷設計画は立ち消えとなった。他の貴族領の鉄道敷設を優先して譲歩した様に見られているが、実情としてシュットガルト運河の拡張に予算を割きたいとの意向もあった。


 ヴェルテンベルク伯爵領は軍需物資や戦闘車輛、船舶建造。それらを支える資材製造の拠 として発展する事になる。外部との主要な移動手段はシュットガルト湖を通しての船舶移動となり、土地そのものの独立性を保持させ続ける形となった。防衛と防諜が主な理由とした軍都化であり、現在のヴェルテンベルク領で海軍艦艇の修理や建造が行われている事からもそうした意図は窺える。


 自らが手入れする家庭菜園で果物を収穫する男二人。


傍から見れば祖父と孫とも見えるが、その内容は後の皇国北部の交通を左右するものであった。


「ヴェルテンベルク領は狐の楽園になっちゃうねぇ」


偽らざる感想を述べるレジナルドに対し、トウカは首を傾げる。


 増加しているとは言え、狐系種族は極僅かに過ぎないが故の困惑である事は容易に察せる。同時に現在のヴェルテンベルク伯爵領の運営を主導しているのは紛れもなく狐系種族である為、強ち間違いでもなかった。


「これからも狐達が流れ込んでくるだろうね。政治に疎くて狐系種族の高位貴族はいなかったから」


 孤立している訳ではない自由気儘な気質の者が多い狐達は皇国に於いて政治的な立場を得る事ができなかった。系統種族としての紐帯に乏しく、ひとつの種として政治に於いて一角を占める事が出来なかった事は各議会の議席を見ても一目瞭然である。本来、系統種族とは組織票という側面も併せ持つが、狐は政に興味を示す者が少ない。


「なんでも、最近は狐の好物とかで集まってくるらしいね?」


「……種族に特権的な振る舞いを許す訳でなければよい」


 レジナルドは狐の好物の幾つかにトウカが関わっている事を知っている。


 それ故に、トウカの一拍の間の空いた返答に苦笑を零した。






 


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