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紫苑穢国のエトランジェ  作者: 葛葉狐
第三章    天帝の御世    《紫緋紋綾》

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第二七六話    在るが儘に Ⅱ






「御前……そうか、そうだったな」


 トウカは起こしかけた上半身を再び寝台へと投げ出した。


 隣には裸体を毛布に包んだクレアが、無邪気な表情で静かな寝息を立てていた。


 酷く乱暴な事をした記憶が断片的に脳裏を過る。


 痛む心が他者に痛みを押し付けようとするかの如き振る舞いに、トウカは自嘲を零す。実に人間らしくなったではないかという諦観と失望。


 宿痾(ふつかよい)の鈍痛に頭を振り、トウカは寝台横に放置された硝子杯の水を飲み干す。


「酒か……」


 水ではなく米酒だったそれに溜息を一つ。偶発的迎え酒であるが、予定もない身としては然して困る事でもない。


 朝日は遮光幕(カーテン)に遮られ……と称するには、壁時計の示す時間は昼時であり、些かの語弊が生じる時間を確認したトウカは何かをする気が失せた。


 朝飯だけでなく昼飯まで抜いてしまう事になるが、身を包む倦怠感は如何ともし難い。鈍痛もそれを後押しした。


 しかし、トウカの身動ぎは隣の女性の意識を浮かび上がらせた。一人用の寝台に二人である以上、身を寄せ合う形であり、相手の動きは手に取る様に感じ取れる。


「……トウカ君」


 寝台に身を横たえたまま、毛布で口元を隠したクレアがトウカを見つめる。


 恥じらう様で、躊躇う様で、期待する様で、喪っても尚、清楚可憐な在り方を喪わない。否、喪った今こそが咲き誇る満開であるかの如く思わせた。


「手酷く扱ったな……悪い」


 クレアの手を掴み、手首の痣にトウカは溜息を一つ。


 清楚可憐に微笑む姿を見れば、また穢したいという感情が鎌首を擡げる。大切に扱うのではなく、彼女を乱暴に傲慢に力強く組み敷きたいという昏い欲望。それを受けて尚、それを思わせない仕草がトウカの情欲を誘う。


「もう一度、その……しますか?」


 クレアがトウカの胸板へと上半身を預け、鼻先へと顔を寄せる。散々に交わった後の薫りを思わせない甘さが鼻腔を擽った。


「私、痛くても頑張れます」


 陰りのない微笑がトウカを誘う。


 酷く魅力的な提案に、己の欲望が目覚める感覚を覚えたが、クレアの額を人差し指で押し退け、誘惑を断つ。酒精(アルコール)が抜けて尚、本能のままに押し流されては無様が過ぎるという、言い訳のない中で組み敷く事を恐れたのだ。彼は良い訳を求めた。喪っても尚、義理立てする理由を切実に求めた。


「やめろよ。此処は男の所為にしておけ。そういうものだ」いや、そういうものらしい?と自問するトウカ。


 男は捨てるが、女は喪うのだ。何も必要以上に喪う必要はないと嘯き、トウカはクレアの両肩を掴んで引き剥がすと、寝台から足を下ろす。


「貴方は私に誘惑されただけ。貴方は何も悪くない」


 トウカを背から抱き締めたクレア。


 噎せ返る様な甘美な香りと、背に押し潰された柔らかな感触。トウカの胸板を這う白皙の細い指先。


「女にそこまで背負わせる男を好いたと、御前は胸を張って言えるのか?」


 白皙の指先を掴み、トウカは右肩に顔を預けてきたクレアに問う。


「好いた男に合わせるのが女という生き物なのですよ。それができないなら誰も愛せませんから」


 何を莫迦な事を、と言いたげに微笑むクレアに、トウカは思い出す。


 ミユキもマリアベルも、己を曲げてまで自身に合わせていた事を。


「そうだったな……そうさせてしまった」


 恋愛でも主導権を求めた結果、二人には随分と無理を強いた。今となっては、トウカにもその自覚がある。


 しかし、それすらもクレアは赦した。肯定した。望んだ。愛した。恋した。


 囁く様で、嘆く様で、願う様で、(のぞ)む様でいて、白皙の美貌で妖精はトウカの無様を優しく包んだ。


「貴方の真価は他者に力を行使している時にこそ示される。なら、寝台でもそうある事は別段おかしな事ではないの。思う侭に振る舞えばいいのです。世の中にも、私にも」


 なんという事を言うのか。トウカは息を呑む。


 そうして失敗した男に、尚も嘗ての如く振る舞えと、それが当然だと嘯くのか。


「ヒトの本質は変わらない。貴方は何時かにそう口にしました」


 足踏みしたところで、変わると願ったところで、停滞したところで、何一つ変わる事はない、とクレアは断言する。


「ヒトは進むしかないのです」


 酷い言葉であった。


 だが、それ故にトウカはクレアが忌憚のない本心で、ヒトの本質を語っていると痛感した。何より、それは嘗て己が口にした言葉なのだ。在りし日の言葉が巡りて己の無駄と無意味を追求する。


「御前は……狡い女だな」


「天使に育てられた妖精ですから」


 狡猾も計算高くも成れると、クレアはトウカを抱き締める。


 しかし、そこでお腹が空腹を訴えて鳴る。


「狡猾も計算高さも勉強中のようだな」トウカは苦笑する。


 不意に彼の胸板を這う指先と、背の柔らかな感触が消えた。


 振り向けば妖精は毛布に潜り、寝台上を右に左へと転がっていた。男の無様を唆す癖に羞恥を覚えるのかと、トウカはクレアもまた負けず劣らず歪んでいると寝台方立ち上がる。


 背伸びをし、酒精に犯された息を吐き捨て、トウカは肩を鳴らす。


「取り敢えず昼飯を用意する」


 転がる事を止めた姿を同意と受け取ったトウカは、クレアに背を向けた。











「糞っ、始まったか! 素人共め!」


 大将に昇格し、〈ヴェルテンベルク統合打撃軍〉の指揮官代理を務めるタルヴェラは、戦況が動いた事に罵声を吐く。


「中央戦線は機動防御に移る! 〈第一装甲軍団〉は一翼突破を行う! 航空艦隊に攻勢地点への近接航空支援を要請!」


 後退しながら本格的な衝突を避けていたが、これ以上の後退は許されていない。何より引き付けねばならない都合上、相応に食い付かねば陽動であると事が露呈しかねない。


 今ならば、まだ航空支援や戦線の戦力密度の向上を意図した後退であると錯覚させることができる範疇にある。


「閣下、全域での航空攻勢に切り替えるべきです。砲兵と同様で装甲師団の攻撃地点を察知されかねません」


「航空参謀、御前は軍神の何を見ていたのだ?」


 砲兵の事前砲撃の場合、半日かけた十分な砲撃では攻勢地点が露呈する為、事前砲撃を程々にして攻勢に移行する場合が多いが撃ち漏らしも少なくない。しかし、航空支援は瞬間的に大規模な破壊を齎す事ができる。掩蔽された対象に対する砲兵の命中率は低いが、航空攻撃に対する擬装は未だ発展途上であった。魔術的な遮光(ステルス)防護を行うならば、有力な魔導士を集中させざるを得ず、それは魔導戦力の広域に対する即応能力低下を意味する。


 対帝国戦役で化学兵器の運用に踏み切った皇州同盟軍を相手に、その選択はできない。


 魔導戦力を集中させ、他の戦線で化学兵器を運用するという思惑を敵軍指揮官は幻視してしまう。魔導資質に優れる者が多い皇国だが、トウカの奇策で運用された化学兵器による攻撃を無視はできなかった。


 魔導戦力の集中こそが相手の思惑であると疑心暗鬼に陥っている事は疑いない。


 化学兵器を前提とした奇策を、彼らは決して無視し得ない。


 軍神の在り処を知らぬが故に。


 軍神は遍在性を伴って未だ戦野を彷徨していた。


「航空艦隊による近接航空支援は、極短時間で目標地点の対処能力を飽和させる。露呈したところで相手に対応する時間などありはしない」


 トウカは速度を何よりも重視していた。


 戦力の移動と意思決定の速度。双方の底上げによって対象の処理能力を飽和させ、奇襲的に押し切る。


 特に相手は各領邦軍による聨合である。統一的な指揮系統を形成できたことは称賛に値するが、統一された指揮系統のみが統一した戦力運用を実現せしめる訳ではない。不備は多い筈である。


「守りであっても出る杭を打つには速度が肝要。敵の攻勢を機動力で挫くのだ」


 タルヴェラは敵の誘因と防禦を命じられたが、攻勢を限定された訳ではない。


 可能ならば〈ヴェルテンベルク統合打撃軍〉で皇都を直撃したいと考えていた。


 しかし、眼前の中央貴族による連合軍は一個軍集団であるが、戦場に到着している〈ヴェルテンベルク統合打撃軍〉は未だ一個軍団程度の戦力に留まる。両軍共に変則的な編制だが、兵力差は六倍近い。


 流石に、全軍で突破を図る事は難しく、無理な攻勢は半包囲を招きかねない。


「更に後退して増援に予定されている二個軍団との合流という手もありますが……」


「索敵軍狼兵の触接激しく、進軍は遅延している。悠長に合流などすれば勝機を失うぞ」


「一層の事、街道への攻撃を容認してみては? 輜重を脅かせば動きも低調になるかと」


 参謀達の議論に、タルヴェラは加わらない。


 既に攻撃は決まり、その次の一手を議論する段階である。


 彼らの議論に方向性を加えては、最適解を曲げる事になりかねない。タルヴェラは参謀将校という酷く合理的で臆病な者達を良く理解していた。無論、自身の厳格にして謹厳な顔立ちによる委縮の産物であるとは理解していなかったが。


「やはり、航空攻撃で右翼を叩いて突破する構えを見せるべきかと」


「突破は難しいか……」タルヴェラは腕を組み唸る。


 自走砲に対戦車自走砲、突撃砲と、皇州同盟軍の中でも〈ヴェルテンベルク統合打撃軍〉は特に自走化が進んでいるものの、短期間で全てを自走化するだけの工業力は皇州同盟にもなかった。


 加えて、歩兵用の歩兵戦闘車や兵員輸送車などは〈ヴェルテンベルク統合打撃軍〉ですら三割に留まっている。苦しい台所事情の中での選択と集中の結果、中戦車の生産が最優先され、歩兵の移動に戦車跨乗(タンクデサント)が多用されている状況に変わりはなかった。寧ろ、部隊全体の移動速度底上げの為、歩兵輸送用の牽引車輛などが用意される事態となっていた。


 敵軍を引き離して皇都に踏み込むまでの速度はなかった。


 打撃を加えて混乱を誘い、突破を図る事は難しい。


 存外にそうした意見が飛び交う状況に、タルヴェラも叶わぬ夢と悟る。


 参謀達が物理的に成算が低いと見るならば、それは紛れもない真実である。願望を含ませない推論の提示こそ参謀の本分に他ならない。


「戦略爆撃航空団に出撃要請をしてみてはどうでしょう?」


 航空参謀の進言に、タルヴェラは眉を跳ね上げる。


 口に咥えていた葉巻の灰が落ちる。


「皇都を爆撃するというのか」


 二重の意味で問題がある。


 国内都市に対する戦略爆撃という風評と、戦略爆撃航空団の運用という認可の必要な案件を参謀本部や総司令部に図る時間的余裕。その二つは余りにも過大な問題と言えた。前者は当然であるが、後者の場合、ベルセリカの不在による決断の遅延が予想される。責任者不在の決断は往々にして遅延する場合が多い。


 ベルセリカは既に無線封鎖の中にある。直接、許可を取る事は難しい。命令系統への干渉という話になりかねない。誰しもが責任を取る事を厭う中で果断が通る事は稀である。


「いえ、適当に宣伝紙でも撒けばいいのです」


「成程、攻撃の意図はないが、既に皇都を射程に収めていると実感させるのか」


「だが、戦略爆撃航空団の私的運用だぞ?」


 皇都防衛の為に集結した中央貴族の連合軍としては肝が冷える事態に違いないが、戦略爆撃航空団の私的運用と言われては頸が物理的に飛びかねない案件でもある。独断専行の気質がある皇州同盟軍と言えど、戦略兵器という扱いをされる部隊を総司令官の承認なく運用するのは難しい。参謀本部への上申も混乱を招くだけで通る事はないと予想できた。


「しかし、敵軍の後退と混乱が期待できます。或いは急伸して攻勢を強めるか」


 長期化は皇都の戦略爆撃を招くと判断し、勝利を急がねばならなくなる。或いは、皇都の防備を固めるか。無論、防備を固めるとしても、都市防空が容易ではない事は内戦が示している。


 貴族による領邦軍の連合という軍事的紐帯に乏しい部分の露呈も期待できる。貴族や主義主張としての紐帯と、領邦軍という軍事組織としての紐帯は大きく異なるものがあった。元来は別組織であるが故に指揮系統は複雑化を免れず、軍の階級序列以外……宮廷序列の影響も大きい。そして、装備も練度も軍装も……場合によっては戦闘教義も違う。


 それらを以て連合とした手腕は政戦両略のそれであろうが、機略戦と機動戦に対応できるとタルヴェラは見ていなかった。


 現在に至るまでの小競り合い……遅滞防禦と阻止攻撃の中から、そうした軍事組織としての限界は窺えた。


「あの連中が全面攻勢を取るなら有り難いが……」


 今までが部分的な攻勢に留まるのは、足並みを揃えての運用に難があるからに他ならない。そうした部隊の運用が困難であるかは、各領邦軍の連合編制であった皇州同盟軍も未だに抱えている問題であり、参謀達も良く理解していた。


 無理な攻勢は大きな隙を齎す。


 トウカの航空攻撃は、その隙を相手に突かせない為の苦肉の策としても機能していたと、タルヴェラは見ていた。


 ともあれ、戦略爆撃航空団を動かすだけの根拠と認可がない。


 しかし、丸眼鏡に童顔の憲兵参謀が挙手する。


「あの……憲兵総監に話を通してはどうでしょうか?」


 大部分の参謀はその意味を理解できなかったが、航空参謀だけが唸る事で理解を示した。


 タルヴェラは、嫌な事をしっていると、憲兵は油断できないと、苦笑を零す。つまり憲兵参謀は〈ヴェルテンベルク統合打撃軍〉の憲兵参謀にたるに相応しい実力を備えているという事である。


「ふむ、戦略爆撃騎部隊の指揮官と昵懇であったな。その辺りで妙案が出るやもしれぬ」


 端的に言えば責任の押し付けである。


 無論、クレアの背後にヨエルが居る事が明白になった為、クレアは容易に罰せない政治的存在となった。軍人という立場に留まらず、軍事的問題だけで処分を決める事は難しい。彼女であれば、その辺りを察して判断を下すだけの冷静さと愛国心を持ち合わせている。


 何とも言えぬ顔をする参謀達だが、憲兵の伝手で戦略爆撃航空団の出撃を促そうと……唆そうと目論む事に対する忌避感は軍人として酷く正常と言える。


「はい、今は皇都ですが、皇都憲兵隊司令部の魔導通信を用いれば連絡は容易かと」


「飛ばせばいい。攻撃の必要はないのだ」


 皇都の警備に就いている航空歩兵との連携訓練としてヨエルに押し込む事も不可能ではない。戦略爆撃の余地があると再認識させるだけであれば、威嚇的な飛行すらも必要はなかった。


 タルヴェラには最善を尽くす義務がある。


 引き付けて拘束するというのが主目標であるものの、それには皇都直撃の意思を失っていないという姿勢を見せ続けねばならない。敵野戦軍に対する積極的攻勢が兵力差から困難であるならば搦め手しかなかった。


 別動隊の存在を気取らせてはならない。


 韋駄天の異名を冠するザムエルの指揮を、少なくともその片鱗を敵野戦軍の指揮官や参謀に錯覚させねばならないのだ。それは容易ではなく、防禦的な運用にも常に運動的な部分を求められる。


「戦略爆撃航空団の出撃に合わせて、こちらも戦線の一角を突き崩す。ある程度、敵の指揮系統を混乱させたい」


 拘束はより強力な形で行わねばならない。


 兵力的差が大きい以上、足止めと皇都救援を同時に遂行される可能性は捨てきれない。


 状況開始の延期や遅延が伝達されていない以上、タルヴェラは全力を尽くさねばならないのだ。総司令官が皇都に斬り込まんとしている中、敵主力の誘因失敗は総司令官の包囲と戦死を意味する。


「ならば、グロスフェルト侯爵の領邦軍司令部を捕捉したいところです」


「しかし、各領邦軍は連携に劣るが、それ故に個々で完結しています。大きな混乱を求めるとなると……」


 参謀達の議論。


 情報が不足している現状、正解を導くことは困難を極める。


 中央貴族の領邦軍という軍事組織は複雑怪奇な編制を個別にしており、人事ともなれば忖度の産物である事は恒例であった。加えて無数とある領邦軍の全てを把握する真似はできず、突然の合流と展開の経緯が不明確であるが故に主導権の所在すら確認できていない。


 本来であれば、掲揚された軍旗と領邦軍規模から見てグロスフェルト侯爵家の領邦軍が主力であるべきである。しかし、政治的に見ても軍事的に見ても電撃的な合流と展開であった為、その経緯と意向、根拠が不明確で主導権を握っている存在を認識できてはいない。


 別の意図があっても不思議ではない。


 軍事か政治によるものか。


 何処を攻撃するべきか。


 どこかの謀略に秀でた軍神の指揮統率を受けていた弊害から、皇州同盟軍の参謀将校の中には謀略や奇策を殊更に警戒する者も少なくない。近接航空支援と機動戦重視の姿勢を露わにした装甲参謀や航空参謀も同様である。


 現状、装甲参謀と航空参謀も攻撃を主張すれど、明確な攻撃地点と戦況の展開を読み切れないでいた。


「もう良い」


 タルヴェラは、戦機を逸する、と参謀達の議論を遮る。


 引くも進むも戦機あればこそ。


 軍神の戦争は、新機軸が交錯し、奇抜が過ぎる。傍目にも派手で効果も絶大であった。そうした戦果を目の当たりにした者達は、戦野に於ける詭道の余地を酷く過大に見積もる悪癖を生じさせるに至る傾向がある。


 詭道とは、現状の方法としては異端のそれである。不正にして卑劣と呼ばれる事もあるやも知れぬが、月日が過ぎればそれもまた常道となる。それこそが軍事的進歩に他ならない。


 彼らは、詭道が常道を打ち破る瞬間を幾度も目にしたのだ。


 本来であれば、一つの時代で一度邂逅すれば僥倖な産物に、一年程度で幾度も遭遇したのだ。未だ詭道が常道と認識されるに至るより先に新たな詭道が姿を見せる。それは参謀将校達が長年を掛けて学んだ軍事常識を完膚なきまでに破壊し、彼らに詭道を魅せた。


 詭道の運用を志し、そして詭道の影に怯えた。


「敵戦力の大部分は航空偵察で露呈している。奇襲を受ける余地は少ない。我らは積み上げた技術と兵理を以て之を退けるのみである」


 定かならぬものに怯え、定かならぬものを扱う必要はない。


 政治など知らぬ。

 詭道など知らぬ。


 ただ、己が持ち得るものを以て眼前の敵を打ち破るべく武力行使を行う。


「普通の戦をしようではないか」


 往時の戦友達の常道が劣っていた訳ではない。


 装甲部隊も近接航空支援もある。ただ軍事的妥当性の赴くままに軍事力行使を行えばよい。


 無理をして軍神の足跡を辿る必要はない。


 闘将とも呼ばれたタルヴェラの穏やかな声音。


 それが、アンテローツェ伯爵領を巡る一連の機動戦の切っ掛けであった。









「始まったッ!」


 年若いトラッペンヤクト男爵領邦軍に所属する年歳若い擲弾兵は、その肩を震わせて小銃を強く握り絞めた。対帝国戦役勃発に合わせ、中央貴族の領邦軍は戦時体制への移行を開始しており、政府からの要請に答えられる様に訓練と再武装化を進めていた。


 しかし、初戦は同じ皇軍となった。


 帝国軍との戦闘であれば覚悟はしていた。鯨波の如く攻め寄せる人海戦術に、皇国軍は火力を以て抗するべく、その為の装備と訓練に余念がなかった。


 そうした状況下で、相手が同じ皇軍となるのは、参加した中央貴族の領邦軍将兵の大部分が疑問に思うことであった。


 北部の好戦性と敵意に思うところはある。


 常に感情的であり、常に誰かを憎んでいると表現される北部の感性を、同じ皇国臣民とは思えないと考える者は少なくない。


 だが、それはどこか遠い場所を表するそれであった。


 内戦時ですら中央貴族の領邦軍の大部分は征伐軍に従軍する事はなかった。北部軍閥と干戈を交える機会もなく、気が付けば対帝国戦役に於いて北部軍閥は陸海軍と肩を並べて国難に立ち向かっている。


 再度の内戦はなく、国内は安定する。


 誰しもがそう考えていた。


 北部臣民以外は。


 中央貴族に政府、陸海軍……中央地域や他地域からすると国家の構成物という意識が強く、それらは一つの組織と見做されていた。対する北部臣民からすると、それらの勢力は全く別物のそれである。予算や装備、法律の面で影響ある関係にあれど、独立性の高い別組織という意識が大きかった。


 北部軍閥……現在の皇州同盟軍も、そうした意識の下で戦端を開いた。


 中央貴族の領邦軍に対する同朋意識などなく、寧ろ、政府に干渉して要らぬ法案で手足を縛らんとする最大の脅威であると北部臣民の間では見られていた。


 皇州同盟軍の戦意は高い。


 近接航空支援と称されるそれが、龍の嘶きを伴って迫る。


 両翼に警笛(サイレン)を装備して恐怖心を煽るその正体を、年若い擲弾兵は知っていた。


戦闘爆撃騎(ヤーボ)だッ!」


 皇州同盟軍隆盛の象徴にして、あらゆる軍事行動の先鋒を担う空の悪魔。


 士官の命令を受けて次々と塹壕に飛び込む兵士達。


 中央貴族の中にも龍種系貴族の領邦軍には戦闘騎が配備されているが、それらの姿は上空にない。今迄の戦闘……戦線の押上げで消耗激しく、大部分が撃墜、乃至地上撃破されていた。既に纏まった戦力として運用するに支障が出る程に消耗している。


「嵌められたんだろうな……」


 鉄帽を目深に被り、年若い擲弾兵……エグムント・ティーゲン伍長は、対空砲火の炸裂煙で汚れ始めた空を見上げる。対空射撃の音色は様々で、中央貴族は導入が間に合っていない為、軽野戦砲を改修したものが主流であるが、信管調定に時間を要するそれを扱いきれないでいた。一応、口径毎に防御砲火の範囲が設定されているが、戦域が広がる中、纏まった数の対空砲が用意されている地点は少なく、砲撃密度は極めて低い。未だ運用方法の模索段階にあり、その不備を彼らは血涙で補わねばならなかった。


 付近の塹壕が吹き飛ぶ。


 土塊と人体を巻き上げ、擂鉢状の着弾跡が次々と立ち上る。


 ティーゲンは、その炸裂が炎を主体とした燃焼効果を重視した爆弾でない事に安堵する。酸欠の末に焼死するのは避けたいという心情もあるが、その炎が容易に消化できない類のものであるという戦訓があった。北部軍閥の残虐性は国内外に広く知られている。


 ――奴ら、残虐である事が抑止力になるなんて言う輩だからな。


 ティーゲンは周囲の塹壕で怯えて過ごす兵士達を見て(あなが)ち間違いではないと、舌打ちする。敵将兵の精神に対する攻撃に対し、皇州同盟軍は実に多彩な手段を用意していた。


 爆弾の種類は実に多彩で、通常爆弾もあれば、無数に分裂する集束爆弾なども見受けられる。製造が未だ追いついておらず、砲弾などを転用している状況が続いているという噂が事実であった事を、眼前の光景が証明していた。


「伍長、向こうで新任少尉が……」


「航空攻撃は五月蠅いよな、一等兵」


 鉄帽の上から意見具申しに来た一等兵の頭を押さえ付けて黙らせる。


 馬鹿な若造の小銃での対空射撃に付き合う義理などない。混乱によって指揮系統に乱れがあるとはいえ、下手に指揮下に入れば無駄死にする上官とて少なくなかった。


 陸軍などで積極的に研究されている歩兵による対空射撃を行おうという試みは、各領邦軍でも見られる。対空砲の入手が容易ならざるものとなっている以上、創意工夫の範疇で歩兵による努力は試みられた。


 小隊規模で歩兵が地面に仰向けになり、小銃を構えて空へと対空射撃を敢行するのだ。


 軍神が鼻で笑った事で陸軍では下火になったが、対空砲が全く入手できない各領邦軍ではそうもいかず、創意工夫が続いていた。


 ティーゲンも、馬鹿らしい、と一笑に付すしかない。


 軽騎兵に命中させる事とて至難の業である距離を遥かに超える距離。加えて太陽による逆光や風も読み難い空への射撃ともなれば、命中は確率論ではなく神頼みの範疇となる。


 挙句に歩兵を地面に並べるのだ。敢えて視認されやすくなる真似をするなど馬鹿げている。遮蔽物に隠れてやり過ごすしかない。ティーゲンはそう考えていた。


「おい、あの莫迦な機関銃分隊を蹴り飛ばしてこい!」


 至近弾により土塊が降りしきる中、ティーゲンは盛んに銃火を撃ち上げている機関銃陣地を指さす。塹壕からなので銃火の方角を指し示すしかないが、莫迦を速やかに黙らせねば己の命にも関わる。


「了解です!」


「文句を言うなら、神々の御許に転属して貰え!」肩を怒らせて吐き捨てるティーゲン。


 揺れる塹壕。


 着弾の衝撃が地面を揺らし、三半規管を狂わせる。挙句に黒煙と爆炎、吹き上がる粉塵が空を穢して陽光を遮り、視覚を曖昧にする。上下感覚すら怪しくなりかねない程だが、着弾以外の振動、規則的なそれに、金属の軋む音が加わった。


「対戦車戦闘用意!」ディーゲンは叫ぶ。


 戦車の襲来である。


 塹壕から顔を出せば、槍先の如く隊伍を組み、進出する戦車の大群の姿があった。


 装虎兵とは違う、数十tという金属の構造物が見せる威圧感。


 凶器や恐怖が迫ると言われる装虎兵の突撃とは違い、鉄壁や山が迫るかのような圧迫感は、足を竦ませる以上に気圧(けお)されるものがある。


 無反動砲の導入は進んでいるが、その弾頭は三〇㎜~四〇㎜の装甲を破砕できる程度の性能しかない。皇州同盟軍主力中戦車であるⅥ号中戦車B型は追加装甲(シュルツェン)などを装備し、その撃破には八〇㎜近い貫徹力を必要とした。


「おい、履帯を狙え! それ以外は無意味だぞ!」


 三脚に搭載された無反動砲が指向し、くぐもった発射音を響かせる。


 無数の塹壕陣地にも類似したような光景が見受けられる。


 少なくない数が戦車正面に吸い込まれる。


 しかし、黒煙を突き抜け、鋼鉄の野獣は疾駆を止めない。


「流石に履帯は狙えんか……どうした! 次発装填! 各個撃ち方!」


 装甲に沿う様に展開している魔道障壁は攻撃によって消耗する。集中砲火によって飽和させてしまえば、装甲に対する直接的な攻撃が可能となる。


 呆然とする者達の鉄帽を、身を屈めて叩いて回るティーゲン。士官も居たが、上品に正気を取り戻させている暇はない。


 急な衝撃で塹壕に叩きつけられるティーゲン。


 突然のそれに肺の空気が叩き出されて、呼吸を失うが、喘ぐように空気を取り戻し、ティーゲンは崩れた塹壕の一部を見やる。


 運悪く戦友の幾人かが炒め物になったが、塹壕はその性能を完全に損なった訳ではない。


 敵が近いと判断し、歩兵の一部が小銃を手に塹壕から身を乗り出すが、そこで重機関銃……にしては過大な重低音が響き渡る。


 どこかで、対空戦車だ、という言葉が吐き捨てられる。


 歩兵にとって、それは中戦車以上の恐怖の象徴である。


 装甲で覆われた機関砲を四門搭載した移動式の特火点(トーチカ)と聞けば、歩兵からすれば恐怖以外の何ものでもない。歩兵が厭うて止まないものが結合したそれは極めて対処し難いものがある。


 重機関砲の掃射で顔すら出せない中、迫撃砲の着弾すら始まる。


「迫撃砲にまで接近を許したのか! 口ばかりの砲兵共め!」


 可搬性と射程に劣る迫撃砲による攻撃は、かなりの接近を許したという事になる。


 平素より技能職である事を鼻に掛けている砲兵科の面々に思うところがあるティーゲンとしては、今こそ彼らの怠惰と無能を罵る権利があると考えていた。無論、酒が入れば何時も罵倒していたが。


「車載型だろう、伍長!」


 滑り込んできた上官である中尉の階級章を付けた犬系種族の青年に、ティーゲンは目を瞠る。塹壕の外を駆けてやってくるなど無謀以外の何ものでもないのだ。挙句に酒臭いともなれば、尚更である。


「中尉! 持ち場は宜しいので!?」


 けらけらと嗤いながら「先程、吹き飛んだよ」と笑顔の中尉に、ティーゲンは「盛り上がって参りましたね」と嘯くしかない。


「あの迫撃砲。どうも自走型らしい。重迫まで装甲化して戦車と仲良く前進だ」


 中尉から携帯酒筒(スキットル)を受け取り、煽るティーゲン。


 その間にも無反動砲が唸りを上げて戦車へと猛攻撃を続けている。塹壕は噴射煙が充満し、視界が悪いが、時折生じる至近弾による突風が、それを吹き散らす。崩れた部分から吹き込む突風……だけでなく破片が兵士を傷付けるが、それは限定的なものに留まっている。


 ティーゲンは塹壕の奥底で小銃を構えつつも、絶望的な状況に歯噛みする。


 迫撃砲は非装甲目標に対して絶大な効果を発揮する。


 戦車砲が吐き出す榴弾よりも被害範囲が大きく、曲射弾道である事から頭上に対する防護を必要とする。


「御前、病気だな? 臆病……或いは正気か?」


 飲め飲めと携帯酒筒(スキットル)をティーゲンの口に押し込む中尉。


 無数の弾雨によって揺れ、轟音に満たされる塹壕の一角で狂気と恐怖を酒で押し流そうとする光景は珍しいものではない。皇州同盟軍などでは覚醒剤の使用が行われているとの噂もあった。彼らは勝利の為なら手段を問わない。条約や法律ですら足蹴にする。


 妙に度数のあるウィシュケに、酒臭い息と共にティーゲンは中尉へと問う。


「対戦車戦闘の指揮を執るお積りで?」


 馬鹿な事を、とティーゲンは思うが、同時に人望に厚い者が率先せねば対戦車戦闘は難しい。

 

 吸着地雷の一種である破甲地雷による近接戦闘を行わねばならないが、相手は戦車であり、接近は容易ではない。側面装甲に吸着させるか、履帯前へと投げ込むかの選択肢はあるが、ある程度の接近は避け得ない。無論、膂力に優れた種族による投擲であれば、かなりの距離からの攻撃が可能となるが、命中させることは容易ではない。硬装甲目標相手である以上、破片効果は期待できず、直撃させる必要性がある。それは極めて難易度が高い。


 モンロー・ノイマン効果を利用した対戦車擲弾筒を運用する皇州同盟軍とは対戦車攻撃力に於いて雲泥の差がある貴族連合軍。それは陸軍であっても同様で、対戦車擲弾筒は各方面に存在を認識されつつも、模倣品は未だ出回っていなかった。実物や図面の確保などの問題よりも、経済面で権利(パテント)の保全に関して商人が相次いで事故死した経緯に諸勢力が配慮した結果と言える。


 銃口で利益を生み出す事はできるのだ。


 中尉は……アルバン・バルリングは、獣耳の為の切れ目(スリット)付軍帽を脱ぎ、犬耳を巻き込むように軍帽を被り直す。


「給料の内だろう? 全く、割に合わん仕事だな、軍人というやつは」


 塹壕内の一際大きい穴……誘爆に備えて爆風を最小限とする為に掘られた箇所に安置された破甲地雷を引っ張り出すバルリング。穴に上半身を容れ、ティーゲンはバルリングの揺れる尻尾を眺めるしかない。


「結構な事で。さて、諸君」


 ティーゲンは已む無し、と周囲の兵士達に対戦車戦闘を下令する。最早、指揮系統は最前線まで届かない。個々の努力の依る所でしかなかった。


 この時、皇州同盟軍はアンテローツェ伯爵領南端に展開する貴族連合軍左翼への攻撃を集中させていた。


 絵に書いた様な一翼突破を目論む皇州同盟軍。


 戦力差のある戦況での乾坤一擲。戦力を集中させ、機動力によって戦場を転換。敵戦力の大部分を遊兵化させ、一点攻撃で突破する。領地護持を主任務とするが故に機動力の面で遥かに劣る貴族連合軍の大多数はその動きに対応できない。


 貴族連合軍の弱点を突いた一撃とも言える。


 しかし、貴族連合軍に機動的戦力が存在しない訳ではない。


 塹壕上を、ティーゲンの頭上を疾駆する影。


「軍狼兵ッ!」誰かが叫ぶ。


 黒狼に跨乗る軍狼兵が長大な戦槍(ハルベルト)を手にして疾駆する姿……頭上を飛び越えて顕現する。勇壮な姿、神代に想いを馳せて描かれた宗教画の如くあるが、相対するは科学と魔導が結合した近代の悪意……鋼鉄の魔獣であった。


「馬鹿な! 対空戦車が居るぞ!」


 中尉が上半身を乗り出して叫ぶ姿に、ティーゲンは慌てて塹壕に引き摺り込もうとする。


 しかし、その最中に見た光景は目を見張るものであった。


 軍狼兵が機関砲弾を魔道障壁で弾いている。


 四〇㎜の機関砲弾は、魔道障壁が展開されていない場合、中戦車の側面装甲を貫徹し得る威力を有している。軍狼兵として採用される兵科の者達は相応に魔導資質に優れているが、四〇㎜機関砲の威力は二〇㎜機関砲と比較して四倍を超え、高位魔導士でも単独では防護し難い。


「高位魔導士も跨乗させているのか……無茶をする」


「二人乗りですね」


 あれでは機動も制限されると、ティーゲンは無理な二人乗り……特に後部で魔導杖を握り締めて振り落とされまいとしている魔導士を見やる。


 軍狼兵や装虎兵の運用する戦槍(ハルベルト)は、槍類に分類される長柄武器である。戦斧と槍の要素を併せ持った武器であり、斬る突く薙ぐという多彩な攻撃が可能だが、その一方、で十全に扱うには熟練の技術を要した。


 背後に荷物を背負って振り回せる武装ではない。


 後部の魔導士も魔導杖を手にすれども揺れる騎上で照準する訓練を受けている筈もない。高位魔導士とは皇国軍陸上兵科に在って最難関の技能職である。総てを擲ちて励み、漸く選抜される兵科であった。挙句に生まれ持った資質も必要不可欠である。それ以外の技能など度外視であり、体力に劣る者が大多数。


 騎上での照準など現実的ではない。


 軍狼兵と装虎兵を高位魔導士とするという提案が生じないのは、一重に両技能の取得期間が現実的ではない選別と時間を要する為である。


 対空戦車の機関砲弾を魔導障壁で弾く軍狼兵。


 目論見は部分的に成功していると言える。


 しかし、集中射を受けては同じこと。


 そして機関砲とは連射性を求めて運用される兵器である。


「装虎兵も来たか」


 バルリングが蒼褪めた表情で、雄々しい蛮声を張り上げた白獣の戦列を一瞥する。


 両軍が機動力のある戦力を、この戦場に集中させている。


 その只中にティーゲンとバルリングは居た。


「挙句に傭兵師団(ランツクネヒト)まで出てきたな。この世の地獄だな」


「神代の再現という見方に変えてみては?」


 双眼鏡を押し付けられたティーゲンは、この世の地獄改め神代の再現を覗き見る。


 鋼鉄の野獣たる中戦車と生来の野獣たる軍狼兵と装虎兵が砲身や斧槍を振り翳し、土塊を巻き上げて大地を疾駆。その頭上を無数の戦闘爆撃騎と地上襲撃騎が乱舞。次々と兵員輸送車から降車して大剣や斧槍、対戦車小銃を構える戦車猟兵。


 死屍累々の混戦。


 行かねばならない。


 伝令が駆け寄り、突撃準備を伝える。


 混戦であればこそ中戦車に迫る機会もある。


 司令部は混戦こそを御望みなのだ、とティーゲンは歯噛みする。


 効率的な死を望まれる立場。


 貴族の私兵如きまでが国家の歯車たるを求められるなど光栄以外の何ものでもないと、ティーゲンは小銃に銃剣を装着する。


「新たな神代に災い荒れ、だぜ」


 砲声に紛れ、突撃喇叭が響く。


 名のある兵士、歴史上から見れば名もなき兵士が塹壕を飛び出した。





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