安息の日常、そこには大冒険の香りがーー
新しい生活が始まってだいぶ過ぎました。
ヒロキくんは新しい小学校に転入して、新しい友達をいくつか作りましたが、彼らは少し余所余所しいです。いつも前の学校でヒロキくんがしていたような事を、変だ、おかしい、と決まって言うのです。特に先生は敏感で、人を笑わせようとする事をすると、怯えるように叱ります。
今までヒロキくんが使っていた人の笑わせ方がその学校では悉く否定されていくと、友達には、その友達のルールがある事をヒロキくんは知りました。だからヒロキくんはルールに従って友達を作りました。そのルールは友達の形で、それは大体わかりました。その友達の形が惨ければ惨いほど、下品を好いているか、極端に嫌っている者のどちらかで、そのどちらかも口調や言動でわかるのです。
ヒロキくんは間もなくして、クラスメイトと打ち解けました。先生から怒られる事も極端に減って、それも宿題を忘れた事だとか、掃除を真面目にしていなかったとかです。
ヒロキくんは本を借りる為に図書館に訪れました。
ヒロキくんは読書が好きでも嫌いでもありませんでしたが、夏休みの読書感想文で、どうしても読書することが必要だったので、そこに訪れたのです。
図書館までの道のりは小学生のヒロキくんにとって疲れるものでした。なので、お母さんからもらったお金で図書館の前に設置してある自動販売機の近くで休憩をしました。
するとです。ヒロキくんは一人の女の人に気付きました。その女の人はキャベツの様な人で、体中が緑色でした。顔には黒い汚れや、虫食いがあります。よく見ると、小さなミミズにも似たひも状の生き物が彼女の葉の中で、ごそごそと蠢いています。
キャベツの女の人は自動販売機でどのジュースを買おうとしているかを悩んでいるようでした。ヒロキくんはぼうっとその姿を飲み物を飲みながら、ベンチで座って眺めているだけでしたが、キャベツの女の人がこちらに向かって来ると、途端にキャベツの女の人が怖く感じました。
「君」
「はい、」
キャベツの女の人はぶっきらぼうに言ったので、ヒロキくんは少し驚きました。
「それ、少しちょおだい」
ゆるやかで、川の流れの様な不気味さがその言葉にはありました。ヒロキくんは断りきれません。まだ少し残っている水を見ず知らずキャベツに渡しました。
「ありがとぅ」
ごっくん、とキャベツの女の人は水を取り込むと、ペットボトルをゴミ箱に放り投げました。ヒロキくんはペットボトルを押しつけなかったキャベツの女の人の優しさに感謝して、ちょこんとおじぎをしました。
「君は一人なの?」
ヒロキくんは頷きました。
「そう……」
キャベツの女の人はそれだけを言うと、別の方向を向いて、どこへ行きました。
ヒロキくんはそれを追いました。