プロローグ
初めまして。
初心者ですが楽しんで投稿出来たらいいなと思ってます。
エテーナが初めて前世の記憶を思い出したのは三歳の頃であった。
『ごめーん、キミの死は手違いだったみたい。お詫びに来世はオマケしといたから』
女にしては低く男にしては高く、幼いような老いているような不思議な声。軽い口調のそれが突然脳の底から甦ったのだからびっくりである。
その後に流れ込んで来た前世の記憶。それも薄ぼんやりしたもので、自分がどこの誰であったのかは分からない。ただ何となく前世の暮らしや常識などが自分に染み込んで来るのを感じた。
まぁそれから何か変わったかと言えばそうではないのだが。前世の記憶は大して役に立たない。
例えば暇をもて余した時。今世は絵本を眺めたりするのが精一杯だが、前世ではテレビなるモノが存在しアニメなるモノを夢中で観ていた気がする。
今の年齢に合わせた前世の記憶しか甦らず、自分が何者であったかに関する記憶は無い。三歳であるエテーナが分かるのは、前世の方が便利な暮らしであったということ位である。
しかし物心ついてあの摩訶不思議な声の意味を理解出来るようになると、その適当な対応に呆れるばかりであった。
(まぁ、今世は楽しいからいいんだけどさ…)
*****
七歳になったエテーナ。
稀代の天才という訳ではないがなかなかに優秀な子だ。
更に前世の記憶の開封により精神も七歳より大分成長したようである。三歳当時は前世の記憶も同年齢のものしか甦らなかったが、今では前世の一般常識レベルの記憶は全て身に付いている。
そしてなんと言っても―――
(可愛いっ!)
エテーナは鏡の前に立ち身悶える。
そこに写るのは透けるように白くきめ細かな肌、子どもらしいふっくらとした頬はりんごのように赤い。上品な口元とスッとした鼻筋。大きくぱっちりとした目を縁取る睫毛は音が鳴りそうなほど長くカールし、瞳の色は澄んだスカイブルーで、髪は煌めくような見事なシルバーブロンド。
まさに前世の記憶にある西洋人形や天使に見紛う愛らしさ。
だが前世の感覚から来ているとはいえ自分を見てうっとりとする七歳児とはかなり残念な光景である。物凄いナルシストのようであるがエテーナにはこれが自分であるという意識が薄いだけなのでどうか一つ許してやって欲しい。
「まぁまぁエテーナ様! ベッドから出ては駄目ではございませんか」
(ヤバッ!)
趣味の『鏡の前で自分鑑賞』を使用人に見つかってしまったエテーナは慌ててベッドへ潜る。これがまた豪華な天蓋付きのお姫様ベッドで、エテーナの部屋自体豪華絢爛フリフリのお姫様仕様である。
エテーナが生まれた家は王都でも指折りの豪商だ。
貴族のように煩い制約も存在せず、しかしそこらの貴族より遥かに金はある。長女だが兄が居るので家に縛られる必要もなく、エテーナに激甘な家族達は将来を彼女の好きにさせてくれるだろう。
そしてどんな難問もスポンジのように次から次へと吸収する優秀な頭脳に、七歳ではあり得ないレベルの精神と、将来が楽しみすぎる最高に可愛らしい容姿。まさに人生楽勝な未来が約束されている。
これがあの声の言っていたオマケだろうとエテーナは考えている。かなり奮発したオマケだな、とエテーナは声の主の適当さを流してやることにした。
「やっとお熱が下がったところなのですから、大人しくなさってくださいね」
ベッドに寝転ぶ愛らしいエテーナにうっとりしながら使用人は甲斐甲斐しくシーツを掛ける。
完璧に思えたエテーナは残念ながら身体が弱い。少しでも無理をすればすぐに高熱でダウンしてしまう。熱に苦しむエテーナは吹けば飛んで行ってしまいそうな儚さで、周囲の人間は彼女を失うことに恐れおののいた。
それにより周囲は異常なほど過保護になり、エテーナは生まれて殆ど外出したことがない。彼女の世界はこのベッドの上と部屋を出たらすぐのエテーナ専用の美しい庭。それと時々広すぎる屋敷を散歩するだけという究極の箱入り娘と相成った。
エテーナは気だるい身体をベッドに横たえながら思う。
どうせオマケしてくれるなら頑丈な身体が良かったよ。この顔は好きだけど綺麗すぎて面倒そうだし、丈夫な身体と交換して欲しいなぁ。人間健康第一でしょ。あの声の奴分かってないなぁ、だから手違いとか起こるんだよ、ケッ。
なんとも傲慢な台詞であるが彼女は脆弱な身体に七年間苦しんでいるので少しやさぐれているだけだと信じたい。