六話 <視点・エクル>
ルゥカ視点の前回と全然進んでません。
町に戻りとってあった宿に帰ると開口一番にエクルはあの少女を追いたいと自分の意思を告げた。ルゥカは黙って聞いていたが迷う素振りを一切見せずに
「うん、わかった。あの子を探そう」
即答した。
「よし、まずはどこにいるかだよね。町の場所を訊いたんだからこの町のどこかにいるよね?私達みたいに宿とったのかな?」
そしてサクサクと話を進める。こういう時の思い切りと行動力はすごいと思う。エクルだけだともっと悩んでしまい行動に移すまでにはさらに時間がかかってしまうだろう。
「手分けして探そう」
「そうだね」
姉の思い切りに便乗して二手に別れて探すことになった。
日が落ちるまでにはまだ時間がある。二人は湿った服を着替えると町にくり出した。
たくさんの人で賑わうこの町で一度会ったきりの人物を探すのはかなり難しそうだ。
逸る気持ちを抑えて少女の行動を予測する。無闇に歩き回って時間と体力を無駄にしないために。
少女の言動や出で立ちから推測して町の人間でないことは分かっている。近くに人がいなかった事と、他に仲間がいるようなことは言ってなかったことからして少女は一人だと思われる。女の子が一人で旅をするのはずいぶんと無用心だが、あれを見た後ではそうとも言い切れない。
そして何より珍しい。珍しい分目立つのではないか、というのがエクルとルゥカの出した結論だ。
頭の中であの時の出来事を振り返る。少女を中心に突如巻きおこった突風に生物ではない蛇。あれが見間違いや手品なはずがない。万が一見間違いにしても姉や少女を追いかけていた男達も同じ物を見ている。だからそれはない。
後者だとしてもタネがあってこその手品だ。あれのどこのタネがあるどこにタネがあるといえるのだろう?プロの奇術師も真っ青だ。
まず、宿屋と旅人が寄りそうな店にそういう女の子が来なかったかと尋ねて回った。主に保存食を取り扱う店だ。
外套や衣服が安く手に入る古着屋も見つけ、二軒ほど立ち寄ってみたが両方とも空振りだった。
予想通り少女の捜索は難航しなかなか見つからない。日が沈み、辺りが暗くなり日中とは違った賑やかさにかわる頃一度落ち合った二人はとりあえず食事をしながら考え直そうと飲み屋を兼ねた食堂で夕食をとることにした。
酒が入りもうすでにでき上がっている客や仕事帰りに一杯というような客で店内は賑わっている。そんな平和な喧騒を背に二人は空いているカウンター席に座りルゥカが二人分の食事を注文する。
「もう町にはいないのかな?」
疲れたと言うようにルゥカが両手を伸ばして狭いカウンターに突っ伏す。
「可能性がないこともないけど、そしたら今頃の野宿してるはずだよ。そうするとやっぱり町で保存食とかを買っていくと思うんだ」
「まだ町の半分しか回れてないもんね。諦めるのははやいよね。明日の午前中にもう半分回って何とか追いつけるかな?」
「あまり遅くなると追いつくのが難しくなるからゆっくりもしていられないしね」
「あーもぉー。一人くらい見かけた人が居てもいいと思うんだけど――あ、ありがとう」
カウンターの反対側から店のおばさんが差し出した食器を受け取る。ブラウンソースの具がたっぷり入ったスープとふわふわのパンが本日の夕食だ。
「ねぇ、おばちゃん。十五・六歳かもう少し幼い女の子見なかった?」
ルゥカが尋ねる。
「そんなに簡単に見つからないって」
なかば諦めてエクル。
「人探し?うーん、そのくらいの女の子はよく来るからね。他に特徴はなかったのかい?」
恰幅がよく愛嬌のある店のおばさんが記憶を探るように腕を組む。
「特徴?連れがいなくて一人だった。あとは・・・・・・あっ、両方に耳飾してた!」
耳元を指して言う。耳飾なんてしてたっけ?エクルの記憶にはない。
「あー、それならうちに来たよ」
「ホント!?」
「ウソ・・・・・・」
実にあっさりと店のおばさんは言った。こんな所に目撃者がいたなんて。食事をしていた手が思わず止まる。
「ちょうどあんたが座ってる席に座ってパンケーキを食べてったよ」
ルゥカを見て言った。
おばさんのくれた情報をまとめると、あの少女は三時~四時頃にこの店に来て甘い物が食べたいと言いパンケーキを食べて行ったらしい。
そして西の方に町はないかと尋ね、ゴードという町があることを知るとそこまでの道のりとかかる時間を聞き、出て行ったそうだ。
一気に欲しい情報が手に入った。これですぐにでも少女を追うことができる。いや、今日はもう遅いから追うなら明日の朝だ。つい気持ちが先走ってしまう。
「おばちゃんパンケーキ一つ!」
ルゥカが追加でパンケーキを頼んだ。
「まだ食べるんだ・・・・・・」
ボソリと溢したエクルの呟きは華麗にスルーされた。
ルゥカがパンケーキを食べ終わるのを待って二人は宿に戻りさっそく地図を広げてゴードまでの道筋を確認した。
ここパロの町からゴードまでは店のおばさんの言ったとおり二週間かかる。
「出発は明日の早朝。少しでもあの子との距離を縮めたいからはやく出る」
「うん。おばちゃんの話によれば、あの子今日中にここを出るたでしょ?野宿の道まっしぐらだね」
勘定をカウンターに置いて出て行こうとした二人に、もう一つ思い出したと言って店のおばさんがそう教えてくれた。
「明日は朝が早いから準備したらもう寝よう」
「準備って言ってもそう荷物があるわけじゃないけどねぇ。と、その前にケガしたとこの布交換しとこっと」
器用に片手で布をほどく。
「あれ?・・・・・・ちょっ、エクル、エクル!」
少ない荷物を詰め直していると慌てた様子の姉に呼ばれた。
「何?どうしたの?」
「これ見て!」
「ん?・・・・・・え?どうして?」
今日できたばかりの傷が何の痕跡も残さずきれいに消えていた。かさぶたの痕すらなくて、もうどこをケガしたのか本当にケガをしたのかすら分からな
い。
直感か、なにか確信めいたものを感じて二人は顔を見合わせた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日、まだ東雲の空が広がる時間に目を覚ましたエクルは姉を起こして身支度を整える。
衝立をはさみ、二つ並んだ固いベッドで寝たのに昨日は歩き回って疲れたのかすぐに寝付けた。そのおかげが目覚めはすっきりしている。
宿の主人には早朝に出ると伝えてあるし勘定も済ませてある。いつでも出発できる。
「ふぁ~」
ルゥカが寝ぼけ眼であくびをする。どうやら姉はまだ眠いらしい。
「姉さん、行ける?」
さらに二回続けて、計三回のあくびを連発されて少し不安になる。
「大丈夫、行けるよ」
姉は起きてから意識がはっきりするまでに時間がかかる。それを見越してエクルはゆっくりと支度をするのだ。
ガサゴソと動く音が聞こえお待たせ、としばらくしてからルゥカが顔を出した。
「それじゃ行こっか」
にっこりと笑う姉に頷く。
宿を後にしていざ、西の町ゴード・・・・・・までの間に追いつくはずの少女まで。
エクルは少女の耳飾りに気づいていませんでした。
見える位置にいなかったのか、はたまた男の子だからそういういことに疎いのか。
閲覧ありがとうございました。
次もエクル視点でお送りする予定です。
ストーリー進行の都合上交互にはできないのです。