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波浪の城  作者: 柱語シン
8/8

誘い

 テルは狭い穴の中を進む。真っ暗だ。穴は一直線に続いている。やがて、目が慣れてくると梟のお尻が目に入った。小さなお尻だ。汚れているようにも見えた。ただ、この暗闇の中では、真実は見えない。しばらく進むと明かりが目に入った。出口だった。まぶしい。薄目にしていると、風景が見えてきた。ぼんやりと形をまとったものは、雑草が生い茂る空き地だった。

 ここは都の中だろうか。外だろうか。初めて来た土地でいきなり大人に追いかけられた。そのことはテルの心に一点のシミを落としていた。なんだって、あの大人たちは俺を盗人と決めつけるのだろう。黒い狐なんて奴らのせいか。くそう。俺はどうして、こうも世間知らずなんだ。

 テルが心の内で嘆いていると、梟は話しだした。

「黒い狐に間違われたんだな。俺らもあいつらには困っているんだ。元は俺達もあいつらも孤児院にいたんだ。それがよう、孤児院が取り壊されちまって行くところがなくなったもんだから、盗みをしているらしいぜ」

 テルは自らの境遇と重ねあわせて、黒い狐に思うところがあった。テルも一度盗みで捕まっているのだから、何も思わないはずはない。

「なるほど、黒い狐は生きていくために、仕方なく盗みをやっているのか。それなら納得だ。まったくこの世界はどこも、おかしなことだらけだ。子供というだけで散々な目にあった」

 さっきまであった黒い狐に対する怒りは同情に変わった。どうやら、この梟という男は盗みをしていないらしい。では、どうやってお金を稼いでいるのだろう。テルは湧き上がった疑問を抑えきれずに聞いた。梟は両手を広げて答えた。

「決まっているだろう。働いているのさ」

 テルは梟からできるだけ知りうる限りのことを聞こうと考えた。何を考えているにせよ、テルを大人たちから救ってくれたのは確かだ。

「何をして働いているのだ?」

「そりゃ、いろいろさ。建物造りの手伝いから、子守までな。まあ、俺は仕事の世話役ってとこだ。最近は黒い狐のせいで仕事が減っていて困っているんだ。なあ、お前も俺達の仲間にならないか?」

「俺には大事な用がある。それに、お前たちと違って俺は金持ちだ」

 梟はテルの身なりを全身、頭からつま先まで見て、大声で笑った。

「何いってるんだ。冗談がすぎるぜ」

 笑われたテルは不快だった。だが、真珠のことは言わない方がいいだろうと思った。梟を無視して行くことに決めた。だが、どこへ?テルには行く宛などなかった。歩きかけた足が止まる。梟はテルの様子を見て、真剣な表情で言った。

「お前が何をしに、ここに来たのかは聞かない。だがな、誰も信じずに生きていくことは無理だぞ」

「大人ぶるなよ。余計なお世話だ」

 テルの性根はとことん腐りきっていた。もっとも彼がもともと持っていた生来の性質だった可能性もある。彼の中の性質が大人たちの仕打ちによって最高に開花したのは間違いはない。テルはへそ曲がりと言うにふさわしい子供だった。

 梟は、このみすぼらしい素性の知れぬ少年を気に入っていた。唇の少し突き出た口。すっきりと伸びた背筋には風格が感じられる。へそ曲がりは曲がったなりに人を惹きつける力を発揮するらしい。梟は少年の名前を聞いた。

「お前の名前は何て言うんだ?それもほっといてくれか?」

 笑いながら聞く梟にぶっきらぼうにテルは自分の名前を言う。カイマ、テルと。

「それじゃあ。テル。俺の寝床に来てくれないか。是非頼みたいことがあるんだ」

 テルは急に気分が良くなった。相手は子供とはいえ、自分を頼っているのだ。これをないがしろにしては男がすたる。テルはへそ曲がりであったが、やはり弱気な心も潜んでいた。とりあえず梟についていって、これからのことを決めようという打算も働いた。

「いいだろう。案内しろ」

 笑みを浮かべた梟は、こっちだ、と言って歩き出した。町中は陽が暮れ始めていた。二人は夕闇に紛れて、移動した。

「夜がやってくるな」

 梟はつぶやいた。

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