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夏雪  作者: ゴリヴォーグ
2/2

おままごと

「お兄ちゃん! 約束守ってくれたんだね!」

「はぁ……はぁ……、当たり前だ。俺は出来ない約束はしない主義なんだよ」

 まあ実際のところは遅刻仕掛けたんだが、全力で走れば何とかなるもんだな……。息切れを起こしているだけであって、せっかちゃんに欲情しているわけじゃないので要注意を。明日か明後日には筋肉痛は免れないよな……。

「お兄ちゃん! 何して遊ぶ!?」

 昨日あったときは丁寧な印象を受けたが、今こうやって遊びたくて遊びたくてうずうずしているところを見ると、やっぱりお子様だ。子供はこうでなければな。昨日と同じ麦藁帽子をしていて半ズボンというその姿は、男の子といっても問題はなさそうだ。ボーイッシュな女の子か……、使えるな、うん。後でメモっておこう。


「お兄ちゃん何してるの……?」


「お仕事さ。そうだな……、せっかちゃんは何したい?」

 特に思いつかないので、ここはせっかちゃんのやりたい様にしてやろう。子供に付き合うのも大人の務めだ。

「えーとねぇ、それじゃあおままごとしよっ!!」

 ニッコリと笑って言う。俺の年齢を考えるとお飯事はかなり恥ずかしいが、断ったらせっかちゃん泣いちゃうだろうしなぁ……。

「わーたよ。で、俺は何をしたらいいんだ?」

 彼女が泣くぐらいなら、俺が帰って泣けばいいさ。しっかしお飯事なんかいつ以来だろうか。小春に付き合ってしたことはあるが、あれも10年ぐらい前だしなぁ……。そういやあの時も恥ずかしさが強かった気がする。歳の離れた妹相手とはいえ、思春期真っ只中の中学生にもなってお飯事と言うのはなかなか羞恥心を刺激したからな。当時の友人いわく、俺は傍から見たら幼女相手に遊んでる変態と見られていたらしい。誤解も冤罪もいいとこだ。

「そーだね、じゃあお兄ちゃんがパパでわたしがママをするっ! あっ、でも子供がいない……」

 神社には二人だけしかいないことに気づきしょんぼりとする。別に新婚みたいな感じで進めてもいいと思うんだけど、せっかちゃんは核家族ご所望らしい。子役ねぇ……。

 あっ、いいところに一人いたわ。

「せっかちゃん、ちょっと待ってて」

 そういって俺は携帯電話を開く――



――



「で、私はおままごとに付き合わされるためだけにこんなところまで呼ばれたと。なんで私を巻き込むかねぇ……、今いいとこだったのに」

「ネトゲするより外で遊んでるほうが健康にいいだろ?」

「万年文化系に言われたかないわよ……」

 夏休みの間をネットの世界で過ごしているだろう小春を召喚したのだ。ネトゲでいい所だったのか、明らかに不満そうな顔をしている。

「お兄ちゃん、この人だれ?」

 せっかちゃんが聞いてくる。そりゃ見慣れない人が来たら当然のリアクションではあるよな。

「ああ、こいつは俺の妹の小春。小春おばさんって呼んでやれ」

「はじめまして、小春おばさん。わたしはなかはらせっか五歳です」

 昨日みたいに丁寧に挨拶をする。

「ねえ、なんでおばさんだとかなにお兄ちゃんて呼ばせてんだよ気持ち悪い今すぐ死ねと言いたいことは山ほどあるんだけど……、」

「何だ? おばさん」

「兄貴のほうが年上でしょ!! 私がおばさんならアンタはおじさんじゃない!! ってそうじゃなくて、なにあの可愛い生物!!」

 小春はきらきらした目でせっかちゃんを見ている。ぶっちゃけ俺よりこいつのほうが怖いんじゃなかろうか。

「誘拐したの?」

 今度は犯罪者を見るような目で俺を見る。言っておくが、俺は無罪なんだ。

「してねえよ!! なんつうか懐かれた」

「ハァ!? なにそれ」

「俺も知りたいっての」

「お兄ちゃんたちなにおはなししているの?」

 勝手に兄妹の世界に入り込まれたため、せっかちゃんは不安そうに聞いてくる。

「いやあ、世界経済について語ってたんだよ!! ほーら、小春。あれが円安だよ」

「やだなぁ兄貴。あれはお賽銭箱だよ」

「あはは、おもしろーい」

 話の意味がわかってはいないだろうけど、俺と小春のやり取りを見てせっかちゃんは自分の事のように楽しそうに笑う。

「せっかちゃんだっけ? 私は山寺小春。和真お兄ちゃんの妹なの。できればお姉ちゃんて呼んでくれたら嬉しかったり」

 おばさん、無理すんな。和真お兄ちゃんなんていつ振りだよ。兄貴呼ばわりに慣れてしまったから背筋がぞわぞわってするんすけど。

「うん、お姉ちゃん!!」

「はうぅぅぅん!!」

 まあこちらの思いなんか知るわけが無く、実にいい笑顔でお姉ちゃんと呼んでくれた。妹は非常にキモイリアクションをしてくれる。わが妹ながら冗談抜きで将来が心配だ。

「はぁ……、はぁ……、せっかちゃん、もう一回言って」

「おまえ、今の顔鏡で見てみろよ」

 性犯罪者みたいな顔してるぞ。どんな顔か知らないから独断と偏見にまみれているけど。

「お姉ちゃん?」

「来たああああああああああ!!」

 こいつ、一応高校ではモテてるんだよな……。千年の恋だって冷めるぐらい気持ち悪い声を上げて昇天する。

「お姉ちゃんどうしたの?」

「発作が起きただけさ。三分後には復活してる」

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