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共鳴分散式の魔法設計士  作者: deanagron


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3/6

共同執行のやり方

翌日の補講は、第一実習棟の奥にある小型ドームで行われた。


入学初日に使った広いドームより小さい。

そのぶん、何がうまくいっていないのかが隠しにくい。


床には区画線。

天井から吊られたコンクリ塊。

片側に熱源。

中央に黄色いダミー人形。


「今日は共同執行を覚えてもらう」


立花匡介が最初にそう言った。


神崎と湊は、並んで立つ。


立花はホワイトボードに簡単な図を描いた。

左に「設計」、右に「執行」。


「この世界の魔法は、一人で全部やることもできる。だが現場では、設計する側と走らせる側を分ける方が安全なことが多い。

設計側は、何を守るか、どこで止めるか、何を切るかを決める。

執行側は、その術式を現場で動かし、必要な微調整を入れる」


黒瀬が補足した。


「簡単に言えば、設計側は骨格を作る。執行側はそこへ力を流す。

この受け渡しが下手だと、どちらかが全部を抱え込んで壊れる」


立花は課題を示す。


「課題は一つ。

あの区画で、吊り荷と熱源のあいだに通路を作り、中央のダミーを九十秒以内に安全圏へ運ぶ。

採点は三つ。

一、時間内に通路を作れるか。

二、ダミーに負傷判定を出さないか。

三、最後に術式を安全に止められるか」


ここまで説明されれば、やるべきことは明確だ。


「最初は白瀬が設計、神崎が執行」


湊は式盤を起動した。


吊り荷対策。

熱遮断。

移送路。

停止条件。


湊はいつもの癖で、全部を守ろうとする。

通路全体に薄い保護層を置き、吊り荷を床へ逃がし、熱を片側で切り、停止条件も多めに入れた。


神崎が横から覗き込む。


「長い」


「必要だから」


「これ、現場で全部回してる間に一人死ぬ」


「死なないように書いてる」


「そういう話じゃ――」


「始めろ」


立花に切られ、神崎は式盤を受け取った。


彼女の実行は速い。

それは本当に速い。


だが、湊の式は安全なぶん、起動に時間を食いすぎた。

通路はきれいにできた。

熱もかなり防いだ。

しかし、人形を運ぶ前に九十秒の半分以上を使ってしまう。


「時間切れ」


立花の声と同時に、熱源側の負傷判定が人形の腕に点る。


湊は黙った。

安全だったことと、間に合ったことは同じではない。


「今度は私のやり方でやる」


神崎が言う。


彼女は停止条件を二つ削り、移送路も必要最小限にした。

見た目にも軽い。


だが吊り荷が揺れた瞬間、荷重分散と熱遮断のバランスが崩れた。

通路の端が欠け、人形の足に負傷判定が出る。


神崎はすぐに切った。

それでも失敗だ。


「速い。だが雑だ」


立花が言う。


次は逆にした。

神崎が設計、湊が執行。


神崎の式は分かりやすかった。

どこを最優先にしているかが、見ただけで分かる。

無駄も少ない。


だが、湊が実際に走らせるとすぐに分かった。

自分の出力では、その軽さを支えきれない。


中核になる部分が薄い。

壁が沈まない。

ラインが浮く。


式が悪いんじゃない。

自分が、走らせる側に向いていないだけだ。


「中断」


立花の声で術式が切られる。


短い執行なのに、湊の背中は汗でじっとりしていた。

神崎は何も言わなかった。

たぶん初めて、湊が本当に“できない側”なのだと理解したのだろう。


「どうだ、白瀬」


「速い式でも、走らせる側に余裕がなきゃ意味がない」


「神崎」


「細かく書かれてなくても、優先順位が見える式なら動ける。でも白瀬がそれを支えるのは無理」


立花が頷く。


「ようやく会話になってきたな」


黒瀬がホワイトボードに円を一つ描き、その外に枝をいくつか足した。


「中核と周辺だ」


神崎と湊がボードを見る。


「中核は、その術式で絶対に落とせない中心部分。

周辺は、それを成立させる条件や補助だ。

問題は、お前ら二人とも、中核も周辺も一人で持たせようとすることだ」


黒瀬は円を指で叩く。


「設計ってのは、強い奴の手足を増やすことじゃない。

強い奴が一人で潰れないように、周辺を分けることだ」


湊はその言葉で、昨日のことを思い出した。


中核の境界を壊さず、周辺の設備へ負荷を逃がした。

あれもつまり、「一箇所で抱え込ませない」設計だった。


四回目は、湊が最初から“全部を守る”のをやめた。


吊り荷対策は一点だけ。

熱遮断は通路の右半分だけ。

停止条件も必要最低限。

ただし、削ってはいけない部分は残す。


「ここだけ厚くして」


湊は式盤の一点を示した。


「吊り荷の真下だけ。ほかは流していい」


「熱は?」


「通路の右側だけ切る。左は受ける」


「片側だけ熱い通路になる」


「三歩なら走れる」


神崎は少し考え、それから頷いた。


「分かった」


立花の合図で神崎が走らせる。


今度の術式は軽い。

だが軽いだけではない。

必要な場所だけが、ちゃんと粘る。


吊り荷の真下にだけ光の柱が立ち、通路の右半分だけが熱を切る。

左側は熱い。だが、抜ける道は分かる。


神崎が飛び込み、人形を抱え、三歩で戻る。

吊り荷が一度揺れたが、中核にした一点だけが持った。


「八十一秒」


時間内。

しかも、余裕がある。


神崎は少し息を荒くしながら、湊を見た。


「今のはよかった」


素直な感想だった。


湊も頷く。


「君が中核だけ見てくれれば、あとは周辺で持てる」


言った瞬間、神崎の表情が止まった。


「……中核だけ?」


「そこが一番重いから」


「じゃあ私は、重いところだけ持ってればいいってこと?」


湊はそこで初めて、自分がまずい言い方をしたらしいと気づく。


理屈の上では間違っていない。

でも神崎の顔から、さっきまであった手応えが消えていく。


「私は昨日も今日も、そういう扱いばっかり受けてる」


神崎は静かに言った。


「高出力者だから、中核を握ればいい。細かい判断は後ろがやる。

そういう言い方」


湊は言葉に詰まる。


「私、自分で何を守って、どこで止めるかまで見たい。

分からないまま重いところだけ持つの、嫌なんだよ」


それだけ言って、神崎は手袋を外した。


「今日は帰る」


そのままドームを出ていく。


静かになったあと、立花が聞く。


「白瀬。今の何がまずいか分かるか」


「……正しいことを言ったつもりです」


「そうだろうな」


黒瀬が代わりに言う。


「お前は人間相手にも、最適化を先にやる」


その意味を、湊はすぐには飲み込めなかった。


実習棟を出て寮へ向かおうとした時、柱の影から声がした。


「白瀬」


鷺ノ宮理緒。情報鑑識科の新入生だった。

薄い端末を抱え、待ち伏せしていたように立っている。


「ちょっと確認したい」


「何」


「昨日の実習ログ。演習用の匿名化版を見た」


理緒は端末を少し持ち上げる。


「あなたが入れた補助、普通の一年生のやり方じゃないよね。

止めたんじゃなくて、中核を残したまま施設側に負荷を逃がしてる」


湊は答えなかった。


理緒は構わず続ける。


「その書き方、どこで覚えたの?」

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