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共鳴分散式の魔法設計士  作者: deanagron


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2/6

学校が見るのは、助けた事実より区分だ

人を助けたことと、学校に評価されることは、あまり同じ意味ではない。


翌朝、校内はもう、昨日の事故を半分忘れた顔をしていた。

第一実習ドームの前には立入制限の札が出ているが、それ以外は普段通りだ。


湊は管理棟の小部屋で、昨日の一次報告を見ていた。


第一実習ドーム境界不安定化事案・一次報告

収束措置:教員指導下における補助入力および緊急退避手順により収束


自分の名前はない。

なくて当然だ、と湊は思う。


学校としては、教師の管理下で収束したことにしなければならない。

もし「一年生が現場判断で旧式設備へ割り込んだ」とそのまま書けば、別の問題になる。


正しい。

正しいのだが、少しだけ腹が立った。


「不満か」


立花匡介が机に手をついたまま聞く。


「……いえ」


「あるなら言え。採用するとは限らんが」


湊は少し迷ってから答えた。


「学校としてはそう書くのが正しいと思います」


「そうだな」


立花は頷いた。


「問題は別だ。お前、なんであのドームの癖を知ってた」


「父が法器整備をやってます。自治体の払い下げ設備も店に来るので。旧式の公共安全格子は、止め方を誤ると反射が返ることがある」


立花は少しだけ目を細めた。


「触って覚えたのか」


「……たぶん」


「普通の新入生は、避難マーカーを負荷の逃がし先に使おうとは思わん」


それは、その通りだった。


新品を教科書どおりに使う授業と、壊れかけの設備を延命する整備所では、身につくものが違う。

湊が覚えたのは「何が正しいか」より、「今ある物でどう持たせるか」だった。


立花は報告書を閉じた。


「褒めてるわけじゃない。昨日のお前の判断は、結果として正しかった。だが、いつでも許されるわけじゃない」


「……はい」


「神崎も同じだ。範囲を欲張り、削りすぎた。お前は踏み込みすぎた。どっちも放っておけん」


管理棟を出ると、廊下の向こうから神崎灯が歩いてきた。

昨日より顔色は戻っているが、まだ少し乾いた感じがある。


「先生、何て言ってた」


いきなりそう聞かれた。


「放っておけないって」


「私も同じ」


神崎はそれだけ言って、すぐ本題へ入る。


「昨日のこと、ちゃんと教えて。私、どこで失敗したの」


その聞き方は、責めるより知りたいに近かった。

だから湊も、できるだけそのまま答える。


「短縮したこと自体は悪くない。

でも君の術式は、“守り続ける”方へ強く寄りすぎてた。止まるための条件と、余った負荷を逃がす先が足りなかった」


神崎が少し眉を寄せる。


「負荷って、昨日何回も言ってたやつ?」


「魔法を動かし続けた時に、術者とか設備が受ける無理のこと。

昨日は、その無理を全部、境界の中と君が抱え込む形になった」


「……私が一体増やしたから」


「増やすこと自体が悪いって言ってるわけじゃない。増やすなら、そのぶんだけ設計を変えないといけなかった」


そこへ校内放送が割って入った。


『執行工学科新入生、および高出力適性区分A以上の学生は、第三講義棟へ集合してください。実習装備貸与および奨学支援説明を行います――』


神崎が顔をしかめる。


「呼ばれてる」


「みたいだな」


「白瀬は?」


「呼ばれてない」


神崎は少しだけ意外そうな顔をした。

昨日の出来事だけ見れば、湊も何か特別扱いされると思ったのかもしれない。


だが、この学校がまず見るのは別の数字だ。


この世界では、魔法は知識があれば誰でも使える。

けれど、同じ術式をどれだけ強く、長く、安定して使えるかには個人差がある。

それを学校では、出力、制御、耐負荷、適性などの区分で管理している。


午前中、その区分が正式に掲示された。


白瀬湊 核式設計科

実習安全区分:C

出力評価:C-

制御評価:A

設計補助適性:A

推奨進路:後方支援・設備設計・監査


掲示端末の前で、何人かが小声で話す。


「昨日のやつ、出力Cなんだ」

「でも制御Aと設計補助Aか」

「現場というより後方支援向きだな」


悪意があるわけではない。

それがいちばん厄介だった。


学校は人を怒鳴って分けるのではなく、数字で分ける。

その数字で奨学支援も、実習装備も、将来の声のかかり方も変わる。


核式設計科の教室へ入ると、担任の黒瀬冬真が教卓の前に立っていた。

眠そうな顔なのに、声は妙に通る。


「座れ」


それだけで教室が静まる。


黒瀬は電子黒板に一文だけ出した。


魔法設計士とは、強い魔法を撃つ人間ではない。壊れずに現場を通る魔法を設計する人間だ。


教室が少しざわつく。

想像していたより地味だと思った者もいるのだろう。


黒瀬は気にせず続ける。


「お前らは前線の英雄になる学科じゃない。だが、医療も救助も設備保守も、設計側が手を抜いた瞬間に事故る。

優秀な一人に全部を背負わせる設計は、現場では欠陥だ。覚えとけ」


湊はその言葉に少し引っかかった。

昨日、自分がやったのも結局は「一人に全部を背負わせない」ための設計だったからだ。


昼休み、食堂へ向かおうとしたところで、窓際にいた神崎が体を起こした。待っていたらしい。


「見た」


「何を」


「区分」


神崎は率直に言った。


「昨日あれだけやって、出力Cなんだ」


「そうだけど」


「……じゃあ、なんであれを直せたの」


湊は少し考えてから答えた。


「押し切ったんじゃない。止まる形に組み直しただけ。

俺は前で押す方じゃない」


「設計ってこと?」


「たぶん」


「たぶん?」


「設計って、きれいな術式を書くことじゃないだろ。現場で抱えきれないものを、どこに流すか決めることだと思う」


神崎は少し考える顔をした。

昨日より、話を理解しようとしているのが分かる。


「私、さっきの説明会で、特別装備とか奨学支援とかの話された」


「へえ」


「断るのは自由って言われた。でも、断った後まで自由かは誰も言わなかった」


その言い方で、湊は少し黙った。


制度は入口の自由までは説明する。

その先の空気までは保証しない。


神崎は視線を戻す。


「だから、せめて失敗した理由くらいは自分で分かりたい」


「君の魔法は、守る力が足りなかったんじゃない」


湊は言う。


「抱え込みすぎたんだ」


神崎はそこで、ようやく少しだけ頷いた。


その時、廊下の向こうから黒瀬が歩いてきた。


「二人とも、放課後空けとけ」


嫌な予感しかしない言い方だった。


放課後、実習棟の小会議室で、立花と黒瀬が待っていた。机の上には封筒が二つ。


「処分じゃない」


立花が先に言う。


「補講だ」


中に入っていた紙には、同じ文字が印字されていた。


共同執行補講 実施通知

指定ペア:白瀬湊 / 神崎灯


数秒、会議室が静まる。


最初に口を開いたのは神崎だった。


「なんで私が、こいつと」


立花は即答する。


「昨日、実際に収束した組み合わせだったからだ」


黒瀬が続ける。


「相性がいいから組ませるんじゃない。偶然で済ませていい組み合わせか、学校側が確認したい」


湊は通知を見下ろしたまま思う。

最悪だ。


だが学校の理屈は分かる。


自分一人では押し切れない。

神崎一人では抱え込みすぎる。


だったら組ませる。

学校はそう考える。


合理的だ。

合理的であることと、嬉しいことは別だった。


向かいの神崎も、ほとんど同じ顔をしていた。

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