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「最善を尽くせ。そして、それは一流でなければならない」  作者: velvetcondor guild


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9

政治家は、二人の前に座っていた。

言葉を選んでいるようでいて、同時に、何かを恐れている目だった。


失敗ではない。拒絶でもない。

「本当のこと」を聞くことを恐れている目だった。


先に口を開いたのは、ミンジュンだった。


「難しい言葉は、要りません。

 だから、簡単に言います。」


彼は、テーブルの上の水のグラスを指で軽く回した。


「若い人は、努力が嫌いなんじゃありません。

 報われない努力を、見抜いているだけです。」


政治家の指が、わずかに動いた。


「だから、まず一つ目です。」


ミンジュンは、まっすぐに言った。

「未来が予測できる社会を作ってください。」


「予測、ですか……」


「はい。例えば――」

彼は、具体的に挙げた。

「・三年働いたら、給料がどれくらい上がるのか

 ・十年働いたら、どんな生活ができるのか

 ・結婚したら、家を持てるのか」

「それが、誰の目にも分かる形で示されていることです。」


少し間を置き、続けた。

「今は、それが見えない。

 だから、人は賭けをしない。」


政治家は、何も言わなかった。

否定できない沈黙だった。


今度は、耕作が口を開いた。

「二つ目です。」

彼は、穏やかな声で言った。

「若い人を、管理しないでください。

 代わりに、任せてください。」


「任せる……?」


「はい。」

耕作は、少しだけ笑った。

「失敗させてください。」


政治家は、意外そうな顔をした。

「今の社会は、失敗すると終わりです。

 だから、誰も挑戦しない。」


彼は、ゆっくりと言葉を置いた。

「でも、本当は逆です。

 失敗できる社会だけが、挑戦できる社会です。」


ミンジュンが、静かに頷いた。

耕作は続けた。

「例えば――」

「・一度会社を辞めても、戻れる仕組み

 ・起業して失敗しても、再就職できる仕組み

 ・学び直しが、年齢に関係なくできる仕組み」

「これがあるだけで、人は動きます。」


政治家は、深く息を吸った。

「……他には?」


今度は、二人が同時に言った。

「あります。」


ミンジュンが言った。

「若い人の話を、聞く場を作ってください。

 ただし、形式ではなく、実際に決める場です。」


耕作が続けた。

「そして、もう一つ。

 これは、一番大事なことです。」


政治家の目が、二人を見た。


耕作は、はっきりと言った。

「嘘をつかないでください。」


部屋の空気が、静止した。

「出来ないことは、出来ないと言ってください。

 時間がかかるなら、時間がかかると言ってください。」


ミンジュンも言った。

「若い人は、完璧を求めていません。

 正直さを見ています。」

沈黙が、長く続いた。

政治家は、初めて視線を落とした。


それは、敗北ではなかった。

理解だった。

やがて、彼は静かに言った。

「……どうして、そこまで分かるのですか。」


耕作は、少し考えてから答えた。

「私たちが――」

ミンジュンが、言葉を引き継いだ。

「その社会を、生きているからです。」


窓の外では、風が動いていた。

目に見えないが、確かに存在する流れ。

止めることは出来ない。

だが、読むことは出来る。

政治家は、その風の存在を、初めて理解し始めていた。

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