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夜明けの光が、窓の縁に静かに触れていた。
政治家が去ったあとも、部屋には、まだ風の余韻が残っていた。
それは、問いを残した風だった。
そして今度は、別の問いが、同じ風の中に浮かび上がった。
――これからの教育者は、何をすべきなのか。
ポール・ラッシュが、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「教育とは、知識を渡すことではありません。」
彼は、窓の外を見ながら言った。
「教育とは、
人が、自分自身を尊敬できるようにすることです。」
静かな声だった。
しかし、その一言には、長い年月が込められていた。
「多くの教育者が、間違えるのはここです。」
「何を教えるかを考えます。
しかし、本当に大切なのは――」
「どう在るかを、見せることです。」
コンラッド・ヒルトンも、静かに続けた。
「人は、教えられたことより、見たことを信じます。」
「教師が、時間を守るなら、
生徒も、時間を守るようになります。」
「教師が、人を尊重するなら、
生徒も、人を尊重するようになります。」
「教師が、見えないところで手を抜かないなら、
生徒も、見えないところで手を抜かない人間になります。」
彼は、はっきりと言った。
「教育とは、言葉ではありません。」
「存在です。」
ラッシュは、少しだけ微笑んだ。
「私は、日本で多くの若者を見てきました。」
「彼らは、非常に優秀でした。」
「しかし、同時に、
『失敗してはいけない』と、恐れていました。」
彼は、ゆっくりと首を振った。
「それでは、一流にはなれません。」
「一流とは、失敗しない人ではありません。」
「失敗から、逃げない人です。」
教育者は、失敗を罰してはならない。
失敗を、
学ぶことが出来る場所に変えなければならない。
ヒルトンは、教育者に向けて、より具体的に言った。
「どうか、生徒を『顧客』のように扱ってください。」
それは、意外な言葉だった。
彼は説明した。
「顧客とは、
尊重されるべき存在です。」
「顧客は、
未来を選ぶ自由を持つ存在です。」
「教育者は、生徒に命令する立場ではありません。」
「未来を準備する立場です。」
風が、再び、静かに吹いた。
それは、今度は、教室の中を通り抜けているようだった。
誰もいない教室。
まだ始まっていない朝。
机と椅子が、整然と並んでいる。
ラッシュが言った。
「教育者は、希望を教えるのではありません。」
「希望が存在する世界を、見せるのです。」
ヒルトンも、続けた。
「そして、その世界が、
一流であることを、妥協してはなりません。」
最後に、二人は、未来の教育者に向けて、同じ言葉を残した。
「Do your best, and it must be first class.」
それは、生徒に向けた言葉である前に、
教育者自身に向けた言葉だった。
なぜなら――
一人の本物の教育者が、
一つの教室を変え、
一つの教室が、
一つの世代を変え、
そして、一つの世代が、
国を、静かに、一流へと戻してゆくからである。




