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一度吹き出した風を、止めることは出来ない。
だが、読むことは出来る。
政治家は、その風の存在を、
まず、認めなければならない。
風は、反対しない。
風は、抗議しない。
ただ、静かに、離れてゆく。
人が離れ、
企業が離れ、
若者が離れ、
そして最後に、信頼が離れる。
政治家は、それを
「まだ大丈夫だ」
と呼ぶ。
だが、本当は違う。
それは、
「もう、選ばれていない」
ということなのだ。
そのとき、背後から、低く、しかし確かな声がした。
「国は、命令によって立つのではありません。」
振り向くと、そこにいたのは、
ポール・ラッシュだった。
彼の目は、厳しくもあり、同時に、深い悲しみを湛えていた。
「国は、信頼によって立つのです。」
政治家は、何も言えなかった。
ラッシュは続けた。
「信頼は、法律では作れません。
予算でも作れません。
信頼は、ただ一つの方法でしか作れない。」
「それは――」
「正しいことを、正しく行い続けることです。」
その隣に、もう一人の男が立っていた。
静かな威厳を持つ男。
コンラッド・ヒルトンだった。
彼は、遠くを見るように言った。
「ホテルも、国も、同じです。」
「人は、建物を見ているのではない。」
「人は、
その中にある『心』を見ているのです。」
政治家は、初めて問い返した。
「では、私は、何をすればいいのですか。」
ヒルトンは、すぐには答えなかった。
しばらくして、ゆっくりと言った。
「簡単です。」
「誰も見ていない場所で、
一流の仕事をすることです。」
政治家は、理解できないという顔をした。
ヒルトンは続けた。
「記者が見ている時だけ、正しいことをしても、意味はありません。」
「選挙の前だけ、正しいことをしても、意味はありません。」
「本当の一流とは、
誰も見ていない時に、何をしているかです。」
風が、再び吹いた。
今度の風は、少しだけ違っていた。
政治家は、その風を、初めて「恐れ」としてではなく、
「問い」として感じた。
自分は、
選ばれる資格のある仕事をしているのか。
自分は、
一流であろうとしているのか。
それとも、
ただ、地位に留まろうとしているだけなのか。
風は、答えを言わない。
だが、問いを残す。
そして、国の未来は、
その問いに答えた者の手の中で、
静かに、形を変えてゆく。




