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婚約破棄された聖女は奇跡を独占しない ―婚約破棄された回復職は、帰還兵と医療国家をつくる―  作者: 冬月シオン


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第30話 光のあと

 目を開けたとき、天井は白かった。


 医療院の見慣れた天井。


 静かな光が差し込んでいる。


 胸の奥に、あの熱はない。


 あの奔流も。


 リシェルはゆっくりと手を持ち上げる。


 呼吸を整え、意識を集中する。


 ――何も起きない。


 淡い感応すら、ない。


 扉が静かに開く。


 セレナが立っていた。


 目が赤い。


「……起きましたか」


「何日」


「三日です」


 声が震えている。


「峡谷は」


「全員、生きています」


 その言葉に、リシェルは目を閉じる。


「よかった」


 喉が渇く。


 セレナが水を差し出す。


「先生」


 少し、言葉に詰まる。


「奇跡は」


「使えません」


 先に言う。


 少女の目が潤む。


「私のせいで」


「違います」


 即座に否定する。


「選んだのは、私です」


 身体は軽い。


 あの削れる感覚も、軋みもない。


 代わりに。


 何かが、空洞のように静かだ。


 イリーナが入ってくる。


「目覚めたか」


 いつもの冷静な声。


「診る」


 脈を測り、瞳孔を確認し、魔力反応を探る。


 長い沈黙。


「……感応値はゼロに近い」


「ゼロです」


 リシェルは穏やかに言う。


「暴走は止まった」


 イリーナが低く呟く。


「構造が閉じた」


「後悔は?」


 真っ直ぐな問い。


「ありません」


 即答。


 少しだけ、微笑む。


「最後に、独占を使いました」


「矛盾だな」


「はい」


 だが目は揺れない。


「独占を終わらせるための、最後の独占です」


 イリーナは息を吐く。


「皮肉だ」


 扉の向こうで、ざわめきがする。


 十人の回復班が廊下に並んでいた。


 セレナが振り返る。


「入って」


 彼らは一歩ずつ入室する。


 誰も目を逸らさない。


「先生」


 その呼び方が揃う。


「私たちで、峡谷の後処理をしました」


「段階回復で、十分でした」


「隣国の外科班とも連携できました」


 誇らしさではない。


 報告。


 リシェルはゆっくりと身体を起こす。


「もう、一人ではありませんね」


 セレナが涙を拭う。


「最初から、そうでした」


 窓の外に、子どもの笑い声が聞こえる。


 峡谷で救った子だ。


 医療院の庭で走っている。


 奇跡は使っていない。


 だが命は守られている。


 王子が訪れる。


 護衛も少ない。


「……聞いた」


 静かに言う。


「奇跡は」


「終わりました」


 王子は目を伏せる。


「すまない」


「なぜ」


「判断を委ねた」


「正しかったです」


 王子は顔を上げる。


「聖女制度を廃止する」


 はっきりと言う。


「正式に」


 セレナが息を呑む。


 イリーナは腕を組む。


「象徴はどうする」


「象徴はいらない」


 王子は答える。


「制度にする」


 リシェルは、静かに笑った。


「それでいい」


 窓の外の光が揺れる。


 もう、あの爆ぜるような奇跡は戻らない。


 だが十の光がある。


 分け合う光。


 独占しない光。


 リシェルは胸に手を当てる。


 空洞はある。


 だが後悔はない。


 奇跡は、消えたのではない。


 人のあいだに移った。


 そして自分は。


 もう聖女ではない。


 ただの回復職だ。


 それでいい。


 それで、十分だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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