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婚約破棄された聖女は奇跡を独占しない ―婚約破棄された回復職は、帰還兵と医療国家をつくる―  作者: 冬月シオン


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第27話 王か、人か

 退位の噂は、もはや噂ではなかった。


 公爵派は正式に「王位継承再検討」の議案を提出。


 理由は明確だ。


 ――奇跡の威光を弱めた。

 ――教会と対立した。

 ――講和を優先した。


 王城の大広間は、かつてない緊張に包まれていた。


 王は病床にあり、実権は王子にある。


 だがその正統性が揺らいでいる。


「殿下は理想に偏りすぎた」


 公爵が言う。


「国家は現実で動く」


 軍務卿は沈黙している。


 ラウレンツは静かに座る。


 王子は立ち上がる。


「理想を捨てた国家に未来はあるか」


「理想で国は守れぬ」


「奇跡で守ってきたのか」


 その一言が刺さる。


「奇跡は人が担っている」


 王子は続ける。


「担い手が壊れれば、奇跡も終わる」


 沈黙。


「講和は敗北ではない」


「敵は健在だ!」


「だからこそ、戦を終わらせる」


 ざわめき。


「奇跡を武器にする時代を終わらせる」


 ラウレンツが立ち上がる。


「それは王の言葉ではない」


「では何だ」


「聖女に影響された男の言葉だ」


 空気が凍る。


 王子はわずかに目を伏せる。


 その瞬間、扉が開いた。


「失礼します」


 リシェルが入ってくる。


 正式な招集ではない。


 だが誰も止めなかった。


「ここは医療院ではない」


 公爵が言う。


「承知しています」


 リシェルは一礼する。


「ですが、奇跡の当事者として発言します」


 視線が集まる。


「奇跡は王権を支えるための柱ではありません」


「何だと言う」


「命を守る力です」


「命を守るために戦うのだ!」


「守るために削るのですか」


 沈黙。


「セレナは、完全回復を失いました」


 場がざわつく。


「それでも彼女は生きています」


「象徴は弱くなった」


 ラウレンツ。


「象徴は人です」


 はっきり言う。


「王も」


 視線が王子へ向く。


「王も人です」


 公爵が苛立つ。


「王を人に下ろす気か」


「いいえ」


 リシェルは静かに答える。


「人である王を支える制度を作るだけです」


 沈黙。


「奇跡の共有は、王権の否定ではありません」


「だが独占を崩す」


「独占は脆い」


 王子がゆっくりと口を開く。


「私は退かない」


 場が静まる。


「王である前に人であると言った」


 視線を巡らせる。


「だが人である王を選ぶのも、この国だ」


 公爵と目を合わせる。


「奇跡に依存し続ける王を望むなら、私を退けよ」


 ざわめき。


「だが共有の道を望むなら、共に進め」


 沈黙。


 軍務卿がゆっくりと立つ。


「……北方戦線は、共有回復部隊で安定している」


 公爵が睨む。


「決定打はないが、壊滅もない」


 ラウレンツが低く言う。


「信仰は」


「揺れている」


 軍務卿は認める。


「だが崩れてはいない」


 カトリーナが補足する。


「敵も様子見に入っている」


 公爵は沈黙する。


 完全な勝利も、完全な失敗もない。


 議会は決断を先送りにした。


 退位議案は保留。


 王子は辛うじて立場を守る。


 夜。


 王城の塔から、王子が街を見下ろす。


 リシェルが隣に立つ。


「危うかった」


「はい」


「だが退かなかった」


「はい」


 王子は小さく笑う。


「王か、人かと問われた」


「どちらもです」


「欲張りだな」


「共有は欲張りです」


 奇跡も王権も、独占しない。


 その代わり、全員が少しずつ責任を持つ。


 それは楽ではない。


 だが壊れにくい。


 遠くで鐘が鳴る。


 講和交渉は続いている。


 戦はまだ終わらない。


 だが国は、形を変え始めている。


 王冠は揺れた。


 だが落ちなかった。


 奇跡も揺れた。


 だが消えなかった。


 共有の道は細い。


 だが確かに、続いている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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