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婚約破棄された聖女は奇跡を独占しない ―婚約破棄された回復職は、帰還兵と医療国家をつくる―  作者: 冬月シオン


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第25話 講和の条件

 隣国からの正式な使節団が王都へ到着したのは、三日後のことだった。


 旗は白地に蒼の紋章。


 戦時下における「停戦交渉」の申し入れ。


 だが条件が一つ、明確に示されていた。


 ――聖女の軍事利用停止。


 王城の会議室は、これまでで最も重い空気に包まれていた。


「ふざけている」


 軍務卿が吐き捨てる。


「こちらの戦力の柱を折れと言っているのと同じだ」


「だが」


 財務卿が静かに言う。


「北方戦線は膠着。兵站は逼迫。長期戦は不利」


 王子は黙って条件書を見つめている。


 ラウレンツが低く言う。


「奇跡を封じるなど、信仰への侮辱だ」


「侮辱かどうかはともかく」


 カトリーナが口を挟む。


「敵は我が国が奇跡に依存していると分析している」


 沈黙。


「事実だ」


 軍務卿が苛立つ。


 視線がリシェルへ向く。


「あなたの共有計画と同じ方向だな」


 皮肉。


「違います」


 リシェルは冷静に言う。


「共有は奇跡を戦争から切り離すためではありません」


「では何のためだ」


「奇跡を人から切り離さないためです」


 王子が顔を上げる。


「講和条件を受ければ、戦は終わる可能性がある」


「だが抑止力を失う」


 軍務卿。


「奇跡を使わぬと約せば、敵は再侵攻しない保証はない」


 ラウレンツが言う。


「奇跡は我が国の威光」


 リシェルは静かに問う。


「威光のために、誰を削りますか」


 沈黙。


 そのとき、扉が開く。


 セレナが入ってきた。


 杖をつきながら。


「勝手を」


 息を整えながら言う。


「でも、聞きました」


 王子が頷く。


「講和条件を知っているか」


「はい」


 少女は深呼吸する。


「私は、戦場で完全回復をもうできません」


 軍務卿が眉をひそめる。


「だが象徴は」


「象徴でも、人です」


 セレナははっきり言う。


「もし奇跡を戦争に使わないことで、戦が終わるなら」


 視線が集まる。


「私は、使わなくていいです」


 ラウレンツが即座に反論する。


「軽率だ!」


「軽率ではありません」


 震えながらも、目は逸らさない。


「奇跡は、救うためのものです」


 リシェルがその横に立つ。


「講和を受けるかどうかは、王の判断です」


「だが」


「条件は受けられます」


 軍務卿が怒る。


「国を危険に晒す!」


「奇跡依存の戦術の方が危険です」


 カトリーナが静かに言う。


「敵は分析している。我々の回復速度を前提に戦術を組んでいる」


 王子がゆっくり立ち上がる。


「講和交渉を進める」


 場が凍る。


「ただし」


 全員が息を呑む。


「聖女の軍事利用“全面停止”ではなく、“段階的縮小”を提示する」


「甘い!」


 軍務卿。


「交渉は歩み寄りだ」


 王子は言う。


「奇跡は、国の所有物ではない」


 その言葉は、以前よりもはっきりしている。


 ラウレンツが冷ややかに言う。


「王権が信仰を踏みにじるのか」


「踏みにじらない」


 王子は真っ直ぐに返す。


「守るために形を変える」


 会議は紛糾したまま終わる。


 廊下で、セレナが息を切らす。


「無理を」


「してません」


 小さく笑う。


「私、やっとわかったんです」


「何を」


「奇跡は、私のものじゃないけど」


 リシェルを見る。


「国のものでもない」


 その言葉に、胸が熱くなる。


 夜。


 王都では噂が広がる。


 ――王子、奇跡を手放す。

 ――教会と対立。

 ――王位継承問題。


 水面下で、貴族たちが動く。


 王権が揺らぎ始める。


 共有は、優しい革命だ。


 だが革命は、王座をも揺らす。


 リシェルは医療院の屋上から城を見上げる。


 戦場は変わった。


 次に揺れるのは、国そのもの。


 奇跡を独占しないという選択は。


 戦争だけでなく、王権にも刃を向ける。


 風が強く吹く。


 夜は静かだ。


 だが静けさの下で、国は軋んでいる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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