第24話 共有の代償
公開討論の翌日、王都は真っ二つに割れた。
“奇跡を守れ”という声と、
“聖女を守れ”という声。
似ているようで、違う。
王立医療院の前には、花束と抗議文が同時に置かれた。
アベルがそれを拾い上げる。
「どっちも本気だ」
「ええ」
リシェルは頷く。
信仰も、怒りも、本気だ。
だから厄介だ。
王城では緊急会議が開かれていた。
王子、軍務卿、ラウレンツ、そしてカトリーナ。
「共有計画は拙速だ」
軍務卿が言う。
「戦時下に制度改変など」
「戦時下だからこそです」
リシェルは静かに返す。
「奇跡に依存した戦術は、消耗を加速させる」
「だが分散には時間がかかる」
「時間をかけなければ壊れます」
ラウレンツが低く言う。
「壊れるのは制度か、信仰か」
「どちらも守れます」
リシェルは答える。
「独占をやめれば」
「理想論だ」
「現実論です」
カトリーナが口を開く。
「北方戦線の報告」
資料が広げられる。
「完全回復を行わなかった部隊は、損耗率が安定」
「だが攻勢は鈍い」
軍務卿が言う。
「壊滅はしていない」
カトリーナは冷静だ。
「長期的には有利」
王子が腕を組む。
「共有計画の試験導入を命じる」
ざわめき。
「王立医療院を中心に、適性者十名を育成」
「戦場には派遣しない」
ラウレンツが眉をひそめる。
「象徴の威光が弱まる」
「象徴は壊れかけた」
王子は静かに言う。
セレナの姿が脳裏に浮かぶ。
「もう一人削る気はない」
沈黙。
会議は一応の決着を見た。
だがその夜。
医療院に一通の密書が届く。
差出人不明。
中身は短い。
――隣国、講和交渉を模索。
――条件:聖女の軍事利用停止。
エルマーが眉をひそめる。
「揺さぶりだな」
「ええ」
奇跡を戦争に使わない。
それは共有計画の延長線上。
だが軍部は反発する。
翌朝、セレナが医療院を訪れる。
杖をついている。
歩けるが、まだ本調子ではない。
「無理を」
「してません」
笑う。
「今は段階回復しかできません」
その言葉に、リシェルは小さく頷く。
「それでいい」
「でも、怖いです」
正直な声。
「奇跡が弱くなったと思われるのが」
「弱くなっていません」
リシェルは言う。
「形が変わっただけです」
セレナは考える。
「共有、ですか」
「ええ」
「私一人じゃなくて」
「あなたも、十人の一人になる」
少女は少し驚き、そして微笑む。
「それ、いいですね」
その笑顔に、救われる。
だが同時に。
王都の外では、別の動きが始まっていた。
ラウレンツが密かに集会を開く。
「奇跡は神の選別だ」
信徒たちに語る。
「分散は冒涜」
信仰は熱を帯びる。
共有計画は、静かな革命だ。
だが革命には必ず反動がある。
夜。
リシェルは屋上に立つ。
遠くで鐘が鳴る。
セレナの肩代わりの歪みは、完全には消えていない。
奇跡の後遺症は残る。
それでも彼女は笑っている。
共有は、優しい。
だが優しさは、強くなければ守れない。
奇跡を独占する時代は終わりに近づいている。
だが独占を守りたい者も、本気だ。
次に揺れるのは。
制度か、国か。
それとも王権か。
夜風が吹く。
共有の代償は、まだ見えていない。
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