第23話 二人の聖女
王都へ戻ると、すでに噂は広がっていた。
――第二聖女、消耗。
――完全回復、成功率低下。
――偽聖女の呪い。
尾ひれは勝手につく。
ラウレンツは即座に声明を出した。
「聖女セレナは軽度の疲労。信仰に揺らぎなし」
だが軍医団の間では、事実は共有されている。
完全回復は、もう不可能。
王城で、公開討論が開かれることになった。
名目は「聖女制度と医療制度の調整」。
実態は、主導権争い。
大広間には貴族、教会関係者、軍部、そして市民代表。
壇上に立つのは三人。
ラウレンツ。
リシェル。
そしてセレナ。
少女はまだ顔色が薄い。
だが自ら登壇を望んだ。
「無理をするな」
リシェルが囁く。
「大丈夫です」
小さく笑う。
その笑顔が痛い。
討論が始まる。
「奇跡は神の恵みであり、国家の支柱だ」
ラウレンツが口火を切る。
「集中管理こそ、最大効率」
軍務卿が頷く。
リシェルは静かに言う。
「最大効率は、最大消耗でもあります」
「消耗は覚悟の証」
「覚悟は強制できません」
ざわめき。
「奇跡は有限です」
「証明は」
ラウレンツが問い返す。
そのとき、セレナが前に出た。
「私が証明です」
場が静まる。
「私は完全回復ができなくなりました」
ロザリアが息を呑む。
ラウレンツの表情がわずかに歪む。
「軽度の」
「違います」
少女は震えながらも、はっきり言う。
「戻りません」
静寂。
「私は、役に立ちたいと思って、止まりませんでした」
声が揺れる。
「でも、止まるべきでした」
リシェルが見守る。
「奇跡は、無限じゃありません」
民衆席がざわつく。
「でも、奇跡は消えません」
セレナは続ける。
「分ければいいんです」
その言葉に、ラウレンツが鋭く言う。
「分散すれば、力は弱まる」
「弱くなりません」
リシェルが言う。
「安定します」
「証明は」
「医療院の記録」
書類が提示される。
「分散回復適性者による段階回復。生存率上昇」
「戦果は」
「限定的」
軍務卿が皮肉る。
「壊滅もない」
カトリーナが静かに補足する。
視線が集まる。
「北方戦線は維持されている」
ラウレンツが冷笑する。
「だが敵は健在だ」
「奇跡で殲滅すれば終わりますか」
リシェルの問い。
沈黙。
「奇跡を一点集中すれば、戦術は大胆になる」
「それが勝利を生む」
「そして消耗を生む」
議場が揺れる。
セレナが小さく言う。
「私は、消耗品じゃない」
その言葉が、広間に落ちる。
ラウレンツが言う。
「聖女は象徴だ」
「人です」
セレナが返す。
「私は人です」
震えている。
だが目は逸らさない。
リシェルが一歩前へ。
「奇跡の共有計画を提出します」
書類を掲げる。
「回復適性者の分散育成。負荷分散。戦場回復の段階化」
ざわめき。
「聖女制度の再設計です」
ラウレンツの声が低くなる。
「解体ではなく?」
「独占の解体です」
王子が立ち上がる。
「検討に入る」
宣言。
議場は割れる。
怒号と拍手が混じる。
討論は終わった。
だが戦いは終わらない。
廊下で、セレナがふらつく。
リシェルが支える。
「無理を」
「言わなきゃ」
少女は微笑む。
「私が言わないと、誰かがまた削られる」
その言葉に、胸が締め付けられる。
「あなたは、もう十分削られました」
「でも」
「でもはありません」
抱き寄せる。
「あなたは奇跡そのものではありません」
静かに。
「奇跡を持つ人です」
セレナの涙が落ちる。
広間の外では、まだ議論が続いている。
奇跡は揺らいだ。
独占は、傷を負った。
だが強硬派は黙らない。
ラウレンツは廊下の影で、静かに言った。
「聖女は一人でよい」
その声は、まだ諦めていない。
奇跡の共有は、始まったばかりだ。
そしてその道は、平坦ではない。
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