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婚約破棄された聖女は奇跡を独占しない ―婚約破棄された回復職は、帰還兵と医療国家をつくる―  作者: 冬月シオン


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第21話 過剰肩代わり

 第二戦線は、セレナの到着によって一時的に勢いを取り戻した。


 完全回復を受けた兵は、その日のうちに前線へ復帰し、敵を押し返す。


 報告書には“奇跡的反転”の文字。


 だが、奇跡は反転の代償を記さない。


 三日目の夜だった。


 激しい攻防の末、負傷者が一度に十数名運び込まれる。


「胸部損傷三!」


「四肢切断二!」


「腹部裂傷!」


 テントは混乱する。


 セレナは迷わず中央へ立つ。


「順番に」


 声はまだ澄んでいる。


 最初の兵を完全回復。


 二人目。


 三人目。


 光が強まる。


 軍医が囁く。


「聖女様、休息を」


「大丈夫です」


 微笑む。


 だが四人目の途中で、視界が一瞬白く飛ぶ。


 足元が揺れる。


「……まだ」


 手をかざす。


 完全回復。


 兵が立ち上がる。


 歓声。


 五人目。


 六人目。


 喉が焼ける。


 胸が締め付けられる。


 だが止まらない。


「聖女様!」


 七人目の光が弾けた瞬間、セレナの身体が崩れた。


 テントが凍る。


 側近が駆け寄る。


「呼吸が浅い!」


 胸元に赤い染み。


 内出血。


 軍医が青ざめる。


「肩代わりの歪みが一気に来た……!」


 王都へ急報が飛ぶ。


 リシェルは報告を受けた瞬間、立ち上がった。


「馬を」


 エルマーが頷く。


「予想していたな」


「ええ」


 北方へ向かう道は、かつて自分が通った道。


 嫌な既視感。


 戦場の医療テント。


 中に入ると、セレナは白い寝台に横たわっていた。


 顔色は青白い。


 呼吸が不安定。


 教会の治癒術者たちが取り囲んでいる。


「回復が効きません!」


「光が弾かれる!」


 リシェルが近づく。


「どいてください」


 ロザリアが険しい顔で言う。


「聖女は神に守られている」


「守られていません」


 即答。


 胸に手を当てる。


 魔力を探る。


 ――歪んでいる。


 過剰な肩代わりが、身体の構造を狂わせている。


 単なる傷ではない。


 “無理に支えた奇跡”の反動。


「完全回復を続けましたね」


 軍医が頷く。


「止まりませんでした」


 セレナの睫毛がわずかに震える。


「……リシェル様」


 かすれた声。


「まだ、できます」


「できません」


 はっきりと言う。


 少女の瞳が揺れる。


「私は、聖女です」


「あなたは人です」


 リシェルは両手を重ねる。


 光は、強くしない。


 細く、繊細に。


 暴走した歪みを少しずつ解く。


 自分の胸が軋む。


 だが抑える。


 これは完全回復ではない。


 “止血”に近い。


 時間をかける。


 ゆっくり。


 テントの外では、完全回復を待つ兵の声が響く。


 だが今は応えない。


 光が収束する。


 セレナの呼吸が安定する。


 だが――。


 リシェルは気づく。


 完全には戻っていない。


 深い部分に、残る歪み。


「……回復適性は?」


 軍医が震える声で問う。


「残ります」


 リシェルは答える。


「ですが、完全回復は――」


 言葉を選ぶ。


「もう、できません」


 ロザリアが息を呑む。


「そんなはずは」


「あります」


 冷静に告げる。


「奇跡は無限ではありません」


 セレナが、ゆっくりと目を開ける。


「私……」


 声が震える。


「聖女、失格ですか」


 その問いは、刃より鋭い。


 リシェルは、迷わず少女を抱きしめた。


「あなたは消耗品ではありません」


 強く。


「奇跡が弱くなったのではありません」


 涙が、セレナの頬を伝う。


「無理をさせられただけです」


 テントの中が静まり返る。


 歓声も、期待も、ここにはない。


 あるのは、か細い呼吸。


 奇跡の光は、美しい。


 だが美しさは、壊れやすい。


 リシェルは少女を抱いたまま、目を閉じる。


 第二の聖女は、壊れなかった。


 だが削れた。


 その事実は、もう隠せない。


 奇跡の独占は、必ず誰かを削る。


 それが今、明らかになった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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