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婚約破棄された聖女は奇跡を独占しない ―婚約破棄された回復職は、帰還兵と医療国家をつくる―  作者: 冬月シオン


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第20話 憧れの距離

 出立前日、セレナは王立医療院を訪れた。


 教会の護衛を伴わず、たった一人で。


 門を開けたアベルが、目を丸くする。


「え、聖女様……?」


「セレナです」


 少女は慌てて言い直す。


「ここでは、その呼び方は」


 中庭に入ると、後遺症の残る兵たちが静かに訓練している。


 義足で歩行練習をする者。


 呼吸訓練をする者。


 包帯を巻く補助をする者。


 奇跡の光はない。


 だが確かな営みがある。


「……すごい」


 セレナが小さく呟く。


「全快していないのに、笑っている」


 アベルが苦笑する。


「全快してないから、笑ってるんだ」


 少女はきょとんとする。


 リシェルが奥から出てくる。


「来ると思っていました」


「……ご迷惑でしたか?」


「いいえ」


 セレナは真剣な目で周囲を見る。


「奇跡を使わないのに、回復している」


「時間を使っています」


「時間」


「奇跡は時間を短縮する術です」


 リシェルは言う。


「ですが、短縮すれば別のものを失う」


 セレナは黙る。


 やがてぽつりと。


「私、まだ削れたことがありません」


 正直な告白。


「怖いと思ったことも」


 リシェルは少女の手を取る。


「怖いと思ったとき、止まってください」


「止まれません」


 即答。


「兵が倒れていたら」


「止まらなければ、あなたが倒れます」


 沈黙。


「……リシェル様は、怖かったですか」


「今も」


 少女の瞳が揺れる。


 そのとき、ロザリアの側近が現れる。


「セレナ様、出立の時間です」


 少女は名残惜しそうに立ち上がる。


「戦場で、証明します」


「何を」


「奇跡が必要だってことを」


 その言葉は、挑戦ではない。


 純粋な信念。


 リシェルは静かに頷く。


「無事に戻ってください」


「はい!」


 笑顔で去っていく。


 エルマーが低く言う。


「止めなかったな」


「止まりません」


 少女の目は決意に満ちていた。


 夜。


 北方第二戦線。


 セレナの初陣は、鮮烈だった。


 負傷者が運ばれる。


 彼女は躊躇なく光を放つ。


 完全回復。


 兵は立ち上がり、歓声が上がる。


「聖女様万歳!」


 その声に、少女は微笑む。


 だが三人目の回復後、わずかにふらつく。


 側近が支える。


「問題ありません」


 セレナは言う。


「まだ、できます」


 四人目。


 五人目。


 光は強い。


 だが手が震え始める。


 胸の奥がひりつく。


 それでも止まらない。


「聖女様、こちらも!」


 呼ばれれば、応じる。


 止まらない。


 止まれない。


 夜明け。


 戦況は好転。


 完全回復により突撃が成功。


 歓喜の声。


 だがテントの奥で、セレナはひとり、咳き込んでいた。


 白い布に、うっすらと赤。


 見つめる。


「……あれ?」


 首を傾げる。


 痛みはない。


 だが胸が重い。


「大丈夫です」


 誰に言うでもなく呟く。


「まだ、できます」


 その様子を、遠巻きに見ていた軍医がいた。


 眉をひそめる。


 報告は、王都へ届く。


 ――第二聖女、大戦果。


 ――軽度の消耗あり。


 王城で報告を受けたリシェルは、目を閉じる。


「軽度、ではない」


 胸騒ぎがする。


 奇跡は甘美だ。


 歓声は、麻薬だ。


 そして。


 削れ始めるときは、静かだ。


 北方の空に、白い光がまた一つ瞬く。


 その輝きは、美しい。


 だがその内側で、何かが軋み始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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