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婚約破棄された聖女は奇跡を独占しない ―婚約破棄された回復職は、帰還兵と医療国家をつくる―  作者: 冬月シオン


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第19話 祝福の再来

 王都の中央広場は、かつてないほどの人で溢れていた。


 疫病のときでさえ、これほどの熱はなかった。


 高く設えられた壇上に、純白の衣を纏った少女が立つ。


 年は十六ほど。


 金の髪が陽光を受けて輝き、澄んだ蒼い瞳が群衆を見渡す。


「セレナ・アルディス様!」


 歓声が波のように広がる。


 リシェルは人混みの端から、その光景を見ていた。


 隣に立つエルマーが低く言う。


「……早いな」


「ええ」


 教会の動きは想定していた。


 だがここまで早く、ここまで大規模に“第二の聖女”を打ち出すとは。


 壇上に、負傷兵が運ばれる。


 演出ではない。本物の戦傷だ。


 深い裂傷。出血多量。


 群衆が息を呑む。


 セレナが両手をかざす。


 白い光が、まばゆく広がった。


 ――強い。


 リシェルは一瞬で理解する。


 自分よりも、純粋で、濁りのない魔力。


 光が収束すると、兵の傷は跡形もなく消えていた。


 兵がゆっくりと立ち上がる。


 歓声が爆発する。


「奇跡だ!」


「本物の聖女だ!」


 その言葉が、風に乗って広がる。


 セレナは小さく微笑む。


 だがその笑みは、誇示ではない。


 ただ、救えたことへの安堵。


 そのとき、彼女の視線がこちらへ向いた。


 群衆の中の、リシェルを見つける。


 ぱっと、顔が明るくなる。


 壇上から、深く一礼した。


 まるで弟子が師に向けるように。


 ざわめきが走る。


「なぜ、あの女に?」


 偽聖女と呼ばれた自分に。


 式典が終わったあと、王城に招かれる。


 王子、ロザリア、そしてセレナ。


 近くで見ると、少女の顔はまだあどけない。


「リシェル様」


 真っ先に頭を下げた。


「ずっと、お会いしたかったんです」


 澄んだ声。


「あなたの医療院の話、聞いています」


 敵意はない。


 むしろ尊敬。


 リシェルは静かに問う。


「完全回復型ですね」


「はい」


 嬉しそうに頷く。


「まだ未熟ですが……神様が与えてくださった力です」


 その言葉に、ロザリアが満足げに微笑む。


「セレナは純粋だ。奇跡に疑いを持たぬ」


 リシェルは少女の手を見る。


 細く、白い。


 戦場の血をまだ知らない手。


「戦場に行くのですか」


 セレナは一瞬だけ迷い、そして頷く。


「行きます」


 強い目。


「奇跡があるなら、使わなければ」


 リシェルは胸の奥がわずかに痛むのを感じた。


 その目は、かつての自分と同じだ。


 王子が静かに言う。


「セレナは北方第二戦線へ派遣する」


 軍務卿の意向だ。


 完全回復を求める声は強い。


 カトリーナは沈黙している。


 会議が終わり、廊下に出る。


 セレナが小走りで追ってくる。


「リシェル様!」


 息を弾ませながら。


「私、あなたみたいになりたいんです」


 その言葉に、リシェルは立ち止まる。


「……私のように?」


「はい。奇跡だけじゃなくて、制度を作る人に」


 純粋な憧れ。


 その無垢さが、痛い。


「奇跡は、使えば使うほど削れます」


 静かに告げる。


 セレナはきょとんとする。


「削れる?」


「身体に歪みが残ります」


「でも、それが聖女の務めでは」


 ロザリアの教えだろう。


 リシェルは少女の両肩に手を置く。


「あなたは消耗品ではありません」


 セレナの瞳が揺れる。


「奇跡は、あなたの命と同じ重さです」


 少女はしばらく考え、やがて微笑んだ。


「でも、救えるなら」


 その言葉に、かつての自分を見る。


 止めなければならない。


 だが強く言えば、彼女は反発する。


「……戦場で、会いましょう」


 それだけ告げる。


 セレナは嬉しそうに頷いた。


 夕暮れ。


 王都は再び“聖女”を手に入れたと歓喜している。


 奇跡の光は、民を安心させる。


 だがリシェルは知っている。


 光は濃いほど、影も濃い。


 遠くで、軍鼓が鳴る。


 第二の聖女は、まだ影を知らない。


 そしてその影は、もうすぐ彼女に触れる。


 奇跡は、甘美だ。


 だからこそ。


 独占されやすい。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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