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婚約破棄された聖女は奇跡を独占しない ―婚約破棄された回復職は、帰還兵と医療国家をつくる―  作者: 冬月シオン


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第15話 議場の戦場

 王都へ戻ったとき、街は戦勝の旗で飾られていた。


 北方要塞の防衛成功。


 だが同時に、帰還兵の数が少ないことも、人々は知っている。


 王城の議場は満席だった。


 軍務卿、財務卿、教会代表、貴族たち。


 そして傍聴席には、臨時医療院の関係者もいる。


 アベルの姿もあった。


「北方戦線における回復方針について、協議する」


 軍務卿が開会を告げる。


「従来の即時全快方式を採用しなかった結果、再出撃率は半減。次期攻勢は延期を余儀なくされた」


 数字が提示される。


「しかし」


 財務卿が口を挟む。


「後送兵の生存率は過去最高。長期療養後の労働復帰率も上昇」


 議場がざわめく。


「兵力の即時回復は困難だが、人的損耗は抑制された」


 軍務卿が苛立ちを隠さない。


「戦争は長期戦になる!」


「長期戦になれば、国力は疲弊します」


 リシェルが言う。


「短期決戦のために兵を削る方が危険です」


「全快させれば勝てた局面もあった!」


「勝てば終わりますか」


 沈黙。


 ロザリア大司教が立つ。


「奇跡を制限するなど、神の意志に反する」


「神は、延命を望んでいるのですか」


 リシェルは問う。


「命を救うことが神の御業だ」


「救った命を、再び戦場へ送るのも神の御業ですか」


 ざわめきが広がる。


「聖女制度は、一人に奇跡を集中させる」


 リシェルは続ける。


「その結果、戦争は奇跡を前提に設計される」


「設計?」


「回復があるから無理な戦術を取る」


 議場が静まる。


「奇跡がなければ、兵は慎重に動く。指揮官は損耗を恐れる」


 カトリーナが発言を求める。


「事実です」


 議場がざわめく。


「北方戦線では、回復前提の突撃は行わなかった」


「だから攻勢が遅れた!」


 軍務卿が反論する。


「だが壊滅もなかった」


 カトリーナは冷静に言う。


「……あなたは、どちらの側だ」


 軍務卿が睨む。


「国家の側です」


 即答。


 王子が静かに立ち上がる。


「結論を出そう」


 全員が沈黙する。


「聖女制度の即時廃止はしない」


 ロザリアが安堵する。


「だが」


 王子は続ける。


「段階回復を基本とする医療指針を制定する」


 ざわめきが爆発する。


「戦場回復は、医療判断を優先」


「再出撃は本人の意思を尊重」


「臨時医療院を、王立医療院へ昇格」


 軍務卿が声を荒げる。


「それでは戦力が!」


「戦力は、兵の数だけではない」


 王子は言う。


「国の持続力だ」


 沈黙。


「奇跡は、国家の資源ではない」


 その言葉は、重く落ちた。


 リシェルは静かに息を吐く。


 一歩。


 だがまだ、完全ではない。


 議会は分裂したままだ。


 廊下に出ると、アベルが駆け寄る。


「勝ったんですか」


「いいえ」


 リシェルは微笑む。


「負けなかっただけです」


 その夜。


 王城の一室で、カトリーナと二人きりになる。


「あなたは、王子を動かした」


「動いたのは彼自身です」


「制度が定着すれば、戦争の形は変わる」


「変わらなければ、意味がありません」


 カトリーナはしばらく黙り、やがて言う。


「私はまだ、即時全快を完全に捨てられない」


「必要な場面はあります」


 リシェルは認める。


「だが常態化させない」


 カトリーナは小さく笑う。


「あなたは頑固だ」


「あなたも」


 視線が交わる。


 敵ではない。


 だが同志でもない。


 王都の夜は静かだ。


 だが水面下では、反発が渦巻いている。


 聖女制度は揺らいだ。


 だが崩れてはいない。


 リシェルは窓の外を見る。


 戦場は遠い。


 だが延命という思想は、まだここにある。


 削れた身体が、鈍く痛む。


 奇跡は、確かに使った。


 だが延命は拒んだ。


 その代価が、これから問われる。


 戦いは、終わっていない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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