リザレクション
青春応援ショートショート。
朝の授業開始のチャイムが鳴った。また長い一日興味の薄い勉強をする。
5月。桜も散って少しづつ気温も上がってきている。
高校1年の山内君は少しコミュ障なところもあり高校でもあんまりなじめていない。
「友達できないなあ、学校来てもあんまり面白くもない」
つぶやく。
ホームルームの時間にクラス委員の柏木みずほがクラスメートの前に出て
堂々と話しをしている。4月に自分からクラス委員に立候補した。
柏木みずほは黒髪のロングで整った顔。身長は山内君と同じくらいだ。
クラスの男子にも先生たちにも面と向かってハキハキとした口調で意見を言える。
帰宅後。
山内君は自分の部屋の椅子に鞄を置いて、ネクタイを緩めてそのままベッドに横たわる。今日のホームルームのことを反芻している。
「柏木みずほさんか・・・。クラスメート全員の前で臆することもなく自分の意見をしゃべれるなんて凄いなあ。引っ込み思案の俺にはとても無理だ。
それに、チョット可愛いな」
そんなことを考える。
ベッドの横には小さな水槽があり中には淡水魚が数匹泳いでいる。
起き上がり水槽の中の魚を眺める。
魚は観賞用の石に生えている苔をガジガジとついばんでいる。
「俺の悩みも魚たちがこの苔みたいについばんで食べてくれないかな?
多分すごく苦いだろうけれど」
翌日の下校時。テストを終えてさっさと家路を急ぐ山内君。
並木道の1本の木の脇に段ボールが置いてあるのが視界に入った。
「子猫もらってください」の張り紙がある。
朝の登校の時には無かったな、と思いつつも中をのぞく。中には真っ白い小さな子猫が1匹だけいた。子猫と山内君は目がバチっと合った。
「ニャー、ニャー、ニャー!!」
と山内君の顔を見て何やら訴えるように必死に鳴く子猫。
やばいな、子猫ってこんなに小さくてかわいいものなのか。
「お前いつからここにいたんだ?もしかしたらお腹すいてるのか?」
段ボールの前でしゃがみこんで中の子猫と戯れる山内君。
「あれ?山内君、どうしたの?なにしているの?」
背後からの急な呼びかけにびっくりする。振り返るとクラス委員の柏木みずほがいた。慌てふためく山内君はしどろもどろになりながらも、変に思われないためにすぐさま段ボールの中を指さした。
「あ、柏木さん!いや、これ・・・。猫がいるんだ」
「猫?」
柏木みずほも段ボールをのぞく。
「ホントだ!!」
「もらってくださいって張り紙もあって。捨て猫だろうけれど俺、どうしたらいいか困ってたんだ」
少し考えるそぶりを見せる柏木みずほ。とにかくこのままにはしてはおけないので2人は近くの無人の神社に子猫を段ボールごと持っていくことにした。
山内君はコンビニへミルクとちゃーるという猫用のおやつを買いに走った。
少しの間だけ2人でこの神社でこの子猫の世話を見ることにした。餌は毎日持ってきてやろう。段ボールの中であれば道路に飛び出す危険もないし、寒さもましだ。
次の日の授業の休憩時間。ドリンクコーナーで山内君と柏木みずほはあの子猫のことを相談している。これからどうしようか?
いつまでもあのままというわけにもいかないだろう。飼い主を探そうか?
残念ながら山内君のお母さんは猫アレルギーなので飼えないということらしいし、柏木みずほの家には座敷犬をすでに飼っているので難しいということだ。そんなことを話していた。
10日後、山内君をいつものドリンクコーナーへ柏木みずほが誘ってきた。
そこには隣のクラスの女子、松山さんがいた。松山さんは小柄なショートボブの髪形で丸い大きな眼鏡をしている。柏木みずほが子猫のことを話したとき松山さんが飼ってくれることになったらしい。
「あ、こんにちは!山内君だよね?みずほから子猫の話は聞いてる。
私がもらってもいいかな?」
「引き取ってくれるの?助かるよ、ありがとう!」
その日からドリンクコーナーのみならず、教室でも廊下でも柏木みずほや松山さんたちとネコトークを繰り広げる。子猫の名前はマシロにしたということだ。毛並みが真っ白だからマシロ。リア充属性の柏木さんに松山さんとぼっち属性の俺が休憩時間にネコトークで盛り上がっている。
女子たちとこんなに話したのは初めてだ。高校に入ってもしかしたら初めて楽しいと感じているかもしれない山内君。
なんだ、つまらないと感じていた毎日の中に1つでも喜びを見つけられたら
毎日って変わるものなんだな。
きっかけはあの白い子猫。
柏木みずほはファンタジー世界でいうシスターで、傷ついて死に体となっていたぼっち冒険者の山内君にリザレクション、蘇生の魔法をかけてくれた。松山さんは魔法使いかな?
例えが中二病っぽいけれど彼の学校生活が少しだけ楽しくなってきたのは事実だった。
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