第二章 五十九
「くっそがあああ! なんだあれは! なんなんだ!」
第一王子は、癇癪を起した子供のように、戦艦に向かって吠えていた。
激しい斉射を受け、二百の兵の前列が崩壊した。
ただのゴム弾ではない。
死者こそ出ていないらしいものの、その身に被弾した者は、気絶するほどの威力だった。
抱えていたミサイルランチャーも、その特殊なゴム弾の威力で取り落とした者が多い。
それだけではなく、兵達はよろめき将棋倒しになったり、直接被弾して、もんぞりうっている者も居る。
王子部隊は開幕早々から、撤退すべきレベルまで崩壊させられたのだった。
過半数はまだ無事とはいえ、次が来たらもう、どうしようもない。
などと思考しているうちに、対処する間もなく次弾が来た。
先程と同じように、黒い弾幕がドッパと、隊列めがけて正確に飛んで来る。
それはまさしく黒い幕のようで、一瞬で「逃げ場などとこにもない」と、戦意を喪失させるものだった。
――そして瞬く間に、六割以上が継戦不能な状態になってしまった。
あまりにも一瞬の出来事で、どうしようもなくあっけないものだった。
「くっそぐあああああ! 貴様ら! それでも俺に選ばれた兵か! ゴム弾ごときで何をしている! 転生者はどこだ! もうあのデカブツも魔王もどうでもいい! 聖女を狙え!」
側に控えていたはずの、この部隊の火力役。
転生者はいわば、王子部隊の主砲だ。
「さっ、先程被弾して、そちらで気絶しています!」
まだ無傷の兵が、速やかに進言してくれた。
その声には、もう終わりにして降参してくださいと、そういう意図が含まれている。
「お……おのれぇ……おのれおのれおのれ! 何の役にも立たんクズが! もういい! 団長! 聞こえるか! そっちの兵器全てだ! 武装車も全部聖女に使え! 聖女を狙うのだ!」
王子は通信機に向かってそう叫び、そしてすぐさま返事が来ない事にまた苛立っている。
「……し、しかし殿下。それでは魔王が自由に。それに先制を取られた上に、こちらが混乱しているこの状況では――」
すでに、作戦は失敗しているのだと進言して……一万の軍を下げたかった。
「いいからやれと言っている! さっさと撃て! 俺まで撃たれるだろうがグズグズするな!」
問答無用だった。
完全に頭に血が昇り、今この状況では出来もしないはずの復讐に、完全に囚われてしまっている。
団長は、殿下の作戦に賛同した自分を呪った。しかし、この殿下のもとに付いていた時点で、もはや運命には逆らえなかっただろうと思った。
いや、思っていたのだ。
しばらく前から、ずっと。
聖女が現れ、聖女に絡んだせいで痛い目に合い、そして情けをかけられたお陰で、まだ生きていた。その命の使い道を、誤ったのだと悟った。
その命運が、尽きるのだなと……彼は空を仰いだ。
「戦闘車一番から二十、巨大なあれ目掛けて斉射。二十一から五十、同じく続けざまに撃て。そして……」
団長は、ミサイルの斉射が、巨大な船に全く効いていないのを横目に、丘を見た。
聖女の立つ丘を。
命を取らずにいてくれた聖女を遠目に見上げ、そしてため息をついた。
「五十一から七十番、聖女の居る丘方向を狙え。だが……着弾地点は、そのずっと向こうにしろ。当てるなよ。これは……模擬戦なのだからな」
国王もその場に居るのだから。
でも、そこまで言う必要はなかった。
――あの殺気を感じたからだった。
聖女を殺そうとしてしくじった時の、一緒に居たあの男の放つ殺気を。
今どこに居るかは、この混乱の中では分からない。
しかし、聖女を狙えと命じ、その砲身がそこに向いてすぐに、命を削られるような寒気がしたのだ。
「もう、それで作戦終了だ。命あれば、また会おう……」
騎士団長は今になって、あの時見逃してもらった恩を、仇で返してしまった事を悔いた。
王国のためと信じ、国と民を想って、その使命を全うしようとしていたというのに。
「――撃て」
その言葉を、希望の無い声で言った。
同じく第一王子の、世界を見た上で厳しく振舞おうとしていた姿に、惚れこんでいたというのに。
「……今の殿下は、何かの妄執に憑りつかれ、聖女への復讐しか頭にない……壊れてしまったのだ」
殿下は死ぬだろう。
自分も死ぬだろう。
それで、王国と魔族は和平に向かうはずだ。
「私と殿下の死が、和平へと繋がるといいなぁ……」
騎士団長は、聖女の立つ丘に向かって、目を閉じた。
胸に拳を当て、祈りを捧げるように。
**
魔王は上空に居た。
巨大戦艦からの特殊なゴム弾の斉射を受け、さすがに当たると痛そうだなと踏んで。
そして、その要塞じみたそびえ立つ船を、さらに高くから見下ろして戦況を眺めていた。
「熱源探知などは出来ないのか、それとも、その範囲が上に向いていないのか……」
魔王は次に動いた時に、自身の体温を目印にされる可能性を、捨ててはいない。
「しかし、あの馬鹿は模擬戦のルールを忘れたか。一万の方を使うとはな」
模擬戦には勝った。相手の反則負けが確定したのだ。
「だが、やはりあの軍勢の用意、気になるな……。さては、本来は模擬戦で何か別の事を仕掛け、それを目隠しにして俺の領土を踏み荒らすつもりだったか?」
その目的以外に、あの無駄なデモンストレーションと、一万の兵は不要だったろうと。
ただ、今すぐに殲滅するわけにはいかない。
確たる証拠がなければ、あの数を殺すと厄介な事になりそうだと魔王は思った。
先を読んだからと言って、まだ行動していない相手に、付け入る隙を作る訳にはいかない。
だが――。
そんな事はすぐに、どうでもよくなった。
「あの野郎……俺のサラに砲身を向けたな」
許すわけがなかった。
後で王国から何を言われようと、殺戮兵器を、愛する妻に向けられて許せるはずがない。
たとえこのまま、戦争になろうとも。
「馬鹿は死なねば治らんのは、いつまで経っても変わらないな」
魔王は、妻の居る丘に転移した。
命よりも大切な妻を護るために。
ついでに、国王に一言、断っておくために。
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何卒よろしくお願い致します。 作者: 稲山 裕




