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【完結】聖女級の治癒力でも、魔族だとバレるのはよくないようです ~その聖女、魔族で魔王の嫁につき~  作者: 稲山 裕


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    一方的な攻撃(ニ)


「ねぇ。第一王子殿下。無能なだけならともかく……人の邪魔をするような人って……。いらない。ですよね」

 その言葉は、自然とあふれ出た。


 考えなくても、するすると私の中から湧き上がる言葉たち。

 私は王子の顔を、見ているようで、あまり見ていない。

 だけど私にはもう、どんな顔をしているか想像がつく。


「命まで狙うんですから。あ、もしかしてもう、けっこうな人数を殺してるんですか?」

 される側に回った王子が、悔しいとか、怖いとか、そういうものが入り混じった顔をしていると分かる。

 だって、私ならこのまま、殺されるのか、それとも酷いことをされ続けるのか、そうした恐怖で頭がいっぱいになるから。

 この人も、きっと同じものを頭に巡らせている。


「もし殺しているなら、遠慮することない。って、私、思うんです。というか……私のことを殺そうとしましたもんね」

 彼のまぶたに……剣先をすべらせた。

 私を、最後のプライドで睨みつけるその腹立たしい目を。

 このまま一センチでも差し込めば……とても痛くて、失明するのではという恐怖も相まって、とっても嫌な気持ちになるだろう。



「あなたのような地位の人が、自分の欲のために悪いことをするのって、大罪ですよね。誰も逆らえないんだから」

 治せるから。

 そう思って、ドキドキしながら剣を突き刺した。

 ほんの一センチだけ。

 王子は呻く、けれどもそれは、シェナの強い力で抑え込まれる。


「ふふっ。怖いですか? 痛いですか? 私も顔に、思いきり振りかぶられてから突き刺されたんです。ほんっっっとに怖かった。分かります? 少しくらいは人の気持ち、残っていますか?」

 血は、思ったよりも出なくてよかった。

 シェナの手が汚れちゃうかと思ったけど、回している手の反対側の目にしたから、吹き出るほどではなかったので、汚れたりしなかった。



「ねぇ。私の命を狙うっておかしくないですか? 人の怪我や病気を治しているだけなのに……なんで殺そうとしたんです?」

 聞いても今は、答えられないんだったと思った。

 でも、聞かざるを得なかった。

 本当に怒っているから。


 さっきの、邪魔だからという理由では納得できない。

 そもそも、どんな理由で合っても、理不尽過ぎて許せる気がしない。

 だから、今はこの人を傷付けてもいい。

 それはただの免罪符じゃなくて、殺されかけた私の、権利だと思うから。

 殺さないだけ、ありがたいと思ってほしい。



「私はあなたにやり返しても、いいですよね? あなたにはな~んにもしてないのに、殺されるところだったんですから」

 刺していたのをうっかり忘れていたから、剣を抜いた。

 次はどこに突き刺そうか、と。


 少し迷っていると、王子がしきりに頷こうとしているのが分かった。

 シェナに目配せをして、僅かに手を緩めてもらう。

 ……やっぱり、頷くように頭を動かしている。


「何か? 分かったから許せ、とでも仰りたいんですか?」

 私の気は、まだ済んでいないのに。

 剣を思い切り突き刺された恐怖と痛みも、まだだし。

 裏切られたと知った、あの辛さと悔しさも、まだ与えていない。



「許せって、随分と上からじゃないですか? 本気で謝る気持ち、あるんですか?」

 そう問うと、また頭を縦に振る。

 ……興覚めだ。

 まだ抵抗して、反抗して、敵対した眼差しを向けてくれなくてはいじわるを出来ないのに。


「……私、甘い。って、よく言われるんです。でも……それで皆と仲良くできるなら……少し我慢をして、許してあげようって、思うんですよね」

 その言葉を聞いて、彼はやはり、頭を縦に動かした。

 だけど、残っているもう片方の目は……少し嫌な光を籠らせた。



「そう……ですよね。腐りきった性根の人って、こんな簡単に心を入れ替えるわけがないのに。やっぱり、皆が言う通り私は甘かった。それを今、痛感して心が痛いです。第一王子殿下」

 私は、シェナの手が汚れないように、王子のおなかの方に剣先を移した。

 そうか、やらなくては……本当の悪人の心は変わらないのか。


 ただ、それを私がするのは、正しいのかなと、そんな些細なことにも私の心は痛む。

 最大の権力者を裁くのは、一体誰だろう。

 誰かが裁いてくれて、平和が訪れるのを待つしかない。

 ……普通なら、そう思い込むようにして、泣き寝入りするしかない。


「ねぇ。その悪いことを考えてる時って、どんな気持ちなんです? 私には、理解できません」

 彼は首を横に振った。

 ……どういう意味だろう。

 悪いことだと、思ってさえいないのだろうか。


「それって、何でもないことなんですか? あなたは……自分は正しいと?」

 最初に見せた動きは、僅かに縦に振れた。

 そして次の瞬間に、横に振ろうとしている。



「そうですか……。何とも思ってないんだ。へぇ~……。そんな人、いたんだぁ」

 それじゃあ、分かり合えるわけがない。

 私がしてきた我慢は……いじめをする人達から逃げただけでは、何も伝わっていないのか。


 この世界の人たちは、皆が優しくしてくれたから、ここは理想郷だと思ってた。

 でも、それは魔族の皆だけだった。

 人間は、油断ならない。

 こんな人が、国のトップになるかもしれない地位にいるのだから。


「許しを請うことさえしないあなたは……いつになったら罪を自覚できるんです?」

 何かしらの教義が、彼に罪を教えてくれるだろうか。

 それなら、あまり興味のなかった宗教も、ありだなと思う。


 でも……。

「でもそれじゃあ、今まで殺されてきた人達は、どこで浮かばれるんでしょうね」

 そう言って、私は剣を突き刺した。


 彼のおなかに吸い込まれるように、そして、背骨にでも当たったのか、少しの手応えが返ってきた。

 あまりに切れ味が良いせいで、王子の体は痛みを感じるのが遅れて、筋肉の収縮がひとつも起こらずに背骨まで剣先が届いてしまった。


 そこで初めて、彼は……恐怖が先か、痛みが先か、大声を出そうとしたらしい。

 またシェナに、強く抑えられて声は僅かも出せなかったけれど。

 ……こんなことをしても、彼の性根は直らないのでは?


 ならば、このまま殺すしかないのだろうか。

 いや、殺すだけならいつでもできる。

 私には、人間では絶対に届かないだけの力があるから。

 シェナも居る。



 ――一度だけ、許そう。

 仮の許し。

「ねぇ。剣を抜いてあげましょうか? ただし……私から目を逸らさないで」

 彼は血走った目で、痛みで閉じそうな残りの目を必死で開きながら私を見た。


「そのまま……絶対に逸らしてはだめよ?」

 剣を……筋肉の収縮でがっちりと固められた剣を、上下左右に揺すりながら、ゆっくりと引く。

「えらいわね。まだ、逸らさずにできるんだ」

 それは許しを請うためなのか、罪を認めたからなのか。


「第一王子殿下。私はまだ、あなたを許すわけにはいかないの」

 剣を揺らすだけで、引かずに話を続けた。

 私も今、正常ではないと思う。

 こんないじわる、私に出来るはずがない。

 怒りを、私にここまでの怒りを覚えさせたせいだ。



「今から言うことを、絶対に守りなさい。でなければ、またベッドの上に立ってあげるから」

 ぐりぐりといじめ抜いた腸は、中でずたずたになっているだろう。

「ひとつ。私の邪魔をしないこと」

 彼は目を逸らさずに、懸命に頷いているらしい。


「ひとつ。人の邪魔をしないこと」

 王子は頑張っている。治してもらえるのを、期待しているからだろうか。

「ひとつ。人のために生きること」

 目が少し、虚ろになった瞬間があった。

 痛みで気絶しそうなのかもしれない。


「ねえ、大事な話をしているの。気絶したら許さない」

 彼はまた、必死の形相で意識を戻した。

「いい子ね。それからもうひとつ。犯罪者を野放しにしないこと」

 意識を途切れさせずに、まるで命を削りながら私を見ている、そんな情熱があるのかというほどの熱い眼差しだった。



「分かったら、返事をなさい。私の心に響くような返事を。許してあげたくなるように、殺した人達に詫びながら」

 察したシェナは、抑えていた王子の口から手を離した。


「わ……わるかった。もうしない……こ、殺した人には、こここ、心から、謝罪を。い、いのちを賭して、せ、聖女、あなたの……いう、通りに。すすす全て、かならず。違えぬ、と。ち、ちちち、ちか、誓う!」

 それは、本当かどうかは、確かめようがない。

 今は。


 この次は……もっと酷いことをしてやる。

 それでも……。

 今は、仮の許しを。

 誰かが与えないと、確かめられない。



「はぁ……。次はないわ。分かったわよね?」

 剣を引き抜き、返事を待つ。

「う、ああ。ちち、誓う。ちかい、ます」

 その目は、疲弊したからか、助かると思って解放されたつもりでいるのか。

 さっきのような、嫌な目ではなくなっている。


「本当は、私は許していない。それも理解しなさい」

 そして私は、治癒のために、彼に魔力を流した。

 こんなに嫌な気分で治癒を行っても、傷は瞬く間に癒えていく。


「シェナ……。我慢してくれてありがとう。……帰ろう」

 私の怒りは、私だけのものではなかったと思う。

 繋がっているシェナの、深い悲しみと憎悪も、きっとどこかで共有している。

 そんな気がした。


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 何卒よろしくお願い致します。  作者: 稲山 裕



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