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一、これが現実?

   一、これが現実?



(人の優しさが、見えるようになればいいのに)

 そんなことを本気で思いながら下校している私は、瓜生(うりゅう)沙良(さら)


 中学一年の時に、「いじめなんてやめようよ」と言ったことでいじめられてから、ずっと不登校だった。

 地元から離れた高校に通う今でも、友達を作るのが怖い。

 今日もクラスメイトの男子から、「お前まじで喋らねぇのな、きっしょ」と、突然言われた。

 一人教室の隅っこで、本を読んでいるのがそんなに気に入らないのかな。



『身だしなみだけは整えておきなさい』

 ママにそう言われて、二カ月に一度は美容院で長い髪を揃えてもらって、眉も整えて日焼け止めと淡い色のリップくらいは塗っている。

 そうすることで、人並みだと思ってもらえて話しやすくなるからと。

 どの美容院に通ってるだとか日焼け止めはどれだとか、そういう話題ひとつで仲間だと認識されるからと。



 でも、私は『クラスメイト』が怖いの。だから話せない。

 そもそも、そんなことで友達になんてなれると思えない。

 ママとは普通に話せる。パパとも。けど……学校では話せない。


 家族は別。優しい人だと知ってるから。

 だから……本気で思う。

(優しさが数値化されて、頭の上にでも浮かんでいたら……こんなに傷付かなくても済むんだろうなぁ)

 そんなバカなことを考えながら木枯らしに吹かれて、あと五分くらいで家だなと歩道を歩いていたら――。


 意識が飛んだ。


『まっすぐな一本道の歩道』を歩いていたのに、見事に撥ねられてしまった。

 ……みたい。

 みたいというのは、私は今、車の窓に映る自分の姿を見て、なんとなくそう思ったから。

 私は人魂っぽい、まあるい感じでふわふわと浮いているので、なんだか実感がわかない。

 歩きながら寝てしまって、夢でもみているかのような現実味のなさ。



 ブオオオオオオン!

 でも私の本来の体は、どうやらこの白いセダンの下敷きになっているらしい。それは本能的にそう思った。


 ブオオオオン!

 血がじわじわと歩道を伝って、ゆっくりと、だけど意外とたっぷりな感じで広がっていく。


 ブオオオオオオオオン!

 っていうか、いい加減に車のエンジン切ってほしいんですけど……。

 めっちゃフカしてるけど運転席のおじいさん……ヤバ。

 思いっきり縁石に乗り上げて前輪浮いちゃってるのに、ぎゅるぎゅるとタイヤを空回りさせてる。



 ブオオオオオオオオオオン!

「おい! エンジン止めろ! 降りてこい!」

 眼鏡をかけた短髪の、紺色スーツの若い男の人が、車の窓を叩きながら中の人に叫んでる。


 ブオオオオオン!

(お兄さん、危ないですよ? 私のことはもういいので……。二次被害とか心配ですし)

「聞こえねぇのか! 女の子轢いてんだぞ! いいから止めろって!」


 ブオオオオオオオオオン!

(だめだこりゃ……。運転手のおじいさん、真顔で前しか向いてないし。やっぱり危ないですよお兄さん。何かの弾みで車が動いちゃったら、お兄さんも轢かれちゃいますよ?)

 エンジンを止めないおじいさんにムカつくよりも、お兄さんが心配になっちゃう。


 それに……これが現実なら、私はもう助からない。

 あんなに血が出てるんだもん。

 頭でも打った(……割れた?)のかな。それとも……どこかをぐちゃっと潰されちゃったのかな。

 出来れば、グロそうなそれは見ずにこのまま……行けるなら、天国に行きたい。



   **



 そんなことを割と真剣に祈っていると、上から吸い上げられるような感触でどんどんと自分が浮いて行く。

 ゆっくり昇ってる感じなのに、私のために怒ってくれていたお兄さんはもう、豆粒くらいにしか見えないくらいに天に昇っている。


 ん、でも。このままだと宇宙に出ちゃうんじゃ――。

 そう思って上を見上げたら、そこはもう、私の知っている空じゃなかった。



 ――真っ白な世界。

 白ってことは……天国?

 でも、何もない。


 わかった雲の中だ。夏の大空に浮かぶ、真っ白で大きな入道雲。

 いや、木枯らし吹いてたし、視界もクリアでただただ広大な白い世界だから――。

 雲の中じゃあない。



 おや、手足も体も戻ってる。まあるい人魂みたいな姿じゃなくなった。

 素足だぁ……って、全裸なんだけど。


 ふわふわとした床は、温かいような、やわらかいような。

 でも、さっきみたいに浮いてるわけじゃないみたい。

 足の裏に、自分自身の体重を感じる。



「さあ、お次の方~。瓜生(うりゅう)沙良(さら)さ~ん」

 あ、呼ばれた!

 女の人の、綺麗な声しか聞こえないけど。

「はぁい!」

 思いのほか、おっきな声が出た。



「元気なお返事、エライですね~。あなたは……うん。あの世界に行ってらっしゃーい」

「ふえ?」

「お幸せに~」

 そう言われた次の瞬間には、私はスカイダイビングを体験した。

 したことがないのにそうだと思ったのは、物凄い勢いで落ちているから。


「きゃああああああああああああぁぁぁぁぁ!」

 ぱ、ぱらしゅーとは? パラシュートも何も持ってないですけど!

 遠くの地面が、視覚的には割とぐんぐん近付いてるし……やっぱり落ちてる! 落ちてる!



 ――いやだいやだいやだ、痛いのは嫌痛いのは嫌!

 地面がッッッ、どこ見ても平原が広がり過ぎてて痛くなさそうなところがない!

 ああああ痛くない地面て何? どうしたらいいのしんじゃうしんじゃうしんじゃう!

 むりむりむりむりむりもうむりぃぃぃ地面来るううううううううう!



「――そっ、即死で痛くありませんように即死で痛くありませんように即死で痛くありませんように即死で痛くありませんように――!」

「面白い遊びをしているな小娘。着地までは考えなかったのか?」

「ひっ……ひぃぃぃぃ」

 しっ……しんだ。


「おい。返事をせんか」

 低い声が聞こえる……?

 生き……てる?

「はっ、……はひ」


 ひんやりとした柔らかめの感触が、緊張で熱くなった背中全体に気持ちいい。

 丈の低い草のお陰だった。

 どうやら仰向けに寝かされたらしい……。

(死ぬかと……死んだとおもったほんとに)


 さっき事故で死んだ時はぶつかった時の記憶ないけど、これ……これは……マジできっっっつぃ。

 ていうか、どういう状況なのか誰か教えてください。



「貴様、死にかけたみたいな顔をしておるが……自分でやったのではないのか」

 こんな恐ろしいこと、自分でするわけがない。

「しま、しませんよこんなこと! って、あれ? 誰も居ないのに声だけ……」


「ここだ、ここ。人の姿ではない。剣だ。助けてやった礼にこの地面から抜いてくれ」

「は……はい。わかりました」

 どういうことかな?

 これは夢……夢的な?

 だだっ広い草原の、ほんとに何もないところに、喋る剣が刺さっているなんて。


 その頭? には、Lvの文字と、王冠のマークがうっすらと浮かんでる。

(レベル……クラウン?)

 なにこれ。最強ってこと?

 でも厳めしい感じじゃなくて、綺麗な剣。

 持つところは……手を守るためかな、花をモチーフにして金糸を編んだような装飾で……少しだけ見える黒銀の細い刃も、かっこいい。



「んっ…………。これ、かっ、かたい!」

 屈んで力いっぱい引いた程度では、びくともしない。

「素直で良い娘だな貴様。名は何という」

 んぬぬぬぬ、抜けない……。

 スクワットみたいに踏ん張って、思いっきり引っこ抜こうとしても――。


「いまっ、話しかけないでぇぇ!」

「そうか。では頑張って抜いてくれ。ほれ、もうすぐ抜けそうだぞ」

「うんんっっっ!」

 ――ずるりと、少し気持ち悪い手応えで、剣は抜けた。


 勢いで大きく後ろに尻もちをついたから、お尻が痛かったけど。

 でも……不格好な姿で大股を開いているとはいえ、剣の装飾で下腹部を隠せているからせーふ。だと思いたい。



「おおおおおおおお! やっとだ! やっと自由の身になれたぞおおおおおおおお!」

 おお……なんだか、ものすごくお喜びになってる。

「よ、よかったですねぇ」

 ともかく、座り直そう。そして喋る剣は、持つところをお膝に乗せて寝かせることにした。

 だって意外と重いんだもの。



「おおおおおお! よし! よしよしよしっっっ! よくやったぞ小娘! 何か願いを叶えてやろう!」

「ふぇ? え、願い……って言われても。急に思いつきませんケド……」

 目も口もないから、どこを見ればいいのかよくわからない。


「なんだ。欲くらいあるだろう。彼氏か? 彼氏でも見つけてやれば良いか?」

 彼氏とか、居たことないなぁ……でも、なんか違う気もする。

「それとも金か? 遊んで暮らせるくらいの金ならあるぞ?」

 お金……も、まぁ、あればいいんだけど、叶えてもらうには、やっぱり違う……。


「ええい、貴様も魔族なら、もっとはっきりと欲しいものくらい持たぬか!」

「えっ? 魔族? 私が?」

 あっ、そうか。やっぱりこれは夢だったんだ。

(かなり現実味のある夢……)



「いや、夢ではないぞ。貴様あれか、転生者か。女神の差し金にしては間抜けな魔族になったものだな」

「女神? いや、そんなカミサマ知らないですケド……あ、あの真っ白い場所の声の人がそうなの?」

 ていうかいま、私の心を読んだ?


「まぁ、そうだろうな。だが……あの派手好きな女神が白いだけの空間など作らんだろうし……別の女神か」

「はぁ……」

 これ、もしかするともしかして?

 転生ものは、割と読んでましたけど……。

 ……ほんとにぃ?



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