答え合わせ(聴取)〜警察サイド〜塚内
「・・・おかあ・・・さん?」
僕から視線をそらすことを忘れてしまったかのように、目を見開いて驚いた表情をしたこうすけくん。
「うん」
「・・・お母さんって・・・」
「もちろん君の本当のお母さんだよ。誰がそんなことしたのかはまだ特定出来てないんだけど、橘かその仲間の誰かであることは間違いない。事件のあった部屋からは犯人の痕跡が見つけられなくて」
「・・・・」
「だから、これから橘に聞き出すところなんだ」
事件があった当時、橘の他に何人いたのか分かっていない。ただ当時居たはずの仲間の一人は、橘に既に殺害されてるから奴から当時のことを聞き出すことは不可能だ。
(そしてこうすけくんとけいすけくんの母親のフリをしていたあの女性も然り)
「それで、こうすけくんには君が過ごしたあの場所で何があったのか、覚えてる限りで教えてほしいと思ってる」
「・・・」
「思い出したくない事もあるかもしれないけど、思い出せる範囲で答えてくれればと思う。さっきも言ったとおり無理矢理絞り出して答えようとしなくていいからね」
『お母さん』という言葉に動揺したのか、それとも意識がないという状態に動揺したのか、何れにせよ彼女の様子を今初めて知ったこうすけくんには、酷な事を告げてしまったようだ。
(何れ分かることだから、他の捜査員とも相談して早めに伝えようってことにはしたけど・・・)
「お母さんについてたけど、様態は安定してるし、毎日君のお兄さんの秋斗くんとお父さんが様子を見にいってるから、心配はないよ」
黙り込んだこうすけくんに足立さんが横から口を開いた。
それでも、今の彼には何の慰めにもならないことは僕達もみんな分かっている。
「少し休憩するかい?お腹空いてるだろう?時間が中途半端だけど、食事にしようか。というか今日はホテルに着いたらもうお開きにする予定だったから、詳しくはまた明日にしようか」
「・・・いや」
目線を僕から外し、微かに下におろしたこうすけくんは少し目が泳いでいた。
「大丈夫・・・です」
「無理はしなくてもいいんだよ」
「無理はしてないです。ただ、」
「なにかな?」
「上手く話せるかどうか、自信がなくて」
そして落ち着こうとしてるのか、僕がテーブルに置いた炭酸入りのコップを手に取り一気に飲んでから一息ついたように肩を大きく揺らした。
「上手く話す必要はないさ。僕達はそんなことを求めてるわけじゃない」
「・・・」
「あのね、これは明日改めて言おうとしてたことだけど、これから少ししたら裁判が始まるんだ」
「裁判?」
「うん。橘を裁くための裁判だよ。そこで必要になるのが君の証言なんだ」
「俺の・・・証言」
実際はけいすけくんにもすでに聴き取りを行っている。無事に保護したあと、記憶があいまいにならないうちに彼からも話は聞いてはいるが、如何せんまだ幼いため部分的にしか分からないことのほうが多い。それに彼を保護したあとの橘と奥さんの様子もけいすけくんには分からない。
「僕達が潜入捜査をしていた期間、どうしても家の中で起こった事は細部まで分かるわけじゃない。家の中で何か変なものを見たとか、夫婦の会話とか様子とか、何かおかしかったことがあるとか」
「・・・・」
「さっき車の中で途中まで話した君のスマホの件もそうだけど、思い当たることなんでもいい」
「・・・分かりました」
頭の中で聞いたことを必死に処理をしようとしてるのか、気難しい顔をしたこうすけくんは、遠慮がちに頷いた。
彼がこれから話してくれる内容とすでに報告が上がってきている押収物、それにけいすけくんからの聴き取りで得られた情報に一貫性があれば裁判は進めやすいけど、果たして橘はどう出てくるか。
『恐らく精神状態の異常を訴えて無罪を主張してくるだろうな』
(・・・・刑法 第三十九条)
警部の言葉が一瞬頭をよぎる。
犯罪者が刑罰を回避する常套手段だ。
「ありがとう。それじゃあ、まずはスマホの件から話してくれるかい?」




