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消えた弟  作者: しおやき
第四章 結 消えた弟

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残された謎 4



 「・・あ、え?」

 「ごめんよ、変な聞き方をして。そんなに構えなくても大丈夫。僕たち警察も橘の行動を全部把握してるわけじゃないから、参考までに聞きたいだけなんだ。分かることだけでいいから無理に思い出そうとしなくても大丈夫だよ」


 足立さんの質問を補助するように、塚内という人がやんわりと追加で説明してくれた。


 ただ、これは回答しにくい。いったい()()から話せばいいのだろうか。

 

 「えっと・・・・」


 なんで()()()が持ってたかって聞かれたら、『渡せと言われたから』としか答えられない。理由は何だったんだっけ。


 ただ、スマホの中身を調べられていたかと聞かれれば、答えははっきりと『はい』とは言えない。

 買ってもらった時から違和感を感じてはいたしほとんど確信めいた感覚でスマホを見られてるとは思ってたけど、実際問題証拠がないからだ。


 (・・・そこも全部言ったほうがいいのかな)


 「ごめんよこうすけくん」

 「あ・・・はい」

 「ホテルに着くから答えは部屋についてからにしよう」

 

 頭の中でぐるぐると考えていると、いつの間にか車は既にホテルの前まで来ていたらしい。駐車場に入っていく様子を窓の外に顔を向けて確認した俺は、持っていた紙切れをポケットにしまい込んだ。


 

 ◇◇◇



 

 「受付を済ませてきます」

 


 車から降りて周りを少し確認してから入ったのは田舎者の俺からするとかなり豪華に見えるホテル。

 そして受付からカードキーを手に入れた塚内さんがエレベーターの前で待っていた俺達に声をかけたのは彼が受付の人と話す様子を見てからほんの数分後だった。


 (・・・はやっ・・・ってか鍵じゃなくてカードなんだ・・・)


 ホテルなんか泊まったことがない。田舎に住んでると泊まる必要もない。何処かに旅行に行ったことなんてないし、そもそもあの地域から外に出たことがない俺にはここが異空間すぎて変な緊張感を感じていた。

 そしてエレベーターを降りて足早に目的の部屋まで行く途中、何か話すのかと思ったけど足立さんも塚内さんも何も話さなくて、なぜかただ周りを気にして歩いていた。


 (・・・誰かに会うとまずいとか・・・なのか?()()()は捕まってるはずだからここに居るわけではないだろうし、何かあるのか?)


 「ここが部屋だから、中に入って」


 そう言われて連れてこられたのは、非常階段に近い部屋で、中はわりと広め。18階でエレベーターを降りたから、かなり上の階だった。


 「・・・ここに、泊まるんですか」

 「うん。そうだよ。一緒に付く警察官はもちろん夜は別室だから安心してね」

 

 塚内さんを先頭に部屋に入って見えたのは、そこは一人で過ごすには少し広めの部屋だ。


 「あの・・・」

 「ん?」 

 「なんか・・・まだあるんですか?」

 「どういう意味かな?」

 「けいすけは・・もう本当の家族の所に戻ったって・・・」


 ()()()は警察に捕まってる。俺が()()()に何かされることはないはずだ。


 (もしかして吉木さんの家の前でおっちゃんと話してた足に傷があるあの男の人と関係があるのか)


 「な、なんで・・・こんな・・誰かから隠れるように動いてるのかなって。もしかして、俺が居た場所で近所の人の話に上がってた不審者と何か関係があるんですか?」


 促されるように差し出された椅子に腰を掛けながら妙な恐怖にかられて語尾が早くなる。


 「「・・・・」」

 「なんですか」


 そして俺がした質問に、塚内さんと足立さん二人が顔を見合わせて数秒後、彼等は一斉に俺の方を向いた。


 「君とけいすけくんを助けた時点で事件はもう解決してるから、その人は()()関係ない」

 「じゃあなんで」

 

 塚内さんが否定の意味で首を横に振ったが、足立さんが立て続けに口を開いてこう言った。


 「マスコミから君を遠ざけるためだよ。裁判が始まれば、否が応でも報道されて世間の注目の的になる。被害者として君は彼等のかっこうの餌食になりかねない」

 「・・・・は?」

 「さっき僕が話したことは覚えてるよね。君が拐われた経緯を」

 「はい・・・もちろん」

 「向こうに居た時はテレビや新聞は見てた?」

 

 なんでそんなことを聞くのだろうか。そもそも、俺が餌食になるのなら、けいすけもそうなるんじゃないのか。


 「テレビは普通に見てました。ただ新聞は別に・・・」

 

 聞かれて見ていたテレビ番組を思い出したけど、そういえば誘拐された子どものニュースはけいすけのことだったのかなとまるで他人事のようにふと思った俺は『新聞』という言葉に少し引っかかってしまった。


 「そうか。普通は誘拐事件があってそれが未解決の場合毎年時期が来たらニュースになるんだよ。テレビでも報道されるし、新聞にも掲載される。けいすけ君の事件については、報道されていたし、新聞にも載っていた」

 「・・・・」

 「ただ、君の場合はそれがなかった。そもそも事件が起こった時も、テレビや新聞で報道されなかったんだ」


 塚内さんがふいに立ち上がりなぜか部屋に備え付けのコップに冷蔵庫から取り出した飲み物を注ぎ始めた。

 

 「な、なんで」

 「君が誘拐された事件はマスコミに伏せられていたからだよ。一切公開しないように上から圧がかかっていたからね、署内でも一部の人間しか知らなかった」

 「・・・・」

 「普通はあれだけの事件になれば情報を規制するのは難しいけど、幸いにも上層部の対応が早くてね」


 塚内さんがテーブルの上に置いてくれた飲み物は冷えた炭酸で、シュワシュワと泡が弾ける音がする。


 「なんで・・・規制なんか・・」


 部屋は冷房をつけていないせいか暑くて仕方がない。飲み物も氷がなければすぐにぬるくなるだろう。

 

 

 「それは君が、警察官の息子だったからさ」

 「・・・」

 「マスコミが嗅ぎ付けて、テレビで報道されれば君を拐った犯人達はすぐに気が付いただろう。父親が警察官だと知られたら、すぐに君をどうにかしていたかもしれない」

 

 父親が警察官だったから?


 (たったそれだけの理由?)

 

 「それに事件の現場を見れば犯人の残虐性もある程度分かるから、余計に慎重になる必要があった」

 

 椅子に座り直した足立さんは、テーブルの上の飲み物に少し目をやり、また視線を俺に戻した。

 

「もちろん警察官だから、今までの事件で関わったことのある人物から目を付けられていたことは考えられるけど、手口が今までにないものだったからその線は薄いと判断された。今までに面識の無い人物が恐らく犯人だということで秘密裏に捜査が行われることになったんだ」

 「そう・・・だったんですね」


 なんとなくしっくりこない理由付けのような気がして、心がモヤモヤする。

 公開捜査しておけばすぐに見つけられた可能性のほうが高かったんじゃないかと素人の考え方で思ってしまいそうになる。


 「それに、目撃者も居たからその人の安全面も考慮してのことだった」

 「目撃者?」

 「うん」

 「・・・それならその人に聞いて似顔絵とか・・描いてもらったり・・・・とかしておけば」


 俺の発言を聞いた足立さんは少しため息をついて首を横に振った。


 「事件が起こってからだいぶ経つけど、ずっと意識が戻らない状態なんだよ」

 「・・・・意識が戻らないって」

 

 コクンと頷いて、塚内さんのほうをちらっと見た足立さんにつられた俺は、同じように塚内さんに目をやった。

 

 何かを言いにくそうに口を開いた塚内さん。

 それでも視線は俺の目をしっかりと捉えていた。

 

 「君のお母さんだよ」

 「・・・・」

 「事件の目撃者は君のお母さんで、その日(事件のあった日)からずっと、昏睡状態なんだ」


 

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