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消えた弟  作者: しおやき
第四章 結 消えた弟

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残された謎



  

 「これが、始まりだった」

  

  

 そう言いながら、別室に移動してバラバラにイスに座った当事者である竹川という警察官と学校帰りで制服を着たその息子の代わりに、久下さんは14年前に何が起こったのか口を開いた。

 

 

 「・・・隠すつもりはなかったんだが、いざ君に話すってなったときに、どこから話を始めればいいのか、いまいち考えが定まらなくてね」



 当時の調書は手元にないから思い出しながらゆっくりと話をしていたけど、その話しぶりはまるで昨日の出来事かのようにつまずくことはなくて、彼の時折目をつぶる仕草に俺は呆然としたまま聞いていた。


 彼が話し始めてから正直どんなリアクションをしたらいいかまるで分からない。戸惑いが戸惑いを呼んで、ここに来て流していた涙なんてあっけなく止まってしまった。


 「・・・・・」

 「こうすけくん、ごめんよ」

 

  なにが?

 

 「君にずっと黙っていたことは、心から謝罪しなければいけないと思ってる」

 「・・・・・」

  

 謝られて、はい、大丈夫ですよなんて簡単に言えないのは誰でも分かる話で、久下さんが話し終わった後ここに居る皆は黙っていた。



 「・・・・ちっ」



  だた一人を除いては。


  

  (えっ)


 

 すぐ隣から、舌打ちのような音が聞こえてイライラした感じを漂わせたのは俺のことを弟と言った制服姿の彼だ。

 

 「秋斗」

 

 彼の父親がそれに反応して名前だけ呼んだけど無意味だったらしい。すぐに口を開いて久下さんに割り込んできた。


 「どこから話をすればなんて、んなもんどこから言ったって同じだろ!!」

 「・・・・」

 「どうせ何から話し始めたって・・・だいたい、今の話だってただの一部だし、父さんと俺が今までどんだけ苦しんで我慢してきたかなんて・・・母さんのことも・・・」

 「秋斗、やめなさ」

 「2歳だぞ・・・2歳で誘拐されたんだぞ」

 「・・・・・」

 「何もわかるわけねえじゃん・・・俺達のことだって」


 イスに座って拳を握りしめた彼は、震える声で静かに言い放った。



 「・・・・実際問題覚えてねえじゃん」

 「・・・・・」


 彼が言った言葉に罪悪感を抱いたのは無意識で、只々何をしたらいいか分からない雰囲気になった俺の口から出たのは謝罪の言葉。



 「・・・す、すいません・・・俺」

 


 別に何も悪いことなんてしてない。

 でも、そんな悔しそうな顔をした彼の様子をみて加害者のような気持ちが一気に込みあげてきたのは、彼等が俺の本当の家族だと思える根拠がないからだ。

 


 「あの・・・ごめん・・・・なさい」


 それに、けいすけを誘拐したあの人と何十年も一緒に暮らしてきたから、今すぐに自分自身が被害者ヅラできる気持ちなんてそんな都合のいい気持ちの切り替えなんてできるわけがない。



 「・・・・」

 「混乱してて・・・ごめんなさ」

 「こうすけ」



 コンコン



 だけど最後まで言い終わらないうちに今度は名前を呼ばれてしまった。

 どうやら竹川という警察官が発したらしく、俺にとっては、父親以外から初めて大人の男の人に呼び捨てにされた瞬間だった。

 でもそれと同時に、ドアの向こうからノック音が聞こえてきて、皆が一斉に黙りドアの方に目を向ける。



 「「「・・・・」」」



 そして俺達の返事も聞かずすぐにそのドアはガチャッと開かれ、現れたのは背の高い威圧感のある男性だった。


  

 (え?)


 「「お疲れ様です」」

 「ご苦労。話の途中にすまない」


 ビクッとしたのは、俺と隣に居る制服姿の男の子以外突然皆立ち上がり入ってきた人物に敬礼をしていたから。

 

 明らかに久下さんよりも若く見えるその顔付きは誰かを探しているようで、座ったままでいた俺を視界に捉えた時、眼光が一瞬鋭くなった気がして嫌な意味で俺の心臓が飛び跳ねた。



 「こうすけくん・・・でいいよね」

 「・・・は、はい」


 (・・・何だよ、次から次に・・・)


 「身体のほうは大丈夫かな?」

 「・・・・はい」

 「そうか」


 軽く微笑んで俺に相槌を打ったその人。

 次に目を向けたのは久下さんと竹川さんだった。


 「話の途中で悪いが、すぐにこうすけくんをホテルへ向かわしてくれ」

 「はっ・・・・何かあったんですか」

 

 先に反応したのは竹川さんで、俺が座る椅子の横に並ぶように立っている。


 「あぁ。事情は後でだ」

 「わかりました」

 「・・・秋斗くん」

 「・・・・・なんですか」


 

 明らかに久下さんと竹川さんの上司であるこの男性は、竹川さんの返事を聞いてから一呼吸置き、まるで昔からの知り合いのように制服姿の男の子の名前を呼んだ。ぶっきらぼうに答える彼はムスッとした様子で握り拳を作り唇を噛んでいる。



 「後で少し話をしよう。お父さんも交えて」

 「・・・・・」

 「警部・・・話っていうのは」

 


 無言で答えない息子の代わりに父親である竹川さんが口を開く。



 「さっきの事情も含めての話だ。だから足立がこうすけくんを送って行ってくれ」

 「分かりました。最初からそのつもりです。こうすけくん、中途半端になって申し訳ない。ホテルに行こう。来た車とは違う車で行くから」

 「・・・・は、はい」


 (まただ・・・・)



 足立?久下は偽名なのか?


 自分が分からないとこでどんどん先に話が進んでいく。事件の当事者でもありながら、何も知らされていないから一人蚊帳の外でいたたまれない。

 そして疑問に思いながらも彼に呼ばれて立ち上がろうとした俺は、手が押さえつけられる感触を覚え隣を見た。

 


 「・・・・」 

 「こうすけ」

 「・・・・え」

 「これ、俺の番号だから、何かあったらかけてこい。絶対だぞ」

 「・・・・」



 秋斗と呼ばれている男の子に咄嗟に腕を掴まれ、渡されたのは1枚の紙切れ。


 「・・・・はい」

 


 彼の威圧感と、突然の出来事に肯定の返事しかできなかった俺は中身を見ずにそのまま受け取った。


 

 


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