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消えた弟  作者: しおやき
第四章 結 消えた弟

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14年前




  雪の降る夜だった。










 「はぁ〜・・・寒いね〜」

 「そうだね〜、早く家に帰ろう」



 仕事を終えて深夜0時を回ろうとしていた時間帯。本当であればもうちょっと早く帰るつもりだったのだが、ある事件で現行犯逮捕した容疑者を署に連行中、その容疑者が急に暴れ出してパトカーの中で隣に座っていた警察官1名の首を絞めた。

 そのせいで警察官が負傷しその後処理に追われ、たまたま帰りが遅くなってしまった。



 (・・・流石に皆もう寝てるか)



 駅から家までの道を歩いて帰っていると、隣を通り過ぎる若い女の子達の楽しそうな声が微かに耳に入って、遠ざかっていく。


 雪道ではないから歩きにくくはないが、大きな結晶のボタン雪が降ってきて傘を持たない自分の頭に落ちてくる。



  「雪・・・・」



 そして髪の熱で溶けた雪が毛の流れにそって伝う雫となってから数分後、信号につかまって立ち止まった。



  「今年はどうするかな」


 長男が生まれてから、2年後に次男が生まれた。まだ2歳の次男は手がかかるが長男の後について遊ぶのが好きらしく妻の手を煩わせることなく家で過ごしているという。


 

 仕事柄家族と過ごせる時間があまりなく寂しい思いばかりさせていると思い、せめて特別な日くらいはプレゼントだけでもちゃんと贈りたいと、ボケッと突っ立ったまま冷える頭を気にせずに彼等が喜びそうなおもちゃを考えていた。


 

  「はぁ・・・・」



 中々休みなんて取れないこの仕事。

 仕方がないにしても、ここまで彼等を犠牲にして働く意味があるのかと思うこともたまに出てくる。

 おもちゃからそんなとこに思考が飛んでしまう自分は相当ストレスが溜まっているのかと少しだけ眉をひそめて考えていると、ようやく信号が赤から青に変わろうとしていた。


 

  「・・・・」


 

 時計に目をやり時間を確認。

 そして、その僅か数秒で信号が青に変わったため足を一歩前に踏み出そうとした時、1台の車がものすごいスピードで前を走り過ぎた。



 (はっ・・・・)



 「なんだあれ・・・・?」


 

 パトカーがいたらすぐに音を出して追跡するだろう。微かな違和感を感じてしまったにも関わらず、家に早く急ごうとしてその過ぎ去った車の後ろを目で追うよにチラッと見てからそのまま横断歩道を渡りきった。








  ◇◇◇



 家の前に着いて頭と体にかぶった雪を拭った。

 手袋なんてしてないからもちろん手は濡れてしまったけど、その手を振り払って水滴を飛ばしカバンに手を伸ばした。



 「鍵・・・・どこだっけ・・・あぁ、あった」


 手触りで掴んだその鍵を取り出して、鍵穴に差し込みいつものように開けた鍵。


 

  「ただいま」


 ハンカチを持たせてくれてるにも関わらずこういう時は使わない癖を直したほうがいいのだろうか。


  (でも、そんな几帳面でもないしな・・・)



 違うことを考えながらドアノブに手をかけガチャっと音を鳴らしたあと、そのまま中へと入っていく。


 

  「・・・・」


 そしてそこで立ち止まった足。 

 いつもなら普通に靴を脱いでリビングへと向かうべき所、何故か今日はここで足が止まってしまった。


  (なんだ?)



 長年勤めてきたわけじゃないが、警察の勘というのか、何かがおかしいことに気が付くと暗い部屋の中、身構えて静かに靴を脱いで部屋の奥へと足を進めた。


 上の階には妻がいる。

 そしてまだ2歳の次男と一緒に寝てるはず。長男は最近1人で寝るようになったから彼が居るのは別の部屋だ。


 カバンから取り出したスマホを握り締め、先に長男の部屋に様子を見に行こうと思い、音を立てずに階段をゆっくりと上った。



  (・・・・)



 普段なら拳銃を携帯しているが、業務から離れると当たり前に拳銃も保管場所へと戻すため今は丸腰の状態。

 正直こんな勘当たらないでくれたほうがいいに決まっている。


 そして暗い中をつまずくことなく階段を上り切ろうとした時、さっきまでは自分の息だけが聞こえる状態だったにも関わらず、すすり泣くような声が聞こえてそこで思わず音を立てることも気にせずに長男の部屋に向かった。



  「秋斗!!」


 部屋を開けて中に入ろうとした所、ドアが既に開いていたため電気をつけるとベッドに居るはずの長男がいない。



  「・・・・」



 慌てて妻と次男が居る部屋にそのまま走って薄っすら開いていたドアを勢いよく開けた。




  「っ・・・・・」



 妻の名前を叫ぼうとして開けた扉の向こうは、暗がりで現状がよく分からない。


  (電気・・っ)



 慌てて電気をつけると、そこにはすすり泣いてる長男の秋斗と、血まみれで倒れている妻の姿があった。



 「っ・・・・ひっく・・・パ・・・パパ・・・」

 「・・・・」

 「パパ・・・・ママが・・・」

 「・・・・何が」

 


 部屋に入ってきた父親の姿を見た長男のすすり泣いていた声が、だんだんと大きな泣き声に変わっていく。何が起こってるのか判別できない状態というのはこういうことを言うのか。頭が真っ白になったのは、自分の人生で多分あとにも先にもこの時だけだ。



 そして泣きじゃくるそんな長男の姿を見てハッとして、この状況を飲み込もうと必死に動かし始めた頭は、心臓の鼓動が大きくなるにつれて徐々に回らなくなり、それから少しして浅い呼吸にあわせるように震え出した手が、持っていたスマホを床に落とした。


  「っ・・・・」


 かなり大きな音がして、それで我に返った時すぐに長男と妻のもとへ駆け寄った。彼女に声をかけることも忘れて、条件反射なのか震える手で床に落としたスマホを掴みすぐに呼んだのは警察と救急車。


 

 「・・パパっ・・・ぁああ・・・!!!」

 「秋斗・・・何があった・・・由紀・・・っ」 

  

 電話をして、相手と話すと何故か頭だけが冷静になっていく。だから切ったあと動揺してパニックになっていた秋斗を抱き締めて、倒れてピクリとも動かない妻の体に手を当て名前を呼んだとき、何かがおかしいことに気が付いた。



  (・・・・あれ?)


 「・・・・秋斗」

 「パパ・・・・っ・・・こうすけが・・・こうすけが・・・」

 「・・・・どこにいる?」



 妻と一緒に寝ていたはずの次男のこうすけの姿が見当たらない。声も聞こえない。



 「・・・いなく・・・なった・・・うっ・・・ひっく・・・あぁああ・・・!!!」

 「いなくなったって・・・・」




 必死に話そうとする長男の次の言葉を待っていると、そこでスマホが鳴った。取ろうとして妻の体から手を離したけど彼が喋りだした次の言葉で、そのスマホに向かっていた手は途中で止まってしまった。


 

 「こうすけ・・・どこかに・・・っ・・きえちゃった・・・っ」

 


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