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消えた弟  作者: しおやき
第三章 転

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兄ちゃん




 「こうすけくん、」

 「・・・・」


 涙も枯れてしばらく反応せずに呆然としていた俺の視線に合わせて膝を折りしゃがんだのは、見たことのある顔だった。

 さっきから名前を呼んでくれていたのはどうやら久下さんだったらしい。

  

 「どこか痛いところはないか?」

 「・・・・」

 「さっき佐藤と話したんだが、君と鉢合わせた時に、階段から転んで落ちたと聞いた」

 「・・・・」

 「申し訳なかった。君に怪我をさせるつもりはなかったんだが」

 


 優しい声に、服装を見て本当に警察だったんだと分かったのに、安堵なんてもう無くてただ今あるのは絶望感だけ。


 

 「とりあえず、こうすけくんは東京の病院で一回見てもらおう。ここは医療が整ってないから」

「・・・・東・・京?」

「あぁ。多分階段を落ちた時に頭も打ってるはずだ。今表面上痛みがなくても、今後現れるかもしれない。先に調べて大丈夫なことを確認したい。それはここではできないから」

「・・・・・でも、東京なんて・・・俺知らないし」

「言ってなかったけど、事件の捜査で僕達は東京から来てるんだ。佐藤もそうだよ。彼はここで一時的に入院したら、東京に移ることになる」


 (・・・・・)

 

  そう言った久下さんは俺に警察手帳を見せてきた。

 これで3回目だけど、じっくり見たのはこれが初めてだった。わざわざ差し出してくれたけど手を動かすのも億劫で、目だけで文字を追いかけた。


  「・・・・けいすけ・・・」

 

 正直もうそんなこと、どうでもいい。

東京から来てようが、どこから来てようが、父親がけいすけを誘拐してこの土地に連れてきて、母さんを殺したんだ。


 その事実に変わりはない。


 父さんが言ったように、俺はこの後の人生はもう自分が好きなように生きることはできないのだろう。

 警察手帳から目をそらしどこに焦点を当ててるのか分からない虚ろな目で、弟の名前をボソッと呟いた。



 「・・・それに、けいすけくんも東京に居る」

 「・・・・」


 (・・・・え?)

  

 「彼のご家族は東京に居るからね。ここに連れられてきてから、見つかるまでずっと帰りを待ってたんだ」


  

  (・・・・家族)



「そう・・・・ですか」

「こうすけくん、きついと思うが、東京に着いて病院で見てもらったあと、そのまま署の方で少し話を聞きたい」

「・・・・」

「佐藤からも話は聞くが」

「・・・・あの、」

「ん?」

「俺は・・・・」

  

  この後どうなるんですか。

 そう聞こうとして、すぐに頭からその質問を打ち消した。自分のことしか考えないなんて、これじゃあ父親とそっくりじゃないか。俺のことなんてどうでもいい。


 「・・・けいすけ・・・・無事なんですか」

 「・・・・」

 「誰も・・・教えてくれなくて」


 一番の被害者は、けいすけとその家族であって、俺や母さんじゃない。


 「っ・・・けいすけ・・・ちゃんと・・・飯食ってるんですか・・・」

 「こうすけくん・・・」


 あんな小さな体で、知らない人に誘拐されて1人怖い思いをしていたら。そんなことを思っていたのに、実際はその逆で、彼は警察に保護されていた。

 

 「俺・・・兄ちゃんなのに・・・・結局何もできなくて・・・・」

 「・・・・・」

 「けいすけ・・・父さんのこと、怖いって・・・母さんのことも・・・二人っきりは嫌だって言ってたのに」


 けいすけは誘拐された子どもだった。

俺と血が繋がってない、全くの赤の他人で兄弟ではなかった。


 「・・・血が、繋がってないなら・・・そもそも本当の父さんと母さんじゃないですよね・・・俺だって・・・っ」


 本当の兄ちゃんじゃない。


 こんなことを言われても久下さんは困るだけ。

だけど、どうしても何か言いたくなって、返事なんてもらう気もなく独り言のように喋った。情けない。喋りだしたらまだ涙が出てきた。

 

 

「こうすけくん、残酷な事を言うようだけど、けいすけくんのことはまだ詳しく教えられない」

「・・・・」


 おっちゃんにも質問したら似たような回答が返ってきた気がする。

 

「それは・・・」

「君からの聴き取りがまだ終わってない。今回のことについては、我々も順を追って話さなければと思ってるんだ」

「・・・・・」

「君だけが知らなかったからね。騙したような形になってすまない」


 俺の隣に座った久下さんは俺の丸まった背中をさすりながら、ため息をついた。



「とりあえず、ここを一旦抜けよう。僕は東京に向かうまで君とずっと一緒に居るから」

 



 移動する時、人だかりがすごくて、まるで犯罪を犯したのが自分のように感じてしまったけど、みんなの目的はパトカーに乗せられたお父さんの方だったらしい。



  (・・・・父さん)



「こうすけくん、行こう」

「・・・・はい」


  

 救急車でおっちゃんが先に運ばれ、俺はその後で、言われていた救急車ではなく別の車両に乗り換えて病院へ向かった。野次馬が追いかけてくるから、病院に一時的に移動して、渡された服に着替えて、それからすぐにまた別の車へ乗り換えた。

 乗ったのはパトカーではなく普通の車っぽかったけど、それは覆面パトカーらしきもの。



  時間はまだお昼手前。



 (・・・なんで) 



 「飛行機は取ってあるから、東京にはすぐに着くよ。乗る便までは少し時間があるから、体が辛いようだったらすぐに言ってね」




 

 


 


 

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