16歳、高校1年生の夏。
パトカーが止まっていたことは、玄関から出てすぐに分かった。もちろん救急車もだ。
だけど、こんな田舎なのに、今まで見たことのないたくさんの人が規制を敷かれたテープの外に居た。
「・・・・な、なんですかこれ」
「事件が起こると毎回こうなる。こうすけくんも、ここに居ちゃまずいからとりあえず僕から離れないで、救急車に乗ろう。乗ったらそのままここを抜けるから」
(・・・・事件)
そうだ。
これは家族内のいざこざじゃなくて、事件だ。
しかも・・・。
「もしもし・・・あ、はい。今、橘を連れていきます。家の中にいた時は暴れてましたけど・・・車両に乗せてから大人しくなりました。あとは・・・1人死亡確認・・・と、あと警察官が1人負傷しました。かなり重症ですが」
救急車に連れて行かれる時にパトカーの近くで電話で話をしている他の捜査員らしき人の会話が耳に入ってきた。
(・・・・母さん)
なんで俺は普通に歩いてるんだ。母さんが死んたのに、殺されたのに、俺はなんで今ホッとしてたんだ?
家を出る時、わざと見ないようにしてた。
それでも視界に入ってしまった、かけられたシートのはしから僅かにはみ出していた母親の足。その動かない体に、俺の名前を呼んで、『逃げて』と必死で叫んだあのお母さんの表情。
「こうすけくん、こっちだ」
「・・・っ」
救急車の後ろに着いて毛布を背中にかけられた瞬間どうしようもない気持ち悪さが一気に込み上げてくる。
「うっ"・・っ・・・おえ"・・・」
そしてたいして何も入ってない胃からの反応に耐えられず、込み上げてきたものを嘔吐してしまった。
「っ・・・う"・・おえ"」
「大丈夫ですか?!」
「すいませ・・・っ"・・・」
隊員の人に何も言わず、座った途端にいきなりもどしたから彼らもびっくりしていたけど、すぐに対応してくれた。きっとこんな人たくさん今まで見てきたのだろう。
「栗下・・・」
「・・・足立さん!!お疲れ様です!!」
「こうすけくんは私が見るから大丈夫だ。お前は家の中の対応をしてくれ」
「はい!!」
(足立・・・・)
片耳で聞こえてくる会話をよそに、なんとも言えない惨めな気持ちになった俺は嗚咽しながら、泣いてしまった。
何回もテレビで見たことのある光景が目の前に広がっていて、事件が起こった事の当事者だという事実に、一気に心臓がえぐられたような気持ちになった。それと同時に、父親が笑いながら言った言葉が頭をかすめる。
『父親が犯罪者だと知れ渡ったらこの先ずっとそれが付いて回るんだ』
テレビカメラや、記者の人達に、事件のことを聞いて駆けつけた近隣住民の人達。
警察官が周りで囲ってくれているから、彼等からは見えない場所にいるにも関わらず、それでも何かをとおして見られているような感覚に、この時、初めて目の前が真っ暗になった。
(・・・・・)
家族4人。幸せだと、何も障害なく平和だと思っていた俺の人生。
「・・・・っ」
全てが、嘘だったことに気が付いて、家族でたった1人残されたこの家の前、止まらない嗚咽と涙に、自分の中の何かが壊れていく感覚に襲われた。
「こうすけくん・・・こうすけくん、聞こえてるか?」
「・・・っ・・・ひっく・・・あっ・・・ああ""・・・」
16歳、高校1年生の夏。
「こうすけくん」
俺の名前を優しく呼んでくれる捜査員のしわがれた声なんてまるで耳に入ってない。
「・・・ごめんなさ・・・っ」
「謝らなくていい。君は何も悪くない」
慰めの言葉を聞いたこの瞬間、ギリギリ耐えていた俺の心はぷつんと切れて、死んでしまった。




