真実までのカウントダウン3
『お前ら全員ぶっ殺すぞぉ!!!!』
(・・・はっ)
「くそっ・・・やばいな」
「・・な、なに」
あまりの怒号に一瞬場の空気が止まった。
叫び声よりも強烈な父親の声に体がビクついて思わずおっちゃんの服をぎゅっと握りしめる。
「おっちゃん・・・」
「もしもし・・久下さん。佐藤です」
イヤホンを取り外してかけたのは電話で、相手は久下の爺さん。彼も警察だと言っていたけど、俺には普通の人にしか見えなかった。
「はい・・・こうすけくんとは一緒に居ます。今外に居ますか?状況が確認できないんですが、おそらく橘が奥さんを人質にして玄関で立ち往生してるかもしれません・・・いや、中には入ってきてないです」
(・・・・母さんを人質?)
「外に居た捜査員は?・・・切りつけられた?分かりました。周りの捜査員にはむやみに近付かないように言ってください。林隼人みたいになりますよ、一回間合い入られたら内臓全部持っていかれます」
「・・・・・」
いったい何を話してるんだ?
「とりあえず奥さんがいるから銃は無理です。この家の構造が最悪なんで・・・はい。それにもう説得は多分応じてくれませんよ」
「・・・おっちゃん」
怖すぎて手が震えてきた。電話で話しているにも関わらず彼の服を引っ張る俺は気が動転してるなんてもんじゃない。
「・・・・は?竹川・・・ですか?近くに今居るんですか?」
それに気が付いたおっちゃんは俺の背中をさすってくる。
「・・・誰の指示です?上から?・・・・あいつに何ができるっていうんですか・・・・・分かりましたけど・・・リスクが高すぎでは」
何を話してるか途中から頭に入ってこなくて最後に『分かりました』とだけ告げたおっちゃんは電話を切った。
「こうすけくん、大丈夫か?・・・・っていうわけでもないな」
「・・・と、父さんが・・・」
(母さんに何してるって?)
「おいっ」
「・・・・」
「こうすけくん・・・こうすけくん息をして」
「っ・・・はっ」
軽く揺さぶられて、思考が何処かへ飛んでいたことに気が付いた。展開についていけなくてどうしたらいいかわからない。お父さんがなんだって?
「ここは危険だから、上に行こう。別の捜査員がいるからそこから君は逃げろ」
「・・・・・っ・・・おっちゃんは・・・」
「ん?」
「おっちゃんも・・・一緒に・・・」
それだけ言うと、おっちゃんはけいすけのことを聞いたときみたいに、首を横に振った。
「な・・・・なんで」
掠れ声に震えた喉元が、絞り出したように聞こえてしまった俺の声。涙なんていつの間にか止まったと思ってたのに、瞬きをしてるとまた流れてきた。
「おっちゃんも一緒に逃げ」
『こうすけぇ!!!』
(えっ)
「後ろに隠れて!!」
「な、なにっ」
揺さぶられた時に掴まれた腕を引っ張られて俺はおっちゃんの後ろに隠された。名前を呼んだのはどうやら玄関の方に居たお父さんで、リビングに入ってきたらしい。
「・・っ・・・父・・・さん」
「橘!!!」
見えないほどの速さで銃を取り出しすぐに構えたおっちゃんが向けた銃口のその先にいたのはお父さん。
腕をお母さんの首に回し、どこから持ってきたのか、それともそもそも隠し持っていたのかもしれない刃物をお母さんに突き付けて、俺たちに向かって叫んだ。
「その子を離せ・・・私達の子だ。お前なんかにわたすものか」
「橘・・・刃物を下ろせ・・下ろして奥さんを解放しろ・・・・さもなければ打つぞ!!」
「それはお前の方だよ!!私達を騙しやがって!!!いつからだ?!いつから気が付いていた?!」
「刃物を下ろせ!!!」
(な・・・・なんなんだ・・・なんでこんなことにっ)
「こうすけ、こっちに来なさい。お前のお母さんも泣いて反省していたよ。こんなゴミクズみたいな警察の言いなりになって」
「・・・・・っ」
刃物を突き付けられているお母さんは首から血を流している。多分既に刃先が刺さっていて、それを我慢して震えている感じに見えた。
服に血がたれて赤く染まりだしていたから、きっとそうなんだと思う。
「母さん・・・」
「こう・・・・すけ・・・」
怯えきった彼女の顔を見て、口元が微かに動くのが見えた俺は無意識に手を伸ばそうとした。
「こうすけくん下がって・・・君は前に出ちゃだめだ」
「・・・・母さん・・・なんで」
おっちゃんの静止も聞こえず、お母さんと見つめ合っていた最中、またボソッと彼女が何か呟いた。
『逃げて・・・・こうすけ』
そんなことを口の動きから読み取ったけど、涙で視界がかすんでそれが正しかったかどうかは分からない。
張り詰めた緊張感の中怒号が飛び交ってはいるのに、他の人が家の中に入ってくる様子がないのは、多分外から状況が分からないからむやみに近付けないのだろう。さっきおっちゃんが電話していた時とは内と外で立場が逆転してしまったようだ。
「母さん・・・かあさ」
「逃げてこうすけ!!!」
そして、母さんが最後に抵抗のような行動を見せたと同時に、大きな声で叫んだこの瞬間。
ほんの僅かに遅れて「くそっ!!」とおっちゃんが言ったのが聞こえてきたけど、そこからは全ての動きが妙に遅く感じて、まるで現実じゃない、テレビとか映画を見ているような感覚に襲われた。
多分目の前の現状に耐えきれなくなった俺の脳が自分を守ろうとしていたからかもしれない。
「橘!!!やめろ!!!」
おっちゃんが拳銃をしまい、前に立ちふさがっていたイスを蹴り飛ばしてお母さんとお父さんのほうに慌てて向かったのは、お父さんがお母さんに突き付けていた刃物を離して、彼女の体にその刃を思いっきり突き刺したのと同時だった。




