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消えた弟  作者: しおやき
第三章 転

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55/73

真実までのカウントダウン



 

「こうすけくん、無事だったか」

「・・・・は?」

「お父さんは今玄関の方に呼ばれてるから、」

「・・・・」


 焦る様子もなく普通に話そうとするおっちゃん。持っていた拳銃をしまい、俺の方に向かって降りてこようとした。


「く・・・来るな」

「ん?」

「来るなよ・・・」

「こうすけくん?」


 階段の途中。

 降りてこようとするおっちゃんに恐怖を覚え無意識に後ずさりをしてしまった俺は自分が今いる場所が階段だということをすっかり忘れていた。



 「こ、こっちに来るなよ!!!」

 「こうすけくん、危ない!!」

 「・・・・っ・・うわ」


 腹から出した怒鳴り声に近い声にまるで反応せず、そのかわり余計にこっちに来ようとするおっちゃんに殺されると思い冷や汗が全身から吹き出した。

 そしてそれと同時に、感じた違和感。



 (えっ・・・)

 

 階段で後ずさりなんてするもんじゃない。


 誤って踏み外した足は、何処かにつかまる暇もなく行き場を失い、俺はそのまま後ろから階段を転げ落ちてしまった。



 「こうすけくん!!」


 全てがスローモーションに見えたのは多分脳が作り出した現実逃避なる幻想だろう。



 「うわっ・・・・!!!!」


 ガタンと、ドスンと大きな音がして何回か転がって落ちた先は床で、止まることなく下まで落ちていった。無意識に頭を守るように両腕で覆っていたのが幸いだったのか首から下だけを打撲したような感じでしばらくそのまま動く事ができなかった。



 「・・・いっ」

 「大丈夫か!?」


 音を立てないように階段を降りてきたおっちゃん。すぐに俺のもとに駆け寄ってきたけど、それと同時に僅かに開いた目でリビングに居るであろうお母さんを探そうとした。


  (・・・・なんで)


 声を出さないようにしているのか口を押さえたお母さんと目が合い、それから数秒後彼女は俺に背を向け慌てて玄関のほうに向かった。


 

 「・・・かあ・・さん・・・まっ・・・」

 


  体中が痛い。

 普通に椅子の脚にぶつけただけでも痛くて動けないのに、階段から落ちるなんて。


 「こうすけくん、」

 「・・・・っ」

 「動けるか?ちょっと身体を触るよ」

 「やめろ・・・」

 


 呼吸の通り道を塞がれているような感覚に陥る。出した声は喉の奥で留まって、抵抗らしい抵抗なんてまるでできない。


 「お父さんが戻ってくる前に、君はここから逃げなきゃだめだ。僕に掴まって」

 「・・・・なんで、っ・・・うっ」

 「ん?」


 俺に逃げろとは、何を言ってるんだ。

 しかも父親から?


 「あんただろ・・・けいすけを・・・・攫ったのは」 


 お母さんと結託して、けいすけを連れ去ったのは紛れもなくこの目の前の人物だ。父さんを悪者に仕立て上げようとしているのか、それとも。



 「父さんにバレたから・・・母さんから連絡が来たのかよ・・・っ・・・そんなもん持ってきて・・・ゴホッ・・・・っ俺と父さんを殺すつもりかよ」 

  

 殺すならここで殺せばいい。なんでわざわざ支えてきて、しかも逃がそうとしてるのか。俺が子どもだからか。

 無理矢理喋ろうとすると背中が痛くて、それでもできる限り声を出した。



 「・・・・こうすけくん」

 「けいすけをどこにやった・・・・」

 「・・・・・」

 「返せ・・・返せよ」 

 「こうすけくん、とりあえずここから」

 「俺の弟を返せよ!!!!」



 痛みと、混乱と、涙と、耐えに耐えていた心の叫びがここで爆発した俺は、おっちゃんの胸ぐらを掴んで殴ろうとしていた。


 「・・・・」

 「なんだよ、・・・・なんか言えよ・・・」


 言われた言葉に無言だったのはどういう意味なのか。俺の目をまっすぐ見つめて何かを思い出したように深い呼吸をしたおっちゃんは、玄関のほうをすぐに気にして俺の腕を逆に掴み直した。


 「こうすけくん、上に行こう。玄関からは出られない。今応援が向かってきてる。本当はもう少し早く来る予定だったんだが、遅れてしまって申し訳ない」

 「・・・無視・・すんなよ・・・答えろよ」

 「ここじゃだめだ、一旦上に上がって」

 「離せよ!!応援ってなんだよ!!」


 聞いても答えてくれなくて、押し問答だった。このままだと埒が明かない。玄関のほうをよっぽど気にしてるらしいおっちゃんは、お父さんにバレたくないとあからさまな態度で示してくる。


 だから俺はお父さんに助けを求めようと大声で叫ぼうとした。

 

 「お父さ・・・っ"・・・%はな&#〃!!」

 「こうすけくん・・・頼む・・・落ち着いて・・・っ・・」


 口を軽く塞がれて痛みの走る身体を力で固定された。

 怪我をして仕事を引退して庭掃除しかしたところを見たことがなかったのに、どこからこんな力が出てくるのだろう。

 


 「離せ・・・っ」

 「頼む聞いてくれ・・・っ・・・」

 「何をだよ!!お前が誘拐犯だってことをかよ!!!」

 「こうすけくん・・・落ち着いて・・僕達はそうじゃない」

     

 興奮しきってる俺の態度とはうってかわりなだめるように喋るおっちゃん。今までで聞いたことのある声色とは全く違っていて、他の誰かと会話をしているようにも思えた。

 そんな彼は俺を片腕で制圧して、空いているもう片方の手で何かを取り出そうとポケットに手を突っ込んだ。


  (また・・・拳銃っ)

 


 「はなせ・・・・・っ」 

 「こうすけくん、これを」



 (・・・・は?)


 ポケットから取り出して俺の前に広げて見せたのは、拳銃じゃない、手帳のようなもの。


 なにやらそれはどこかで見たことのあるもので、さっき玄関で呼び鈴を鳴らそうとしていたスーツを着た人物が提示していたのと同じものだった。

 

 「・・・・・」

 「警察だよ・・・、誘拐犯じゃない。僕達は警察だ。僕と・・・はぁはぁ・・・・それから久下さんも・・・っ・・あと何人かいるけど。ごめんね、こんなタイミングで。後から全部話すから、とりあえず落ち着いて・・・・動けるようなら早く上に行こう。お父さんが戻ってくる前に」


   

  

  

 

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