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消えた弟  作者: しおやき
第三章 転

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8月9日




「は?」


 (そういうこと?・・・・ってなに?)


「佐藤さんと、母さんが2人で裏で何かしてたんだよ」

「・・・・」


 ため息交じりに言い放ったその口調。


「なに・・・・それ」


 お母さんに目を向けると唇を噛み締めて、何かに耐えるような顔をしている。言い返そうとしているのか、それともただお父さんが怖くて我慢してるのか。


 流していた涙は止まっていてその表情は何を思っているのか読み取れない。


「母さん、どういうこ・・・え、ちょっと、父さんっ」 

「こうすけは部屋に入ってなさい。僕は君のお母さんと話さなきゃいけないことがあるから」

「え、待ってよ。なら俺も」 

「ダメだ」


 動こうとしない母親の腕を掴んで無理矢理リビングへ行こうとするお父さんに慌てた俺は、部屋から出ようとしたけど血の通ってない冷めた声で否定された。

 俺の方なんて見てなくて、視線は只々母親に向けられている。


「・・・・父さん」

「なんだ?文句があるのか?」

「文句とかじゃないよ!母さんが知ってるならけいすけの場所聞いて・・・・警察に」


 けいすけを何処かにやった犯人はお母さんだった。あの知らないおじさんとなにか関係があるかと思ったけど、違ったのか。


 でもどこに?

 そしてなんでおっちゃんとお母さん?


 前にけいすけから聞いた話では、久下さんと会話をしていたと言っていた。おっちゃんとの関わりなんて皆無だと思ってたのに、いつそんな暇があった?


「・・・・今なんて言った?」

「え?」

「今なんて言ったと聞いたんだよ」

「・・・・」


 お母さんは抵抗もせずにお父さんにされるがままで、掴まれた腕も痛いのか痛くないのか分からない。爪が食い込んでいるように見えなくもないが、お母さんはなんで何も喋らないのだろうか。


「・・・・いや、だからけいすけの居場所を」

「その後だよ」

「・・・・・警察に」 

「うん。そうだ。そうだな・・・・。こうすけ、警察がどうやったら動いてくれるか知ってるか」

「・・・・え?」

「前にも確か話したかもしれないな」

「・・・・」


(いきなりなんだ?)

 

「警察は事件が起こらないと動いてくれないんだよ」

「・・・・」

「分かるか?」

「・・・・分かる・・けど」

「随分と前から動いてたのか。毎年確認してたのにな〜・・・そうか・・・母さんが・・・」

「・・・は?」

 

 一瞬ばかみたいな質問だと思ったけど、そんなことを言える雰囲気ではないことは確かだ。


「こうすけはとにかく部屋にいろ」

「え、でも、父さんっ」 


 言葉のトーンとは裏腹に怒りに満ちた形相で俺を部屋の中に押しやった父親。あまりにも普通の様子じゃなくてそのまま後ずさるとバタンと音を立ててドアを閉められた。


 「・・・・・」



  呆気にとられて呆然とした。

  いったい何をするのだろう。


 そう思ったら落ち着かなくなり部屋の中をうろうろしているとすぐに大きな音が聞こえてきた。


 ガタンっ!!と、何か乾いた音がしたかと思えば、今度はドスっと何かが倒れる音。


 「は?」


 ドアを見つめて固まった俺は聞き慣れない種類の音に心臓が跳ね上がり心拍数が上がった。

   

 「・・・・なにしてんだ」



 少し待っても音が鳴り止まないから、お父さんの言葉を無視した俺は部屋を出てリビングに行ったけどそこにあったのは思ってもない光景。


「・・・なにしてんだよ、父さん」

「なんだ。降りてきたのか。何してるって見れば分かるだろ」

「・・・・いや、それはちょっと」

 

 お母さんに暴力を振ってるのかと思った。


 

 「なんでソファ?」

 

 腕を掴まれていたお母さんはテーブル席に腰を下ろしている。そして何故か時間を気にしているように時計をチラっと盗み見していた。

 


「場所を変えるんだよ」

「場所?」

「あぁ。ほら、お前は部屋に戻ってなさい。ここにいられると邪魔だから」

「・・・・父さん、けいすけは」

「大丈夫だ。これから母さんに場所を案内してもらうから。その前に部屋の家具の位置を少し変えたい」

「・・・は?」


 (位置を変える?)


「なんで?」

「・・・・いいから。部屋に戻りなさい」

「・・・・・」



 お母さんも意味が分からないけど、お父さんも壊れてしまったようだ。彼が何を話してるのか全く見えなくて、話の切れ目に繋がりが無いからイライラする。



 「ごめん、俺外に行くわ」


 そんな父親の行動を見て、気味が悪いを通り越していよいよ何かに吹っ切れたのか、俺は後ずさりながら一言そう言って何も持たず、寝て起きたままの服装で外に飛び出そうとした。


 無駄に悲しくなる。

 

 けいすけが居なくなってから過ごした数日間は、結局無駄な時間だった。


 


 いったい本当に何が起こってるのか。


 でも1つだけ、これを肯定すればなんとなく繋がりそうな謎の点達。



  『けいすけがあの新聞の男の子だったら』



「こうすけ!!」


 たらればを考えてもなお、解決しない謎に答えをくれるのはいったい誰なのか。


 ギリギリ引き留められそうになるのを振り払った俺は、走って裸足で玄関のドアを開けた。お父さんがソファを動かしてなかったらすぐに捕まっていたかもしれない。



  (二人ともおかしくなってる・・・・)


 そしてガラッと勢いのままに開けたその玄関のドアの先。



 「っ・・・・・あ」


 微かに視界に入った黒い影に、ビクッとして顔を上げた俺は言葉を失った。

  


「あぁ、おはようございます」

「・・・・」

「朝からすいません。お父さん居ますか?」



 (だ、誰だ)



 そこに居たのは呼び鈴を鳴らそうとして、タイミングよく俺がドアを開けたからギリギリ押さずにすんでホッとしたような表情を見せた男性だった。



「・・・・あの・・」


 そして、慣れた手付きで着ていたスーツの内ポケットから何かを取り出して俺にこう告げてくる。



「警察です。ちょっと、お父さんと話したいんだけど、もう仕事に行ったかな?」


 (・・・け、警察?)



「あっ・・・おはようございます。おられましたか」

「あれ、こんにちは。すいませんがどちら様ですか」

「・・・・父さん」


 警察だと名乗る人物の視線が俺の奥に向いて口を開いた時、ゆっくりと振り返って数秒してからやっと声が出た。

 それから後ろに居た父親に隠されるように腕を引っ張られた勢いで、俺は普段自分が履いている靴を裸足のまま踏んづけてしまうことに。



「あぁ、すいません。警察です」

「・・・警察?・・・・がうちになんのようでしょうか」

「朝から申し訳ないです。ちょっとここ最近不審者が居るって噂になってたのでこちらの方で調べてたんですが、どうやら行方をくらましたらしくて。彼の行方を我々警察が追ってるんです」

「・・・・不審者ですか?」

「はい。皆さん不安がってるので、そのことで何かしらご存知であればと思って、各家庭を回って聞き込みをしてまして」


 (不審者・・・・って、あの男の人か?)


 目の前の男性は悪いけどとても警察に見えない。そもそも私服の警察官はいるのだろうか。


 (・・・刑事?)


 

「あぁ、それなら」


 お父さんは後ろに居る俺をチラっと見てから、またすぐに前にいる人物に視線を戻した。


 「息子がいるので、外で話してもいいですか?怖がらせたくないので」


 (え?)


 不審者はいなかったのではないのだろうか。なんでそんな嘘をわざわざつく?


「いいですよ。もちろん」

「ありがとうございます。こうすけ、家の中に戻りなさい。母さんと一緒にいて」

「・・・分かった」


 外に飛び出そうとしてあえなく失敗した俺は、警察が来てくれたことに少し安堵した。警察手帳なんて見たことがないから本物なのかも分からないけど、この際彼が帰る前に弟のことを告げなければいけない。

 

 どうやって言おうか。

 

 もう一度その人の顔を見ようと、お父さんの後ろから覗いたけど、たまたまタイミングがあったのか彼と目が合った。


 (・・・・?)


 睨まれるように鋭い視線を投げられたことに戸惑っているとお父さんが出ていってドアが閉まったから、強制的にその視線が絡むことはそれ以上なかった。


 

 「いいや・・・外に出よう」

 

 少し怖さを感じて萎縮しかけた。

それでもしゃがみこんで靴を掴み向かった先は自分の部屋だ。

 窓から出て屋根をつたい歩けば多分行ける。

  

 (・・・色々考えてる暇なんてもうない)


 部屋に行く前にリビングを見渡すとスマホ片手に誰かと話してるお母さんがいたけど無視して通り過ぎようとした。

 

「こ、こうすけっ」

「・・・・」 


 呼び止められたその声に反応して思わず彼女にまた目を向けたら、同時に上の階からガタンと物音がした。


 (・・・・?)

  

 

 「こうすけ・・・・・あの・・・あのね」

 「なんだよ?」


 ここ最近続きがいつも中途半端に終わるお母さんの話し方。


 やっぱり無視して階段を駆け上がろうと何段目かに足を置いた時、ふと視界の横から人がくる気配がして左に顔を向けた。



 「・・・・・」


 その人物は身軽といえば、身軽な格好。

 だけどいつも見るような軽装ではなかった。

 

 

 「こうすけくん」

 「・・・・・あっ・・・」



 そして両手には何かを固定するように黒いものが握られている。

  

 お母さんと共犯だったのか。

 お父さんが言ってることが正しかったのか。

 実物を見たことがないそれに、頭のキャパが度を超えてしまった俺はパニック症状を起こしてしまった。


 

 「・・・だ・・・誰だよ・・・」

 

 独身で、がさつだけど優しくて、なんでも話せる冗談も言えるおじさんだと思ってた。



 「・・・あんた・・・」



 いつもと違う雰囲気で階段を登りきったとこに立っていたのは、拳銃を持った佐藤のおっちゃんだった。



  

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