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消えた弟  作者: しおやき
第三章 転

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8月9日 真実とは



「・・・・・」


 (は?)

 

「え、ちょっと待って」

「・・・な、なに」

「・・・・・今回のはって何?どういう意味?」


 そもそもお父さんがけいすけを連れ去ったなんて俺は明確に一言も発してないし、ただ、疑ってるのかと聞かれたから、悪い?と返しただけだ。


 それがなんで急にそんなことを。


 「・・・・え・・いや・・・えっと・・・あのね」


 彼女が言った『今回のは』という言葉は以前に誰かを連れ去ったことがあるということなのだろうか。それとも逆?


 (・・・・・前にもけいすけが誘拐されたとかなのか?)


 しまったというよりかは、只々あたふたしている様子の母親に俺も混乱していた。だから彼女の言ったことが上手く理解できていない。

 少なくとも俺が知ってる限り、けいすけが誘拐されたことなんて今までに一度もないし、それにお父さんが誰かを連れ去ったなんて、そんな話聞いたことがない。



「・・・・ごめん、よくわかんないんだけど」

「あっ・・・・」

「何を言おうとしてるの」

「・・・・だ、だから」


 妙に嫌な予感がして、心臓の鼓動が早くなる。

 少し開けていたドアを握る手には汗がにじみ出て母親が無駄に抱えた緊張感が俺にも移ってしまいそうだった。



 「えっと、ごめん・・・・けいすけって」


 中々先を言わないお母さんに、お父さんの部屋で読んだ新聞のことは告げず、数日前のことなのか、それとも前にも似たような事があったのか、どっちとでも取れるような中途半端な聞き方をしてみた。


 「誘拐されたの?」

 「・・・・・」


 誘拐されてこの家に来たから俺とは血が繋がってない?連れ去られてこの家に来たから、この家の誰とも血の繋がりがない?

 きっとこうやってはっきり聞いたとしても絶対に答えてはくれないだろう。 

 

「・・・・」

「ねえ、黙ってないでなんか言ったら?母さんが言ったんだよな?今回はお父さんじゃないって・・・なに?どういう意味?俺混乱してんだけど」

「・・・・・あの・・・ごめん・・なさい」

「・・・何が?」

「お父さんは何も知らないから・・・・」


 ずっと後ろを気にしていた母親。そんな彼女は突然両手を自身の頬に当て震えだした。それと同時に泣き出して嗚咽混じりにポツリと呟く。



「こ、今回は・・・わ・・・・私が」

「・・・・・」

「けいすけを」  

「・・・・は?」



 それを聞いて自分の中で一瞬時が止まった気がした。

 

 母音で止まったままの口の形も一時停止して、瞬きも忘れて目の前にいる母親の顔を見つめた。


 蒸し暑さも気にできない程に呼吸も止まりかけた俺。


 「・・・・ご、ごめんなさいっ」

 

 

 自分の顔から表情が消えていくのが分かる。


「・・・・・」


 何を言えばいいのか分からずようやく絞り出した言葉は無意識なもので、お母さんが言ったことをただオウム返ししただけだった。



「・・・母さんが・・・・けいすけを?」


 (今回はって・・・2回目ってこと?)



  まただ。

 また、同じことの繰り返し。


  やってしまった。


 会話に夢中になって、父親のことをすっかり忘れていた。お母さんが朝っぱらからこんな話をするから。せめてお父さんが仕事場に行って家から物理的に居なくなってから話してくればいいのに。

 ほんとに何も考えずにただ自分のタイミングだけを考えて行動してるのか、この人は。

   

  「ごめんなさい・・・・もう・・・耐えられなくて」

 

 何処かで聞いたことのあるようなセリフ。

 床のきしむ音さえも聞こえず、人が近づく様子もまた分からなくて、2人で話していた緊張感に包まれたこの空間が簡単に切り裂かれるように、この場にそぐわない明らかに冷めた声が聞こえた時、俺はハッと我に返った。

 


 「なんだ。そういうことだったのか」

 

 視線を彼女から声の主のほうにゆっくり移動させるとそこに居たのは寝室から出てきたばかりの父親。


 冷めた声に、冷めた目つきで、俺と同じように顔から表情をなくして母親を見つめている。


 

 「お前だったのか。お前が売ったのか私達を」

 「あ・・・・」

 「薄々おかしいと感じていたんだ」


  (え?)

 

 「と・・・父さん」

 「ここ2年間で妙に人の出入りが激しいと思ってたが、まさか・・・」

 「・・・・っ」

 


  お前。


 お父さんは確かにお母さんのことをそう言った。そして父親の口からは聞き慣れない言葉がもう1つ。


 (・・・売った?・・・・ってなに?)

 

「今まで上手くいってたのも誰のおかげだと思ってるんだ、お前は」

「・・・・っ・・」

「あんなに望んだ子どもを・・・」

「・・・ち、違」

「俺が命懸けでお前のために取ってきた子どもを・・・・」


  (え?)


「お前のためを思ってしてきたことが、こんな形で返ってくるなんて」

「・・・・父さん・・・なにを言って」

「こうすけ、部屋に入ってなさい」

「え?いや、でも」

「いいから」

「ちょ・・・ちょっと待ってよ!ごめん、なんか二人の会話の意味が理解できないっ・・・けいすけは?母さんがけいすけを何処かに連れて行ったってこと?」

「あぁ、そうらしい」

「じゃあ、どこに?だって父さん、佐藤さんが怪しいって、佐藤さんのとこにけいすけがいると思うって言ってたじゃん!」


 オウム返しのように最初に確認したにも関わらず、俺は自分の発言に矛盾を感じていた。お母さんを守ろうとしてるように聞こえたその言葉には特に意味はなくて、只々二人の話の行く先が見えずにいて焦っていた俺。



 「だから、そういうことだよ」

 




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