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消えた弟  作者: しおやき
第一章 起
5/73

内緒話





ここまで聞いて、ようやくけいすけがなんでこんな行動を取っているのか少し理解した。

でもそれとこれとは話が別だ。


「それにね、パパ・・・・怒ったら怖いから、」

「・・・けいすけ」

「兄ちゃんは?パパの怒った時の顔見たことある?」

「・・・・・あんまりないけど」



怒られてる時はだいたい顔なんて見てない。そもそも最後に怒られたのはかなり昔だからあんまり覚えてない。



「何が怖いの?」

「・・・え〜?お兄ちゃん知らないの?」


(何が?)


「パパが怒ってる時ね、顔が怖いんだよ~」

「は?・・・・それは・・当たり前だろ」


逆に怒ってる時に顔が笑ってるやつがいるのか。


「兄ちゃんはちゃんと怒られたことないから知らないんだって」

「・・・・・」



知らないおじさんにしても、夏休みで暇すぎるから多分適当に話を造り上げて構ってほしいとアピールしているのだろう。いたずらが過ぎると俺でもまじで怒ると思う。


(父さんも可哀想だな・・・・付き合わされて)



「あのな〜、」

「あ、あとこれもパパには絶対に内緒」

「・・・・なんだよ?」



また同じようにちょいちょいと手招きをした弟が耳打ちしてきた次の内容は最初の内緒話よりも理解しがたいものだった。


「パパの部屋入ったことある?」

「・・・・いや、ないよ」


(いきなり何言ってんだ?)



そんなことあるわけがない。そもそも絶対に入るなと念押しされている。しかも何か用事があるわけじゃないから、入ってバレたらガチで怒られるやつだ。



「パパがお仕事で家にいなかった時に、ちょっと部屋に入ってみたんだよ」

「は?・・・なんで?」

「面白そうなことないかなって、ママと2人はつまんなかったから」

「・・・・・」

「そしたらね、引き出しの中に何があったと思う?」


小さな手で口を覆い、ふふっと笑った。

 

「新聞がたくさんあったんだよ」

「・・・・はぁ?」

「こーんなに、山積みになって、引き出しの中に入ってた」

「・・・いや、新聞くらい普通読むだろ。だいたいなんで今そんなことを」

「兄ちゃんさっきのニュース見てたでしょ?」


(ニュース?)


「赤ちゃんがさらわれたって」

「・・・・・」

「パパの引き出しに入ってた新聞も、赤ちゃんがさらわれたってやつだった」

「・・・・は?」

「ゆうかいって書いてあったから間違いないよ」


その時、俺はけいすけがお父さんの部屋に入ったことや、引き出しに入っていた新聞のことについてじゃなくて、もっと別の妙な違和感に頭が反応した。




「え、お前そんな難しい漢字読めたっけ?もう学校で習ってんの?」

「違うよ、読めなかったから気になって学校の先生に聞いてみた」

「それっていつのことだ?」

「休み入る前、6月くらい。雨降ってたよ」

「俺はそん時家にいなかった?」


(いつだ?)


「いなかったよ?だって、僕風邪引いて学校休んでたもん」

「・・・・・お前な、」

「内緒だよ。絶対言っちゃだめだからね」


じっとしてられないのか、ちょっとでも元気になると調子に乗って動き回るタイプだ。そしてその後にまた体調を悪くするやつ。


「あれか、お前3日間ぐらい休んだやつだろ」

「うん、それ」


(まじか)


「最初の日だけだよ、そんなことしたのは。でもパパには怒られなかった。見つからなかったからね」

「二度とそんなことやるな」

「は〜い」

「とりあえず、知らないおじさんのことは父さんには言わない。兄ちゃんが明日小学校の周りを調べてみるからお前は家にいろよ」

「え〜?僕も行きたい!」

「だめだ」

「なんで?僕がいないとそのおじさんがどれだかわからないでしょ?」


(それはそうかもしれないけど・・・・)


「だめだったらだめ。今日みたいにまたお前が居なくなったら、俺の心臓がもたない」

「ぶ〜」

「ぶ〜じゃない。父さんには言わないでおくから我慢しろ」



(絶対に嘘だな。どうせけいすけが見たのって、そこら辺に住んでるじいさんだろ。ずっと家の中に居てたまたま外に徘徊しただけの人っぽいけどな)



けいすけは6歳だ。この町に住んでる人がどんな人なのかまだ把握しきれてないと思う。老人が多くて、子どもが少ないこの田舎は人口ピラミッドが逆だ。



横のつながりが強くて、仲間意識があるというわけでもないが少なくとも見知らぬ人がいればある程度噂で話がうちにも回ってくる。


(あのお父さんが知らないってことはないと思うけど・・・それに、多分新聞だって、心配だから気になってるだけだろう)



「けいすけ、兄ちゃんと約束だ。これから俺が言うことは絶対だ。いいか?」

「なあに?」

「兄ちゃんは、お前がさっき言ったことは父さんには言わない。」

「うん」

「だから、けいすけもその知らないおじさんに話しかけられても話しちゃだめだし、ついて行くのなんて尚更だめだからな」

「・・・・分かった」



少し間をおいてから、俺の目を見てゆっくりと頷いた弟に、俺は小指を出して、けいすけにも同じようにするよう促した。



「男同士の約束だ。破ったら二度と兄ちゃんと会えなくなるぞ」

「うん。約束する」



指切りげんまんをして、その後俺は夏休みの宿題を、弟は予定どおりしばらくしたら眠くなったのか俺の布団に潜り込んでそのまま寝息を立てて眠ってしまった。





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