表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えた弟  作者: しおやき
第三章 転

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/73

8月7日 午後 内側




「今日は晴天ね」

「・・・・・」


仕事に出掛けて行った父親は、昨日と同じで午後からは弟を探すと言い目の下にクマを作っていた。


「何しようかしら」


母親はお昼ごはんの準備をしている。


(あれでパニック・・・?)


「こうすけは今日お昼ごはん食べる?」

「・・・あ〜、食べる・・・かな」

「分かったわ。あ、そうだ。お父さんに買い出し頼まなきゃ」

「・・・ねぇ」

「なあに?」


 お父さんにはけいすけのことは聞くなと言われているけど、質問の仕方を変えれば問題ないんじゃないかと悪い考えがわいて出てくるのは母親に対して不愉快な気持ちがあるからだろう。


 多分あの状態だとどんな聞き方をしても適当にはぐらかされるか、本当に分からなくて答えられないかの2択になりそうだ。


(そしてどっちなのかそれを俺は見分けられない・・・)


「お父さんって新聞読んでるよね?」

「えぇ」

「あれって読んだあと普通に捨ててんの?」

「ん〜、内容によるかな〜」

「・・・内容?」

「うん。まぁ、お父さんが必要なものだけ残してる感じかしら、それ以外は全部、捨ててる」

「え、そうなの?」

「・・・・どうかした?あら、もしかしてこうすけも新聞読みたくなった?」

「・・・あぁ、いや、ちょっと気になった・・・だけ」


 昨日の俺の嫌な対応を特に気にしてなさそうだけど、内心どう思われてるのか。突然前のめりで質問してくるからびっくりする。


「そう?」

「・・・・」


 (不自然に思われないだろうか)


 無難な理由を並べてみても、突拍子のない言い訳をぶつけてもどちらにせよ深く考えないでくれるとありがたい。


「・・・うん。ま〜・・・・社会勉強に・・・読んだほうがいいのかなって。それに家の中に居ろって言われたから、暇でさ」

「・・まぁ、そうね」


 (とりあえずあの部屋に入りたいんだけど・・・どうしようか)


「父さんが読んでる新聞?ってどこに溜めてあるの?」

 「それなら外の物置にしまってあるわよ。ご飯食べたら一緒に行きましょうか?」

「・・・え、いいの?」

「もちろんよ」

「・・・母さんは・・・・それがどんな内容か知ってる?」

「あんまり。私は読まないから」

「・・・・そっか」


 

 (物置?・・・ってことは母さんは引き出しの新聞の存在を知らないのか?)



 用意してくれたお昼ごはんを食べて、片付けをしたあと2人で物置のある家の裏に回った。


 こんなに天気がいいなら普通に外に出てけいすけを探したい。確かに歩いて探すには不便さがあるけど。


 (・・・おっちゃん何してるんだろ)


 空を見上げてもため息しか出ない。

そもそも、お父さんだけで見つかるのだろうか。今は夏休みだから不審に思われないけど、学校が始まってけいすけがまだ見つからなかったらどんな言い訳をするんだ。

 

(というか、その頃には多分・・・)


 考えたくもない一文字が頭を過る。


「あれ・・・どうしたのかしら」

「なに?」

「鍵がかかってるのよ。変ね〜・・・ここいつも鍵かけないのに」


 (鍵?)


物置の前に来て、ガタガタと音を立てながら力を入れて開けようとしているお母さんの声で、ふと我に返った俺は視線を空から彼女の背中に移した。


「外なのにかかってないの?」

「ん〜だって、取られて困るようなもの入ってるわけじゃないから・・・お父さんも鍵はしなくていいって」

「へ〜・・・そうなんだ」

「もしかして、雨でちょっと開きにくくなってるとかかな」


 そう言ったお母さんは何を思ったか、いきなりドアを蹴り始めた。


 (えっ)


 そんな彼女の行動でガンッガンッと腹の底に響くような重音と、その裏で微かに聞こえる耳障りな金属が擦れあうような音に眉をひそめた俺はたまらず少し後退りしてしまった。今まで急にこんなことをする人ではなかった気がする。


「ごめんね、開かないからやっぱり鍵かかってるかもしれないわ。ちょっと取りに行ってくるから少し待っててね」

「・・・・分かった」


 一瞬にしてなんとも奇妙で煮え切らない感覚が生まれた。晴れた空には不釣合過ぎて、冴えない空気の中をまた数分だけ時間を潰して母親の戻りを待つことになったけど、頭を抱えながらため息をつく。

 パニックというよりかは、性格が変わってしまったように思える彼女の行動はけいすけが見つかればまた落ち着くのだろうか。


 (・・・・精神的な病気?)



「あ〜ほんとにやになっちゃうわ」

「鍵あった?」

「うん。これよ」


 少し経って戻ってきた彼女はそう言って手からぶら下げて軽く振りかざした。あんまり使った形跡のないその鍵は綺麗だ。


「どこにあったの?」

「お父さんの部屋よ」

「・・・・え?」


(・・・は?)


「ちょっと待って・・・・・あ、開いた。やっぱり鍵かかってたのね。お父さんかしら・・・・鍵かけたの。ほら、よいしょっと・・・ここよ」

「・・・・・」

「それにしても、いつまで残しとくのかしら・・・・こうすけ?」

「え?あ、うん・・・あ、ありがと」


 (父さんの部屋?)


 今確かに母さんの口から父さんの部屋と聞こえた。2人の寝室ではないことは確かだ。部屋に入る鍵を母さんも持ってるのか?


 聞く暇もなく中を覗けと促されて、少し大きめの物置に入った。手前は陽の光が入ってるから見えるけど、当たり前に奥の方は暗くて視界が悪い。


 (・・・なんか臭い・・・)


 奥の方から嗅いだことのない、まるで鼻にへばりついて残り続けるような不愉快な臭いが漂ってくる。


 耐えられなくもないが、用事があるのは新聞だけだ。取れるだけとって早々に物置を後にした。



「ごめんよ、母さん。ありがとう」

「いいのよ別に。でも明日からは古いのじゃなくて新しい新聞読まなきゃね」

「・・そ、そうだね。あぁ、あとそれとさ、」

「なにかしら?」

「父さんにこのこと言わないでね」

「・・・・それは大丈夫だけど」

「あと、読み終わったらすぐにこの新聞戻すから、また物置の鍵開けたいんだけど」

「そう?分かったわ。なら私も一緒に行くから、その時呼んでちょうだい」

「うん・・・」



 2人で家の中に戻り、俺はそのまま自分の部屋に直行。ドアを閉めてから、取った新聞を床に並べた。

 さっき手に掴んだ時は物置の奥のから漂う臭いのせいで気が付かなかったけど、この新聞もわりと臭う。少し湿気を含んでいて、とても綺麗とは言えない。


 「・・・・制服が雨で濡れたあとの匂いみたいだな」


 新聞を読もうと日付を確認すると、かなり昔のものまである。全部取り切れなかったのが悔やまれるけど、また明日見ればいいやととりあえず今は目の前にある紙切れを調べることを優先した。


 (いったい何の新聞を残してるんだ?)


 時間も忘れてしばらくパラパラめくっていると変な意味で手が止まらない。

 だから、終盤に差し掛かる段階まで膨れ上がった違和感に最後の1枚まで確認したところでようやくそれが自分の勘違いではないことに気がついた。


「・・・・なんだよこれ」


 全て繋がりが何もない。よく分からない株の話や、経済、学校教育について、社会情勢に温暖化。そして何故かテレビ番組表が載ったページも捨てずに取ってある。


 違和感というのはまさにそこだった。


 「・・・・1つもないじゃん」


 あると思っていた誘拐に関する事件や行方不明者についての記事が何も残されていない。


 「自分の部屋の引き出しに全部詰め込んでんのか」


 それなら捨ててしまえばいいのに、なんでこんな記事を残しているのか。逆に不自然な気がする。


  「・・・・おかしい」


 ふと上げた視線が捉えたのは幸か不幸か、部屋にある時計。


  (やばっ)


 すでに夕方を指しているその時間は、父親が帰ってくるかもしれないということを暗示していて、慌てた俺は新聞全部を抱えて部屋から出てお母さんに少し大きめの声で言った。



 「母さん、ごめん。物置!!」

 「え?あ、うん、ちょ、ちょっと待って」


 急かすように外に出ると、空はまだ明るい。

開けてくれたドアの中に新聞を同じように戻してから、また奥に視線を投げてすぐに閉めた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=987857443&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ