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消えた弟  作者: しおやき
第二章 承

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弟の行方3




「・・・・え・・・そ、それじゃあ」


けいすけはまだ外?この雨の中?



「こうすけはもう夜ご飯食べたか?」

「うん・・・食べた・・・風呂も入ったよ」

「そうか・・・ちょっとこのあと聞きたい事があるから、寝る時になったら教えてくれ」

「・・・うん。分かった・・・」



なんでこんなに落ち着いていられる?

いないと言った時もそうだったけど、焦っている様子がまるでない。今までのことを考えるともっと取り乱すか、怒るかと思っていた。



「・・・けど、父さん、けいすけは」

「・・・・」


(えっ・・・)


上着も脱いで涼しい格好になったお父さんは毛先が濡れている髪を少し気にしながら靴を片方脱いでため息をつき目元を手で覆った。



「聞きたいっていうのは・・・・お昼のことだ」

「・・・・・」

「母さんは?リビング?」

「・・・・そうだけど」

「ならいい」



けいすけのことではないのか。覆った手に隠れた顔がどんな表情なのか分からないが、発せられる声はいつもと変わらない。



「・・やっぱりここで話そう」

「・・・・・」

「そのほうがこうすけもいいか。ちょっと自分の中で整理したくてお前が寝る前にって言ったけど」

「・・・整理って何を?」



お父さんはもう片方の靴も脱いでまた深いため息をつき、少し項垂れるように上がり框に座り込んでから、立ちっぱなしの俺に隣に座るように促してきた。


「・・・・父さん」

「昼・・・・佐藤さんとどんな話をした?」

「・・・え」


おっちゃん?


「僕がむかえに行く前・・どんなこと聞かれたりしたんだ?」

「どうして?」

「ちょっと気になることを言われてね」

「・・・2人で話してた時?」

「うん。こうすけは聞こえてた?」

「いや、全然聞こえてなかった。何を話してたのか気にはなってたけど」


本当に何も聞き取れなかった。だから首を横に振って、教えてほしいという意味合いを込めて言葉を付け足した。


「そうか・・・」

「うん、あぁ、それと、ごめん。おっちゃんと何を話したかなら、そんなたいした話はしてないよ。俺、なんか一気に気分悪くなって。飲み物貰って、吉木さんの家の木陰で休むように言われたから」

「・・・その時会話になにか違和感とかなかったか?」

「違和感?」

「うん・・・変なこと聞かれたとか」

「・・・・」


おっちゃんとの会話を思い出そうとして、顎に手を当てた。唸りながら一言一句記憶を呼び起こすが、所々抜けていて思い出せない。


「えーっと・・・なんで吉木さんの家に来たのかってのは聞かれた・・・かな・・・あとは、」


あの知らない男の人のことも聞かれたけど、言わないほうが良いかもしれない。とりあえず忘れたフリをしておけば特に問題ない気がすると思いその話は避けておいた。


「忘れちゃった」

「そうか・・・・吉木さんの家に行った理由は答えたのか?」

「まさか。言ってないよ。けいすけが居なくなったから探し回ってたなんて・・・あのときは父さんにも言ってなかったし・・・」

「・・・・」


言おうとして言えなかった。 


これが本来の回答だけど話がややこしくなる。結果的に言ってないのだから同じことだろう。


「ん〜・・・」

「・・・?」


俺の話を聞いて腕を組んで今度は背筋を伸ばし目を閉じたお父さん。そんな様子を見ながら俺はおっちゃんとの会話であることを思い出してお父さんに告げた。


「あ、そういえばさ」

「ん?」

「けいすけのこと・・・おっちゃんは父さんに聞いてたよね?」

「あぁ、そうだね」

「・・・あれすげー変だったんだよね」

「どうしてだ?」


ずっと引っかかっていた疑問。


「だって、俺、何回かおっちゃんと出くわして話たくさんしたけど、今まで一回もけいすけのことについて聞かれたことなかったんだもん」

「・・・・・」

「なんで俺には聞かずに、父さんに聞いたんだろって。おかしくない?俺、兄貴なのに。黒木さんとか・・・ほら、あの由美子でさえ、俺が一人でいるときはいつもけいすけのこと聞いてくるのに」


だから、一回口にすると次から次に流れ出てくる。初めて自分以外の人に打ち明けたから止まらない。


お父さんの方も気にせずに独り言のように喋り続け、最後に俺は隣の父親に顔を向けた。



(・・・・え)


「・・・そうか・・・そういうことか・・・」

「何が?」

「佐藤さんは・・・そういう男には見えないんだがな・・・」



何度目のため息か。

また項垂れてボソッと言った言葉は微かにおれの耳に届いていた。


(・・・そういう男?)



「佐藤さんが吉木さんの家にいた理由は何か聞いた?」

「え?あ〜・・・なんて言ってたっけ・・・確か、朽木さんに呼ばれたって」

「そう言ってたのか」

「うん」

「・・・こうすけは、彼がここに引っ越して来た時のことを覚えてる?」

「?・・・いや、あんまり」

「まぁ、そうだよね。僕は・・・覚えてるんだ。別に変な人でもなかったし、理由もちゃんとしてたから疑う必要も警戒する必要もないのかなって思ってたけど」

「・・・どういう意味?」

「ん〜・・・こうすけから見た佐藤さんはどんな人?」

「・・・・え?」


なぜそんなことを聞いてくるのだろうか。けいすけのこととまるで関連性がないから答え方に戸惑いながらも自分の額をさすってありのまま感じたことを口にした。


「・・えっと、優しいおじさんというか・・・特に嫌なことはないよ」

「僕もそれには同意かな。だから佐藤さんのことについてはとやかく言わなかったんだよね」


お父さんは遠くを見つめるような視線をドアに投げてから、一呼吸置いて急に俺の名前を深刻そうに呼んだ。


「・・・こうすけ、」

「なに?」



一瞬無音になった玄関。

外からは雨が戸を叩く音が聞こえる。



「けいすけは・・・多分誰かに連れ去られたんだと思う」



部屋の奥のリビングからはこの場にそぐわないテレビの音が微かに流れてくる。


さして妙な組み合わせではない音が、無言の空間では恐怖を煽ることを実際に体感すると体が硬直して動かなくなるのは、脳がそういう司令を出しているからだろうか。



「・・・・え」

「これは父さんの勝手な推測だけど、色んなところ探しても全然見当たらないし、けいすけの足で行けるところなんて決まってるだろうから・・・・何かの拍子で外に出た時・・・それか、誰かが訪ねてきたのかな・・その時に」



ニュースでしかあり得ないと思っていた強烈なワードが父親の口から発せられるなんて思いもしなかった俺は、言葉を続けるお父さんから目が離せず頭の中は真っ白になっていた。



「動機は分からない・・・もしかしたらずっとけいすけのことを見ていたのかもしれない」

「・・・誰が」


(誰が・・・そんなことを)



俺の質問に、躊躇いがちに口を開いたお父さん。


聞こえた名前のせいで、彼の口の動きが妙にゆっくりに見えてしまった俺は、お母さんがリビングで待ちぼうけをくらってることをすっかり忘れていた。





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