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消えた弟  作者: しおやき
第一章 起
4/73

遅めのお昼ごはん




「けいすけ、兄ちゃんと風呂行こう」

「え〜、お腹すいた!!」

「シャワー浴びるだけだから」

「けいすけ、お兄ちゃんと一緒に行きなさい。ご飯は戻ってきたらたくさん食べられるよ」 

「・・・・ん〜」

「行こう、いいから早くしろ」



俺はけいすけに食い気味に呼びかけて、しぶしぶ近づいてきた弟の手を取って、すぐにお風呂場へと向かった。



(とりあえず先に風呂に・・・)



弟の服を脱がしてから、俺も脱いでそのまま風呂に入って

シャワーを浴びてかいた汗を落とすため軽く身体を洗う。


「兄ちゃん、目に入るよ〜」

「あぁ、ごめん」



俺とけいすけに対する父親の過保護ぶりにたまに引く時がある俺は、数少ない高校の友達の家族の愚痴を聞かされたことを思い出して、けいすけの髪をシャンプーでゴシゴシ洗いながら『ほったらかしにされるよりはかなりマシだよな』と心の中で思った。



「兄ちゃんは、ご飯のあとアイス食べる?」

「ん〜、どうかな。お腹いっぱいなら無理かな」

「じゃあ兄ちゃんの分も食べていい?」

「それはだめ〜」

「え〜?」

「ほら、目瞑れ。頭から一気に流すから」

「はーい」




自分も髪と身体を洗ってお風呂から上がりタオルで拭くと、次に服を着た弟の髪をドライヤーで乾かした。



「はい、終わり。先にリビングに戻っていいよ。兄ちゃんこれから髪乾かすから」

「分かった。ありがとう」

「うん」



弟を先に行かせた俺は、学校の宿題のことを考えながらドライヤーのうるさい音を聞いていた。今は夏休みでちょうど半分を過ぎたところた。


(もう折り返し地点かよ・・・・短すぎ)



休んでいると本当にあっという間にすぎる。

特に大きな祭りがあるわけでもないし、部活の大会があるわけでもない。


ただ暑い太陽の下で、綺麗な空気に静かな町並みと緑を眺めてため息をつけば一日なんてあっという間だ。



「それにしても冷風でも髪って乾かんのかな。風呂入ったのに髪乾かすと汗かくの嫌なんだけど・・・」


ドライヤーを切って、首にタオルをかけたままリビングへ戻ると、我慢しきれなかったのかけいすけがすでに食べ始めているのが目に入ってしまった。



「・・・・あ!」

「こうすけ、ごめんよ。けいすけは先に食べ始めてたよ」

「いいよ別に」

「にいちゃん、はひ%#?%々|\・−」

「いいから食えよ。口の中に物入れて喋るのやめろ」


お母さんも席について、先に食べていたけいすけ以外の3人で手を合わせる。


「「「いただきます」」」


夏だから、あんまりこってりしたものはなくてかなりさっぱりしたものがテーブルの上には並んでいた。


(うまそっ)



「こうすけ、学校の宿題は終わったの?」

「え?」

「夏休みの宿題よ。あなた去年もその前も、夏休みが終わる最後の日になんか慌ててやってたじゃないの」

「・・・・そう・・・だったっけ?」

「そうよ。自由研究とか、お父さんにやってもらってたでしょ。もう自分でちゃんとやりなさいよ」

「・・・・・」

「はは。母さん、いいんだよ。それぐらいしか手伝ってやれることないんだから」

「でも、」



そういえばそうだったかもと、毎年夏休みの最後の日はいつもオールで次の夏休み明けの登校日はあんまり記憶がない。多分半分寝ている。



「大丈夫だよ、今年は。ちゃんと色々考えてるし」

「そうなの?」

「うん。将来のこともあるし、自分で全部ちゃんとやるよ」

「・・・・ならいいけど」



なーんて格好良くは言ってみたものの、正直全く何も手を付けていない。宿題が何だったのかすら覚えてもない。これから確認すればいいかと、適当に返事をしてご飯にがっついた。


(自由研究どうしようかな〜・・・・なんか面白いことないかな)



ご飯を食べながらテーマを考えていると、さっき見たテレビのニュースが何故か頭をチラつく。


(人と被らない・・・けど自分が調べて面白そうなもの・・・・)


隣のけいすけを見ると中途半端にご飯を残して、箸を置いている。冷たいお茶を一気に飲んでから、「ぷはっ」とわざとらしく言ったあとイスに深く腰掛けてお腹をぽんぽん叩いていた。


「あ〜、お腹いっぱい!!」

「じゃあアイスはまたの機会だな」

「え〜食べれるよ〜」

「まだ残ってるじゃん、食えよ全部」

「そうよ、ちゃんと全部食べてからじゃないとアイスはだめよ」


お母さんからのダメ出しに口を尖らせたけいすけは、反抗するかと思ったけど何故かちゃんと残りもしっかりと食べた。


(あれ、・・・・珍しい)


「お兄ちゃんは食べたら部屋に戻る?」

「ん?あぁ、戻るよ」

「僕も一緒について行っていい?」

「いいよ。どうせお前俺の布団で寝るんだろ」

「うん」

「今寝たら夜寝れなくなるぞ」

「それは大丈夫」


ドヤ顔をして返事をした弟は、俺が食べ終わるのを大人しく待っている。いつもどおりの速さで食べ終われば、お父さんもお母さんも同じように食べ終わって皆で片付けをした。



「兄ちゃん、早く部屋に行こう!!」

「あ〜、はいはい」


妙にはしゃいでいる様子だけどアイスはもういいのだろうか。お父さんとお母さんはそんなけいすけを見て少し呆れたように笑っている。



「ちょっとしばらく部屋にこもるわ」

「わかったわ」

「けいすけ、お兄ちゃんの勉強の邪魔しちゃいけないよ」

「うん!大丈夫だよ」


(ほんとか)


俺からしたら何かを企んでいるようにしか感じられないんだがと思いながらも、急かすように俺の手を取って引っ張って行くからそれにつられて俺も一歩が大きくなった。




「けいすけ、なんでそんなに急いでんの?」 

「しーっ」


(は?)


部屋に入って、戸を閉めると警戒したようにいきなり人差し指を口の前に持ってきて静かにしろと俺にジェスチャー。


意味が分からず彼の仕草に固まっていると、次に発した声は随分と小さい声だった。



「帽子見つけてくれたお礼にね、兄ちゃんに面白いこと教えてあげる」


(面白いこと?)


「なに?」

「・・・・」


背丈のかなり違う俺に腰をかがめるようにちょいちょいと手招きした弟は、屈んだ俺の耳元に、外に声が漏れないように両手で壁を作ってくぐもるような声でこそっと耳打ちしてきた。



「ちょっと前からさ、知らないおじさんが小学校の近くうろついてるの、知ってる?」


(は?)



部屋には俺とけいすけしかいないから、わざわざそんなことする必要はないのだが、本人からすると相当内密な情報らしい。


「・・・・知らないおじさん?」

「うん。ちょっと顔が怖かったけど。でもここの人じゃない感じがした」

「どういうこと?」

「ん〜、分かんないけど・・・なんとなく」

「・・・なんとなく?・・・それ他に誰か知ってんのか?」

「知らないよ?僕だけだよ。まだ誰にも言ってない。兄ちゃんが初めて」

「・・・・・」


けいすけが言う知らないおじさんが、どんな人なのか情報がなさすぎて全く想像がつかない。ここは田舎だから毛色の違う人がいればかなり目立つと思うのだが。



「パパには絶対内緒だよ」

「・・・・え、なんで?」

「だめだよ。言ったらだめ」

「だからなんで?」

「だって、パパ凄い心配するから・・・・そんなこと言ったら外に出してもらえなくなっちゃうよ」

「・・・・」


(あ〜・・・・そういうことね)



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