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消えた弟  作者: しおやき
第二章 承

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39/73

弟の行方2




リビングを見渡すと洗濯物はソファの上に投げっぱなしのままだ。


「・・・・なんでこのまま?」


洗面所やトイレを探してもいる気配がない。

2階にあがり念のため自分の部屋も見てみたが、当たり前に誰もいない。


(次は・・・)


お父さんとお母さんの寝室に入るのはなんとなく気が滅入るけど、ノックをしてドアを少し開けて中を確認すれば何も問題はないはずだと思い遠慮がちにドアを叩いた。



コンコンッ


「・・・・」


中から返事はなくて、『入るよ』と軽く声掛けをしてすぐにドアノブに手をかけそのまま開けた。



「・・・・なんだ・・・いるじゃん」


ホラーかよ、と思わず言いそうになったのは母親がベッドの脇に座り込みスマホを握りしめたままの状態で体育座りをして顔を膝にうずめていたから。


「母さん・・・なにしてんの」




自分の母親とはいえ最近の彼女の不可解な行動に少し気持ち悪さを覚えてくるのは今に始まったことじゃないけど、呆れてため息もでない


近付いて体を揺さぶるとビクッと一瞬動いてからゆっくりと顔を上げそこで目が合った。彼女の瞳から特に何かを感じ取れるわけでもなく、ただ俺を呆然と見つめている。


「・・・・・大丈夫?」

「・・・・」

「なにしてんの」

「・・・・・」


(無視ですか)


何かを言っても返事は期待できなさそうだと思って、痛くなってきた頭を抱えながらお父さんにスマホで連絡を入れておいた。


【母さん寝室にいたよ。なんか様子変】



それだけ送信してから、振り返りもせずに寝室を出た俺はリビングに戻り洗濯物だけ片づけてから自分の部屋に行き布団に横になった。





「・・・・どこにいるんだ」



見つめる先は天井で、話しかける相手はいないから全部独り言になってしまう。この短期間でいったい何が起きているのか理解できない俺の頭は、父親にけいすけのことを告げたことによって多少落ち着いていた。



そしてしばらくすると、色んな意味で緊張感がとけたのか瞼が重くなり知らないうちに眠りについてしまった。





=======




「っ・・・・?」



何かの音で目が覚めて、自分が寝ていたことに気が付いた。


そしてふと窓の外に目をやると雨が降っている。



「・・・・え」


飛び起きて枕元に置いていたスマホを慌てて探し、手に取って見たその待受に表示されていた時間は18:46。軽く放心状態になりながら俺はそのままゆっくりと立ち上がり引き寄せられるように窓に近付いた。



「・・・・・」


降っていたのは窓を殴りつけるような激しい雨で外はまるで見えない。


いつから降り始めていたのだろうか、雨粒が大きく窓に張り付いてからすぐにタレ流れていくさまが見えると同時に自分の寝起きの顔がそこに微かに映し出されている。



「・・・あっ」


水滴に流されて部分的に消えていく窓に映った自分の顔に、そういえばと時間を見た時に通知が入っていたことを思い出した。


右手に収まっていたスマホをタップして中身を確認すると、差出人は父親からで、俺の連絡に返信してきた形だった。



【分かった】


一言、たったそれだけ。



お母さんのことを心配するわけでもなく、かといってけいすけのことについて何か書いているわけでもない。途中から降り始めたであろうこの豪雨にスマホを取り出してわざわざ打ち込む時間も惜しいのかもしれない。



雨が止んでしばらくしたら空から雲がなくなればいいのにと思ったけど、夜だからあんまり意味はなくて、とりあえず無事にけいすけが見つかってくれればそれでいいと寝起きで無責任な考えが頭を過る。


「・・・父さん・・・どこ探してるんだろ」




慌てて起きるとどうしてこうも疲れがどっと出るような感覚に陥るのだろう。喉が乾いてなにか飲もうと部屋を出た俺は、もう一度父親に連絡をしたほうがいいのか迷いながら階段を降りていた。



(・・・あれ、何か匂いする・・・・母さん?)


降りきってリビングに足をついた俺の目に飛び込んできたのは、背中をこちらに向けていた母親が振り返り何事もなく台所に立って夜ご飯の準備をしているところだった。



「・・・・」

「あ、こうすけ、体大丈夫?」


(・・・は?)


「お腹空いたでしょ。ごめんね、今夜ご飯作ってるからちょっと待っててね」

「・・・・」

「お昼も食べてないわよね」

「・・・」


けいすけの話題に触れたくないのか、夜ご飯の話をしてきた母親。忙しなく動いてそうに見えるそんな彼女は今何を考えているのだろうか。


喉が渇いていたことも忘れて呆然としたまま俺はその場に立ち尽くしていた。



「・・・なに言っ」

「お、お父さんには何回か・・・・連絡したのよ・・・・でも・・・繋がらなくて」

「・・・それは・・」


知ってるよ。お父さんが教えてくれたから。


「あ、あとお父さんもう少しで帰ってくるって。さっき連絡入ってたわ。だからこうすけは今のうちに先にお風呂入りなさい。お父さん戻って来たら多分すぐにお風呂入りたいだろうから」



早口で言ったお母さんの手元からはお皿のぶつかり合う音が聞こえてくる。いつもはこんな音しないのだが。



(わざとか?)


「・・・・分かった。風呂行ってくる」


いくら聞いても答えてくれなかった。

だから、今聞いてもけいすけのことについてはまた答えてくれないのだろう。俺は喉まで出かかった言葉を止めて大人しく風呂に向かった。




(・・・・あの男の人のことも・・・気になる。知り合い?にしても・・・どこで知り合ったんだ?)


もしかして浮気?

けいすけはその人との子どもとか?


風呂に向かう途中も、入って体を洗っている時も、上がってドライヤーで髪を乾かしている時もあらゆる考えが頭の中で蠢く。


「・・・・もしかして母さんがけいすけに何かしたのか?」


疑えば疑うほど、何が本当なのか分からない。今の頼みはお父さんだけで、お母さんと2人で一緒にいる時間が嫌になった俺は彼に早く帰ってきてほしくて出来上がった夜ご飯を食べながらお父さんとのやり取りを見返すためスマホの方ばかり見ていた。


(・・・・まだ帰ってこない)



そんな中、母親とスーパーから帰ってきたけいすけが口を尖らせながら俺に訴えかけた言葉がふと頭をかすめる。


  『ママと2人は嫌だ』


「・・・・」

「どうかした?」

「・・・え?いや、なんでもない」


(・・・・くそっ)


動きが突然止まった俺に母親は無駄に心配の声をかけてきたけど、目も合わせず冷たく返して会話はそれだけで終了。




結局その後お父さんが帰ってきたのは、もうご飯も食べ終わりソファに座ってテレビをつけたちょうどその時、夜の9時を過ぎたあたりだった。



ガラッと音がしてすぐにソファから降りて玄関へ向かった俺は父親の姿に一瞬たじろいだ。


「っ・・・と、父さん?」

「ん?あぁ、こうすけ。ただいま・・・・はぁ、遅くなった・・・よっ・・・ごめんね。体調の方はどうだ?」

「・・・・大丈夫・・・だけど」


傘もささずに雨ガッパを着てけいすけを探していたらしい。玄関に入るとすぐに全身ずぶ濡れの状態で黒のカッパのフードだけを取りながら疲れた顔を覗かせる。


「なら良かった。ちゃんと寝たか?」

「・・・・うん」

「そうか・・・。いやー、凄い雨だよ・・・・こりゃあ明日の朝まで降り続くやつだな」

「・・・父さん」



 『けいすけは?』


せっかく悪天候の中1人で探してくれたお父さんの体を気遣いもせず、弟のことを聞こうとして口を開きかけた。先にお父さんに視線を合わせると俺の言わんとしている事が分かったのだろう、父親は首を横に振り、黒のカッパを脱ぎながら続けてこう言った。



「山の奥の方まで見に行ったけど、居なかったよ」






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